あの日をどう次世代へつなげていくか考えているのは、ここ広島にいる人たちだけではありません。子どもたちへどうつなぐか模索する東京の出版社を取材しました。

この夏、戦後80年に合わせ3冊の児童書が発売されました。
舞台は沖縄、広島、長崎。戦争の惨禍を目の当たりにした場所です。

手がけたのは、東京にある童心社。創業69年です。
絵本の累計部数1位を記録した「いないいないばあ」を始め様々な絵本を世に送り出してきました。

今年6月、戦後80年の夏に向け打ち合わせが行われていました。

【童心社・橋口英二郎編集長】
「80年というと、戦争を経験した人が当然もういなくなるような年月が経っていると考えると、このタイミングで私たちが何かを表現して次の世代に伝えていくということはますます大事な年なんじゃないかなと思いますね」

童心社が平和の作品に重きを置くのには理由があります。
1957年に紙芝居からスタートした童心社。
創立メンバーの1人、稲庭桂子さんには、戦時中の苦い経験がありました。

【童心社・橋口英二郎編集長】
「戦時中、紙芝居は戦意高揚のためのプロパガンダとして国策を盛り込んだ紙芝居がたくさん作られたんですね」

1941年日本が東南アジアに侵攻し戦争が本格化すると、子どもたちをめぐる環境も軍国主義に染まっていきました。
当時使われていた「国策紙芝居」が童心社に残っていました。

【童心社・橋口英二郎編集長】
「戦地でどのように日本軍が活躍をして戦って勝利を挙げたかみたいなものが描かれているものを演じることで、日本にいる子供たち、大人も含めて戦意を高揚させてもっと戦争に協力しなければいけないという目的のために使われていました」

戦時中、軍の情報統制に加担してしまった後悔。
それは、豊かな紙芝居をもう一度子どもたちの手に取り戻すという決意に変わりました。

【童心社・橋口英二郎編集長】
「本当にいい紙芝居を作って子どもの文化も含めて、自分たちの手で新しく作り上げていこう」

「子供たちに心の栄養を」とこれまで紙芝居およそ450点を送り出しました。
同時に平和を願う絵本も積極的に手がけてきました。

戦後80年にあわせ、発売した本の1冊は広島の原爆を題材にしたものです。

【絵本読み】
「今日、あさ8時15分、あなたは何をしていましたか」
「1945年8月6日、あさ8時15分ちいさかったわたしはー」

当時の広島のこどもたちが、原爆で経験したことを作文に遺していてそれを現代の子供向けにまとめました。

1967年に日本で初めて戦争をテーマにした絵本として出版されたものを58年ぶりに作り替えました。

【童心社編集部・平山滋子さん】
「子供たちの言葉を、何か今の子供たちにつないでいかなければならない。自分事として引き寄せるためにはどういうことが必要だろうか」

この本の担当編集者の平山さんは、福山市で育った被爆3世です。
祖母は17歳のときに被爆しました。

【童心社編集部・平山滋子さん】
「中学生のときに一度、話を聞いたことがあったんです。途中から話せなくなってしまって、これ以上ちょっと話ができない、ごめんねということでそれ以上聞くことができなかったんですね。聞かなきゃいけなかったんじゃないかなというのがずっとどこかにひっかっていたところがあって、今回、言えなかったという思いまで引き継いでいかなきゃいけないと言う風に」

子どもたちに届ける本に被爆3世としての想いも込めます。

この日話を聞いたのは作者の1人、小川俊子さん(85)俊子さんは、広島市の中心部堀川町で時計店を営む家庭に生まれました。

俊子さんは、戦後の1951年小学5年生のとき、原爆が落ちた当時のことを学校で作文に書きました。

【日記】
「昭和20年8月6日は、私の満5歳のときでした。そかいしていた私たちは、ほんとうになにも知らなかったのです」
「おかあさまは、家に押しつぶされて亡くなられたのです」
「とつぜんお父さんは、『ああ、あれは地獄だったよ』とつぶやくようにおっしゃいました」
「お父さんは、1時間ばかり苦しみぬかれて、この世をさっていかれました」

【作文を書いた小川俊子さん】
「戦争だけは嫌です。日本は平和でいられるということがとても幸せなことだと思うんですが、これから先にそれが続くかどうかということは保証できませんよね。これから子供たちが平和に暮らせるというそういうことで協力してくださいと言われればなんでも協力します」

【童心社編集部・平山滋子さん】
「今伝えないといけなという思いをとてもみなさんが強く思っていらして、必ず電話の切り際や帰る時に頑張ろうねって皆さんが言ってくださって、過去にそういった出来事があったということに目を背けてはいけないということを立ち返らせてくれる、そういった存在としてこれから長く大事に、出版をし続けていきたいと思っています」

本を通してあの日ををつなぐ。
様々な思いを載せて子供たちへ語り掛けます。

【戻り参考メモ】
〇今年は、終戦・被爆80年企画として「本でつなぐ平和のバトン」というフェアを、書店や出版社が会社の枠を超えて共同で取り組んでいて、他の出版社も様々な作品を生み出している。
〇長崎・沖縄の作品も実話をもとに作られていて、読み応えがあるものになっていて未来を生きる子供たちに伝えている

テレビ新広島
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