戦後80年。記憶の風化が進む中、当時の白黒写真をカラー化する技術が注目されています。
広島・長崎の記録を未来へと受け継ぎ、“記録”を“記憶”として残していこうという新たな試みです。
1945年8月6日、広島に投下された原子爆弾の瞬間を捉えた白黒写真には、空高く立ち上る巨大なきのこ雲が写っています。
最新のAI(人工知能)技術でこの写真をカラー化すると、青空の中にくっきり立ち上がったきのこ雲の一部がオレンジ色に染まっていることがわかります。
同じ写真でも、白黒とカラーでは受ける印象がまったく異なります。
長崎に投下された原爆のきのこ雲も、カラー化により破壊の衝撃がより生々しく伝わってきます。
神奈川・川崎市の「川崎市平和館」で開催中の特別展『天然色で見る広島・長崎と80年後の世界』では、被爆地・広島と長崎の記録写真をカラー化して公開しています。(※8月4日・12日・18日・19日は休館)
川崎市平和館の吉澤朋充館長は「白黒の写真ではなかなかリアルに伝わらないものが、カラー写真を通して見ることにより、自分たちに近いものとして捉えてもらえると思い、今回企画した」と話します。
広島に原爆を投下した爆撃機・B-29「ENOLA GAY」の乗組員たちや、満員の列車に乗り込む兵士や市民の姿もありました。
これらは、東京大学大学院 情報学環・渡邉英徳教授の研究室の協力でカラー化されました。
まず、230万組以上の画像を学習したAIを使って、白黒写真にふさわしい色を自動でつけていきます。
違和感のある部分は人の手で丁寧に修正されます。
被爆者の証言や当時のカラー写真などから、きのこ雲が白だけではないことが確認され正確な再現につながっています。
渡邉教授は「先端技術を使ってカラー化された写真を見ると、まず引きつけられる。“まるで今起きた出来事のようだ”と感覚をつかんでもらえるはず」と話します。
渡邉教授は、戦時中の動物たちの写真もカラー化。
終戦の日を前に、1冊の本にまとめました。
東京大学大学院 情報学環・渡邉英徳教授:
人間以外の生き物も戦争に巻き込まれていた。その動物たちの目線から戦争について改めて考えてもらいたい。
溝にはまった馬を兵士が助けようとする写真をカラー化すると、その情景がより鮮明に浮かび上がります。
東京大学大学院 情報学環・渡邉英徳教授:
(兵士は)馬を助けようとしているヒーローとみることができるが、戦争に巻き込まれた動物からみれば、命の危険にさらされていることにほかならない。
渡邉教授は「80年前に起きた出来事と今現在、我々が置かれている状況を重ね合わせて平和な時代にしようというメッセージ。受け止めてもらえるととてもいいなと思う」と話し、記憶を継承する上で“視覚の力”が果たす役割を強調します。
80年前の戦争の記憶をどう受け止め、どう伝えていくのか。
静かな試みが確かに広がっています。