「もし、あなたの町の水が汚染されていたら?」
広島で上映中の映画「ウナイ」が注目を集めている。テーマは県内でも問題となっている「PFAS汚染」。子どもたちの未来を守ろうと立ち上がる世界の女性たちを描いた作品だ。
広がるPFAS汚染の恐怖
広島市西区の横川シネマで9月14日から上映されている映画「ウナイ」。焦点を当てるのは、発がん性など人体への有害性が指摘され世界的に規制が進むPFASだ。
PFASとは有機フッ素化合物の総称で、水や油をはじく特性を持ち、かつてはフライパンや防水スプレーなど生活用品に幅広く使われてきた。
2016年、沖縄でPFAS汚染が発覚。「発生源は嘉手納基地である可能性が高い」と報道された。アメリカ軍は防衛省に対し、1991年~2009年にPFASを含む泡消火剤を使って訓練していたと回答している。

広島県でも福山市・東広島市・呉市などで高濃度のPFASが検出されている。そのうち東広島市では、アメリカ軍川上弾薬庫周辺の井戸水から国の暫定指針値の最大300倍のPFASを検出。高垣廣徳市長は「災害と同じようなことが起きた」と危機感を口にし、住民からも「腹にたまっているかもしれない」「100%恐怖」と不安の声が上がった。

東広島市が住民に対し行った臨時の健康診断では、善玉コレステロール値が他の地域と比べて明らかに低いことがわかった。しかし、専門家はPFASによる影響と断定できないとし、血中濃度の測定など詳細な調査も医学的な評価が難しいとして実施されていない。
“赤ちゃんの発育低下”も指摘
特に深刻なのは乳児・胎児への悪影響だ。映画では、海外の専門家が「発達システムを妨げるなど子どもにダメージを与える」と指摘し、PFAS汚染に立ち向かう欧米の女性や沖縄の女性たちの姿が描かれている。

東広島市における汚染の現状も映画で取り上げられた。
平良いずみ監督は広島の舞台挨拶でこう訴える。
「東広島市の20世帯と局所的ではありますが、ものすごく高濃度なんです。行政は、汚染された水を飲んできた方たちの血中濃度を測ってきちんと医療モニタリングを進めるべきです。将来アメリカ軍に責任追及をするときに、データとして持っていられるかどうかだと思うんですね」
その日、会場には東広島市から駆けつけた住民もいた。自費で血液検査を受けたというその女性は、1mlあたり838.8ng(ナノグラム)という異常な数値を提示した。

アメリカの学術機関が「健康に影響がない」とする上限は1mlあたり2ng。2~20ngで妊婦などに悪影響の可能性が指摘され、それ以上は腎がんや精巣がんなどのリスクが増すとの見解を示している。住民女性はその40倍以上にあたる。
「これだけの数字を行政に伝えても、市役所は何も対処しない。あきらめモードです」と女性は語った。
世界と日本の温度差…「まず知って」
近年、世界ではPFASの基準を厳しくする流れが強まり、日本でも水道水のPFASについて、現行の暫定目標値(50ng/L)を「水質基準」として格上げする方針が固まった。しかし、平良監督は「世界に比べて日本の規制はまだ緩い」と指摘する。

水俣病のように原因が特定できる被害と違い、PFASには発がん性や低体重児、流産など複数の要因が含まれる可能性があるため被害を断定することは難しい。だからこそ“見えない恐怖”が人々を追い詰めている。

タイトルの「ウナイ」は沖縄の言葉で「姉妹」や「支え合う関係」を意味し、子どもたちの未来を思って声を上げる女性たちの姿に重ねられている。
「PFASという物質をまず知ってほしい。そして自分事としてこの問題を考えてほしい」
そう話す平良監督。生活に欠かせない水をどう守るのか、映画を通して観客一人ひとりに問いかけている。
映画「ウナイ」は9月26日まで横川シネマで上映。その後、福山駅前シネマモードでも上映される予定だ。
(テレビ新広島)