「働き止め」で「ブラック職場」解消なるか?

板倉千鶴校長と視察に訪れた柴山文科大臣
板倉千鶴校長と視察に訪れた柴山文科大臣
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来年の教育大改革に向けて、いま文科省が国を挙げて行っているのが「ブラック職場」と言われる教師の働き方改革だ。教師の業務は、子どもの学びに関わるものだけでない。部活動や報告書の作成、保護者とのやりとり、いじめなど重大事案への対応などで、職員室は長時間労働の温床となっている。

文科省では教師の勤務時間の上限にガイドラインを設けることにしているが、果たして「働き止め」だけで「ブラック職場」は解消するのか?

「先生たちが元気で笑顔」を目指して、先進的な取り組みをしている横浜の小学校を取材した。

「大人のチャイム」導入

「ピンポンパンポン」

横浜市立北山田小学校では、午後4時45分と午後6時45分の2回、職員室内に音楽が流れる。「大人のチャイム」と呼ばれるこの音楽、午後4時台は「星に願いを」、午後6時台は「カントリーロード」がセットされ、職員室にあるパソコンから自動的に流れる仕組みだ。

このチャイムを発案したのは、板倉千鶴校長だ。3年前に校長として就任して以来、矢継ぎ早に学校業務の見直しを行ってきた。去年の夏にチャイムを導入して以来、教職員が時間を意識するようになったのが大きな効果だと板倉校長は語る。

「いままでは時間で仕事するのではなく、『今日はここまでマルつけしよう』と量でやっていました。だけどチャイムを導入して、『もうすぐ7時、もうこんな時間か、止めようかな』と時間で働く感覚になりましたね」

チャイムはパソコンに内蔵された機能を活用し、追加費用無しだ。

また、横浜市が導入している「庶務事務システム」によって、先生は出退勤だけでなく、出張の旅費精算や、休暇取得申請などを、すべてオンラインで作業出来、ペーパーワークの削減につながっている。さらにこのシステムでは、教職員の出退勤がICカードで管理されている。

「ペーパーレス職員会議」で情報共有

「ペーパーレス職員会議」のモニター
「ペーパーレス職員会議」のモニター

ICTを活用した改革は他にもある。

その1つが「ペーパーレス職員会議」だ。これまで職員会議で伝えられていた連絡事項をPCに入れることで、打ち合わせ時間の短縮につながった。また、各自がPCに連絡事項を打ち込むことで、これまで口頭で伝えていた情報を職員室内のモニターで見える化し、教職員間で常に共有できるようになった。

また、保護者との連絡業務についても、ICTを活用している。

「まちこみ」というアプリを保護者に登録してもらうことで、災害時の連絡だけでなく、保護者へのアンケート調査も配信できるようになった。アンケート結果は自動的に集計され、先生のペーパーワーク軽減につながっている。

「たとえば修学旅行の承諾書とか、学校と保護者の間には連絡がたくさんあります。しかし、保護者は子どもに託しても、それが先生に渡るかどうか不安ですし、学校で子どもに配ったものが保護者に届くかどうか、先生も不安です。こうしたことが圧倒的になくなりましたし、誰が提出しているか、先生がチェックして名簿につけることも無くなりました」(板倉校長)

ほかにも北山田小学校では、通知表の所見の記載を簡素化したり、プール清掃を外部委託したりと、教職員の業務負担軽減策を次々と行っている。

教科担任制の導入

ICT支援員によるプログラミング学習
ICT支援員によるプログラミング学習

さらに北山田小学校では、授業の改革も行っている。

その1つが小学校には珍しい教科担任制の導入だ。小学校の先生は1人ですべての教科を教えることが多い。しかしこの学校では、教科担任をつくることで、担任の先生がすべての教科を教えるのではなく、1つの教科を自分の受け持つクラス以外(同学年)でも教えるのだ。先生が互いにサポートし合える仕組みとも言え、この学校では学期中は取りづらい年次休暇を計画的に取得できるという。

「そうすると先生は教材研究や授業の準備が減るんです。やってみたら働き方改革だったねと」(板倉校長)

もう1つが、算数などの授業で、習熟度別に「はってんコース」「ていねいコース」「じっくりコース」と3つのコースに分け、子どもが個々に合ったコースを選ぶことで、より理解度を深めるようにしていることだ。さらに横浜市の支援も受け、デジタル教科書の活用やICT支援員によるプログラミング学習も行っている。

北山田小学校を視察に来た柴山文部科学大臣は、「児童も満足しているだろうし、教員の方々も負担軽減によってストレスが減るという好循環が生まれてくるのかと思う。このような学校における働き方改革や先端の学びの実装をしっかりと国としても加速し、全国展開をしていきたい」と語った。

教師のストレスチェックも重要

北山田小学校では、毎年行われている教職員のストレスチェックの値が、横浜市内の小中学校の中で2年連続の最良値となっている。

板倉校長は言う。
私のモットーは『みんな笑顔の暖かい学校』です。みんなは、子ども、保護者、地域の人、教職員、そして教職員の家族も笑顔でないと教職員は元気で働けないと思っています。たとえば、先生の子どもが小さくて熱を出し、みんなにすみませんと言って休むんだけど、すまなくないからと。自分や家族のために休みを取っていいよという、みんなの理解ですよね。それによって休まなければいけない人は気が楽になる、負担感が減るわけです」

教師の働き方改革によって、学校の学びは変わる。改革はちょっとしたアイデアと工夫、そして何より教職員の意識変革から生まれるのだ。

(取材&写真撮影:フジテレビ 解説委員 鈴木款)

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鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。