ホウレンソウの品種名が強そうと話題

皆さんは野菜を購入するとき、品種名に注目したことはあるだろうか。日常だと気に留めることはないかもしれないが、今、ホウレンソウの品種名が“強い”と注目を集めているのだ。

Twitterには「バハムート」「スナイパー」「オシリス」などのほか、「ジャスティス」という正義感満載の品種があることも投稿されている。いずれもホウレンソウのイメージからはかけ離れていて、神話や映画などに登場していそうな言葉ばかりだ。

ジャスティスという品種名も(提供:サカタのタネ)
ジャスティスという品種名も(提供:サカタのタネ)
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Twitterユーザーからは「名前すごいなw」「なんでだろ、ポパイのイメージ?」という反応も見られたが、なぜこんな品種名が付いているのだろう。どうやって決めているのだろうか。

その真相を探るべく、「ジャスティス」を販売している、様々な野菜を扱う種苗会社「サカタのタネ」に聞いてみた。

ジャスティスの由来は「正義の品種」

ーーホウレンソウの品種名はどう決めている?

種の商品化が決定した後、販売戦略など営業施策を統括する部署で品種名を決めています。品目ごとの担当者が提案して決まる場合もあれば、部署で意見を出し合って決まる場合もあります。


ーー品種名の由来に影響する要素はあるの?

品種の作型(タネをまく時期、まいてから収穫までにかかる日数など)や特徴のイメージから名前を付けることが多いです。


ーージャスティスという名前の由来は?

ジャスティスは2016年5月に発売しましたが、その1年ほど前には品種登録をしたので、2015年の春ごろには決まっていたと思います。名前の由来は、生産者の方を裏切らない(正義の)品種という意味で付きました。ホウレンソウは一般的には冬の野菜で、3月に種まきできる品種もありますが、実際には暑さで生育に向かないこともあります。

そうした中、ジャスティスは遺伝子、性質的な部分を選抜して作った品種です。3月下旬には種まきができますし、しっかりと生育します。

ジャスティスはこのように成長する(提供:サカタのタネ)
ジャスティスはこのように成長する(提供:サカタのタネ)

ーー品種名を公開したときに反応はあった?

ジャスティスの品種名が公開されたのは、プロの生産者向けに発売した時でしたので、反応は特にありませんでした(生産者の方には品種名より、品種の特性に注目していただいています)。一般の方の目に留まることもなかったと思いますが、今回のように人づてに伝わっていくときに、品種名の重要さや効果が発揮されると実感しています。


ーー品種としての特徴や魅力は?

真夏の暑さに強くしっかり伸びるのが特徴です。春夏のホウレンソウ栽培の主要な要素をバランスよく押さえているため、幅広く生産できる品種です。


ーーネットではジャスティスという名前が話題だが、受け止めは?

ジャスティスは真夏の暑さに強くしっかり伸びる品種なので、強いというイメージが品種名から伝わったということで品種名の効果を感じました。認知され、ありがたいと思っています。

2016年頃にサンシャイン池崎さんの「ジャスティス!」というネタもあって、ジャスティスという言葉での検索などが増えたことで、認知されてきたのかもしれません。

人の記憶に残るように考えている

ーーホウレンソウの品種名が特徴的なのはなぜ?

ホウレンソウに限らず、多くの野菜品種で特徴的な名前が付けられています。種苗業界全体を見ても特徴的な名前が多いと思います。ホウレンソウの担当者によると、人の想像から少し外すことで、人の記憶に残るよう品種名を考えているそうです。また、生産者の方になじみやすいものにすることも心掛けているそうです。


ーー品種名の付け方にルールはあるの?

ルールはありませんが、「シリーズ」の品種となる場合はそのことがすぐわかるような名前にすることはあります。例えば、当社のホウレンソウにはドンドン穫れて!ドンドン儲かる!!をキャッチフレーズとした「ドンドンシリーズ」があります。現在は「ドンキー」「ゴードン」「ハイドン」の3品種がラインアップされていますが、名前には全て「ドン」がついています。

名前としてつけていけないものは、他社品種を想起させるような名前(似ている名前)、反社会的な言葉や差別用語など、誰かが悲しんだり嫌な気持ちになるような言葉は選ばないといった程度です。特に変わったルールはありません。

ドンドンシリーズの一つ「ゴードン」(提供:サカタのタネ)
ドンドンシリーズの一つ「ゴードン」(提供:サカタのタネ)

カボチャ「ブラックのジョー」、ブロッコリー「おはよう」珍名が続々

ーー他にも変わった品種名が付くことはある?

当社だと、ホウレンソソウではドンドンシリーズのほかにも、「クロノス」「トリトン」「オシリス」「アトラス」といった、神様の名前にちなんだものがあります。

このほか、カボチャだと「ブラックのジョー」という品種名もあります。これは「黒い(ブラック)果皮の色が常(ジョー)に保たれる」という特徴から命名されました。「あしたのジョー」とのコラボなどもあったため、想像以上に品種名が品種の普及の手助けになりました。

「ブラックのジョー」は名前にふさわしい色つや(提供:サカタのタネ)
「ブラックのジョー」は名前にふさわしい色つや(提供:サカタのタネ)

ブロッコリーだと「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」という品種もあります。これは作型の違いを分かりやすく表現したものです。熟期(播種してから収穫までの期間)の長さが短いものを早生、中間を中生、長いものを晩生と言います。「おはよう」が早生品種(正確には中早生品種)、「こんにちは」が中生品種、「こんばんは」が晩生品種です。

これが「こんにちは」(提供:サカタのタネ)
これが「こんにちは」(提供:サカタのタネ)

3品種を一度にまけば、まず95日前後で「おはよう」が収穫できるようになり、次いで「こんにちは」を105~110日で収穫、最後に「こんばんは」が150日程度で収穫できるといったリレー収穫(出荷)が可能になります。

こっちが「こんばんは」(提供:サカタのタネ)
こっちが「こんばんは」(提供:サカタのタネ)

ホウレンソウのジャスティスという名前は面白半分ではなく、生産者を裏切らない正義の品種という意図でつけられたものだった。普段は何気なく食べている野菜も、品種名の由来を調べてみると、どこか味わいが変わってくるかもしれない。
 

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プライムオンライン編集部
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