“減反”から“増産”へ。
5日、政府が示した米政策の大転換に、関西の農家からは「唐突」と対応への不安の声が聞かれました。
また専門家は米の価格に反映されるのは来年産からという見解を示し、「5キロ当たり3500円より安い新米も出てくるのでは」と述べました。
■米の増産へ
【石破茂首相】「『米を作るな』ではなく、増産に前向きに取り組める支援に転換をいたします」
5日行われた、関係閣僚会議で、石破総理は「米の“増産”にかじを切る」と発表。
その理由は…。
【石破茂首相】「米の需要量を見通すにあたって、足元の家計の動向などに立ち返った把握ができていなかった。こうした点が不十分であるにもかかわらず、生産量が足りていると判断していた」
農林水産省の米の需要の需要の見通しと、実際の需要にかい離があったことや、備蓄米の放出が遅れたことなどが、「価格の高騰」を招いたとの分析を示したのです。
■「見通しが甘かった」と小泉農水大臣が責任認める
これまで「米は足りている」としてきた農林水産省の見解から、180度大転換した形に…。
小泉農林水産大臣も「見通しが甘かった」と責任を認めました。
【小泉進次郎農水相】「リアルタイムで消費の動向を含めて、把握をするべきだったが、そこの判断を見誤ってしまった」
■「正直今さら」「唐突」「現状維持が精一杯」と米農家の反応
今回の“大転換”について、近畿有数の米どころ豊岡市の農家は、どう受け止めているのでしょうか?
【米農家 澤卓利さん】「今更というのが正直な感想。どう具体的な策を取るのか気になる」
【米農家 松井栄作さん】「唐突というのが印象。増産の方に向けていった方が良いのではないかというのもあるが、投資の面とかでも、若干難しい所もある」
聞こえてきたのは、今後の米作りへの不安の声。
というのも、これまで日本の米は生産量を調整する「減反政策」が、2018年までおよそ50年間行われてきました。
しかし、減反政策が廃止された以降も、生産量の“目安”を示したり、麦や大豆に転作する農家に補助金を出したりする“事実上の減反政策”が続いてきたため、今回の政府の方針に、農家は戸惑いを隠せないのです。
【米農家 松井栄作さん】「小麦や大豆の栽培にも取り組んできて、その部分の投資もあるので、いきなりゼロにするのは難しい」
さらに農家からは、政府に対し具体的な方策を求める声も。
【米農家 北垣裕次さん】「現状の圃場(ほじょう)を維持するのが精一杯ですからね…。できるだけ人手がかからないように作れる体制、それに対して全額とは言わないが、補助金を出してもらって、若い人が農業だけでも、(生活)できる体制にしてほしい」
■増産が実現すれば「令和8年産から米価格5キロ3500円より安い新米も」と専門家
一方、気になるのは、増産された場合、今後の米の価格がどうなるかについて。
専門家は…。
【流通経済研究所 折笠俊輔主席研究員】「米価の変動は、令和8年産の方できいてくる話になりますので、令和7年産は5キロで3500円台。令和8年産はこれよりも数百円安い相場。3500円を軸にしながら、それよりも安い新米も結構出てくる感じ」
政府は、「放棄されている農作地の拡大の食い止めや、輸出の抜本的な拡大に全力を挙げる」としていますが、果たして、この大転換で米の安定供給が実現するのでしょうか。
■「セットで農家への補償を」と鈴木哲夫さん
ジャーナリストの鈴木哲夫さんはゴールデンウィーク前に石破首相に直接取材をした時のことを、「(石破首相が)総理としてやろうとしてることは、3つあった。自衛隊の待遇改善、地方創生、そして防災庁。4つ目が出できた。それが米改革。だから石破総理の中では、『絶対にこれやるんだ』という思いがある」と話しました。
【鈴木哲夫さん】「僕は改革は絶対やるべき。食の安全保障という意味では、作り過ぎて作り過ぎることはないと思ってる。ただそれをやるときに大事なのは、『セットで農家への補償を』ということなんですよね。だから安全保障上、有事があったら国内で食べるものを作っていかなきゃいけない。米をたくさん作る。いいお米は海外に輸出する。それから流通を変えていく。そういうものとセットで、やっぱり価格がどんどん下がっていきますから、増産すると。だから『農家への補償』。これも絶対セットでやる。これは全部セットで、僕は改革をすべきだと思います」
「人手がかからないように作れる体制」「補助金を出してほしい」という農家の声を実現できるでしょうか。
【鈴木哲夫さん】「これは、『何で農業だけ』と批判する人もいるんだけど、僕は食の安全保障、もう1つエネルギーも。つまり何か、有事があったときに、自分の国で賄えないと、外に輸入ばっかり頼ってちゃダメなわけでしょう。だからそういう意味で、ヨーロッパなんかは食を作り続けるために、税金かけている国もあるわけですよ。だからその辺は根本的に議論して、僕は考え方を『食の安全保障』という意味で、変えて行ったほうがいいと思います」
■「切磋琢磨も含め産業化を目指せ」と橋下さん
橋下徹さんは「切磋琢磨も含め産業化を目指せ」と話します。
【橋下徹さん】「僕は切磋琢磨、ある意味競争も含めて、産業化を目指せ。今までは、作れば作るほど、もちろん量が増えれば価格が安くなるんです。そうすると安くなると農家さんの収入が減るということで、作らせないようにしていた。これ産業じゃないですよ。どの産業も普通は作る方にみんな力を入れるわけです。作る、儲ける。だからそこに若い人たちは就職する。これが産業なんです。
作らないっていうことになれば、もう若い人たち就職して来ないです。だからこれは完全に株式会社も入れながら、産業化を目指して、しっかり若い人たちが働けるような、福利厚生もできるような企業体に僕は変えていくべきだと思います。
と同時に、補助金という所で、農家の所得補償ということで、『えっなんで農家さんだけ』と言うんですけど、いやいやこれ産業と考えれば、産業に対して補助金なんてもう日本中色んな所に入ってるんですよ。どの産業にも補助金が入ってるんだから、産業としての補助金ということで、僕は税金入れればいいし。
それから産業であれば、外国のものとも戦わないといけないです。日本の自動車産業がここまで強くなったのは、関税ゼロで外国の自動車と戦って、日本車の方が圧倒的に上になったわけですよ。それと同じように僕はお米についても、農産物についても、一定外国から入れて、そこに勝てるように。しんどいけども一生懸命頑張って。でも『どうしてもだめだ』という所は、産業の助成金として税金入れればいい。とにかく産業化して、若い人たちが農業に希望が持てて、福利厚生もあって、そこにどんどん入って来るようにしなきゃいけないと思いますね。頑張ってほしい」
政府がどれだけ本気を持って取り組めるか注目です。
(関西テレビ「newsランナー」2025年8月6日放送)