瀬戸内海島しょ部にある江田島市と呉市を舞台にした映画「やがて海になる」が8月29日から広島で先行上映されている。地元出身の監督・沖正人さんと主演・三浦貴大さんに、作品に込めた思いや撮影秘話を聞いた。
故郷・江田島で映画を撮る意味
江田島で生まれ育った幼なじみ3人の思いが交錯する映画「やがて海になる」。高校時代の回想シーンを織り交ぜながら展開する大人の青春物語だ。

監督は江田島出身の沖正人さん、主演には実力派俳優の三浦貴大さん。2人に作品の背景と撮影秘話を聞いた。
ーー今回、初めて故郷で撮影されました。どんな思いを込めましたか?
沖監督:
7年前に母を亡くして帰る実家がなくなり、僕はどうやって地元とつながろうかと考えました。映画でつながるしかないなと思って、脚本を書き始めました。始まりはそこからです。

ーー撮影で改めて感じた江田島の魅力は?
沖監督:
地元を離れて30年経ちますが、こんなに長く滞在したの学生時代以来でした。知らないうちに失ったものもあるし、新しい気づきもあった。久しぶりに会った人もいて、お互い平等に年とったなって感じがしますね。
主人公は「どこか自分とつながる」
三浦貴大さんが演じたのは、これまで一度も島から出ることなく生きてきた主人公・修司。家の畑で父親が突然死して以来、うだつの上がらない生活を送っている“中年ニート”の役だ。

ーー脚本を読んでどう感じましたか?
三浦さん:
実年齢に近い役柄でした。幼なじみの3人が再び青春を送るような描写が多く、どこか自分とつながる部分もあって、こういうのいいなと思いました。

ーー今回、撮影が行われた江田島の印象は?
三浦さん:
広島で撮影した作品は3本目で、かなり縁を感じています。江田島は初めてでしたが本当にいいところで。実際の設定と同じ場所で修司の役を演じられたのは大きかった。やっぱり現地の空気感がすごく大事なので、そこで撮影できたことは本当に幸せです。
監督も絶賛する「完璧な広島弁」
今回の映画制作にあたり、沖監督が特にこだわったことがある。自身が生まれ育った広島の言葉だ。8月21日、映画の完成を記念して広島県の湯崎知事に映画をPRした際、監督は「広島弁を徹底的に練習してもらった上で現場での方言指導も私がやりました」と話していた。
ーー自然な広島弁は役者さんにとって難しい?
沖監督:
早い段階から台本を私が声で吹き込み、役者の皆さんに渡しました。ただもう三浦さんは完璧でしたね。

三浦さん:
現場でもそう言っていただいて。標準語に近いイントネーションが結構多いのでしゃべりやすい部分もあったんですけど、「ありがとう」という言葉は難しかったです。
ーー標準語の「ありがとう」とアクセントが違いますよね。
沖監督:
広島弁の「ありがとう」は温かみがあるというか。地元の人にとって大事な言葉です。
瀬戸内の暮らしと“大人の青春”
父の死に責任を感じ、生きていくことに戸惑う修司について、三浦さんは「ダメなやつではあるんですが、なんか所々僕と似てるような部分もあってすごく感情移入がしやすかった」と話す。
ーー撮影の中で思い出深いシーンは?
三浦さん:
海に浮かぶシーンですね。ちょっときれいに浮きすぎて気持ち悪いなと思うぐらい。浮き輪も何もなく自然に浮いて、自分でもびっくりしました。気持ちよかったです。

沖監督も「気持ちよさそうでしたね」と笑う。
監督の中にある“故郷の記憶”を飾らない演技で表現する三浦さん。二人がつくり出すリアリティーがこの映画の魅力でもある。
ーー改めて、映画の見どころを。
三浦さん:
優しい映画です。難しいことを考えずに見られますし、大人がもう一度青春していいんだと思えるところはやっぱりとてもいいなと感じます。
沖監督:
派手さはありませんが、瀬戸内の静かな暮らしをリアルに波の音から風の気配まで徹底的に描きました。地元の方に「これ広島だよね」と思ってもらえる映画になったと思います。
映画「やがて海になる」は、広島市中区の「八丁座」で8月29日から先行上映され、呉市の「呉ポポロ」でも9月5日から上映される。広島を皮切りに、10月24日から全国でも順次公開される予定だ。
(テレビ新広島)