■標高1500mの高原で熟成される至高の味 職人が語る”クラフト生ハム”の世界

静寂に包まれた信州の高原で、こだわりの豚肉から生み出される奥深い旨みの世界があります。元フレンチシェフの藤原伸彦さんが、長和町・姫木平の澄んだ空気の中で情熱を注ぐクラフト生ハムづくり。「美味しいものを作る」というシンプルな信念のもと、時には1年、長いものでは3年もの熟成期間をかけて生み出される至高の一品に迫ります。

■長野県長和町の高原が育む日本流”クラフト生ハム”

標高1500メートル、長野県長和町の姫木平。澄んだ空気と静けさに包まれたこの高原で、藤原伸彦さんが生ハムづくりに情熱を注いでいます。元フレンチシェフの藤原さんは、信州で生ハムづくりを始めて10年。フランスでの修業経験から、この高原の気候に可能性を見出しました。

「今から30年前、フランスに1年いたんですけど、この姫木平の気候が、そのあたりと比較的温度帯とか湿度感が近いなと思いました。ジャストフィットして、いい感じで生ハムが作れました」と藤原さんは語ります。

日本では、国産の豚と塩だけで12カ月以上熟成させたものを「クラフト生ハム」と定義し、認定生産者は現在13人。藤原さんは今年、業界団体「国産生ハム協会」創設のアカデミー学長にも就任しました。使う豚肉は信州黒豚や飯田の千代幻豚など、地元産の中でも選び抜かれたものに、ミネラル豊富なオーストラリア産の塩をすり込んで仕込みます。

■日本らしさを追求する独自の発酵技術

最も寒さが厳しくなる2月、真冬の冷え込みの中で始まる仕込み。藤原さんの生ハムづくりに欠かせないのが「種麹」です。発酵食品づくりに使うこの麹を塩と混ぜ、豚肉に直接ふりかけます。すりこみ丁寧に作業する藤原さん。この麹が肉に悪い菌やカビが繁殖するのを防ぎながら、旨みを引き出す重要な役割を果たすのです。

この冬、藤原さんはフランスとスペインへ渡り、本場の技術を学び直しました。ヨーロッパは生ハムの歴史が深く、古代ローマ帝国時代には保存食として、その後、イタリアのプロシュートやスペインのハモンなど地域ごとに異なる製法が発展してきました。

本場の技術を見て、藤原さんは「日本では同じことはもうできない、その中で大事な部分を日本なりにアレンジして取り入れて、日本らしい生ハムが作れたら本当の本物になる」と自らの哲学を語ります。


広がる信州のクラフト生ハム文化

藤原さんのクラフト生ハムは、県内外のレストランで高い評価を受けています。坂城町のワイナリー併設レストランでは、シェフの小出克典さんが藤原さんの生ハムを使った創作料理を提供。3年熟成した生ハムをシューに挟んだ前菜や、長野県で養殖が盛んな「シナノユキマス」と生ハムを組み合わせた一皿などが並びます。

「お醤油とかお味噌の代わりに、藤原さんの蓄積された長い旨味を凝縮したものとして、ソース代わりに食べていただけるように」と小出シェフ。

藤原さんも「こちらの意図を理解してくれていて、本当に嬉しいです」と感慨深げに語ります。

さらに藤原さんは、自らの工房でワークショップを定期的に開き、多くの人に生ハムの奥深さを伝えています。また、地域おこし協力隊として長野に移住してきた野沢健太さんなど、信州の気候を生かしたクラフト生ハム生産者は少しずつ増加中。藤原さんは後進の指導にも力を入れています。

「みんなで集まって、力を合わせて調べたり、研究したりして解決していかないといけない。仲間が増えるのはいいことです」と藤原さん。

標高1500メートルの高原で、これからも変わらぬ手仕事が続いていきます。「やっぱり『美味しいものを作る』ってこと。それが一番大事です。自分が『これはいいな』と思うものを送り出したい、ただそれだけです」

※本記事は、NBS「フォーカス信州」2025年7月25日放送回
「信州クラフトの味~つくる人と、味わう人と。~」をもとに構成しています。

長野放送
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