山形県内で甚大な被害があった2024年7月の豪雨災害から1年が経った。中でも大きな被害があった酒田市大沢地区の自治会長に、1年が経過した地区の現状といま抱えている課題を聞いた。

まったく手つかず倒木残されたままの農地
酒田市大沢地区の荒生道博さん(67)は、コメやネギなどを作る農業のかたわら、大沢地区に12ある自治会をまとめる会長も務めている。
2024年7月の豪雨では、近くを流れる荒瀬川があふれ、荒生さんの田んぼや畑にも流れ込んだ。

大雨後に自身の田んぼを見に行った荒生さんは、「『これが自分の田んぼか』という気持ちで、ただぼう然と見てるだけだった」と。

荒生さんが所有する田んぼは約3.7ヘクタール。
そのうちの6割に土砂や倒木が流れ込む被害があった。
1年が経ったいまも、荒尾さんの田んぼには背丈ほどの根っこをもつ倒木や、崩れた道路の一部が残されたまま…。
これではコメの作付けはできない。

荒生道博さん:
まったく手つかずの状態。あと2年の間に復旧できるか、できないか。

原状復帰をこえた未来志向な農地復旧が課題
酒田市によると、2024年7月の豪雨で特に被害が大きく、国の災害復旧事業を活用して復旧を待つ被災農地は約126ヘクタール。
大沢地区は、実にその半分近くの約54ヘクタールを占めている。

現在、大沢地区が抱える最も大きな課題は、それらの農地の早期復旧。
市は、「2年後の3月までの復旧」と「その年の春からの作付け再開」を目指すとしているが、荒生さんは「道のりは遠い」と考えている。

荒生道博さん:
農地から出る残土・土砂は、20万立方メートルと聞いている。
その捨て場所が課題になってくると思う。
単なる現状復帰ではなく、今後の担い手、誰か代わりにコメ作りをする人が出てきた時に、効率の良いコメ作りのためには現状に戻すだけではダメ。

荒生さんは、元の小さな田んぼにただ“原状復帰”させるだけではダメで、より大きな区画にまとめ直すことで、コメ作りの「生産性向上」と「コスト削減」が期待できると考えている。
農業・農地の復旧で地域コミュニティを取り戻す
一方、被災住宅の公費解体が進む酒田市大沢地区の北青沢。
集落を流れる小屋渕川の土石流が2つの集落を襲い、住宅は屋根まで土砂で埋もれた。

酒田市によると、川の東側の小屋渕集落で被災前に暮らしていた5世帯・8人全員がすでにこの地を離れた。
そして川の西側の家ノ前集落は、18世帯48人から8世帯22人に半減している。
荒生さんは、「これだけ一気に人が居なくなると地域コミュニティはなかなか難しい状況。この先どうなるのか…」と話す。

大沢地区の自治会長でもある荒生さんたちは、2025年4月、住民の「生の声」を行政に届け迅速な復興につなげたいとの目的で、「復興推進委員会」を立ち上げた。
この地区の基盤である農業と農地の早期復旧を進めることで、再びこの場所に活力が戻ることを期待している。

荒生道博さん:
大沢地区のコメ作りを衰退させてはダメだという思いだけはあります。
守っていくための手段を考えながら進めて行きたい。

国をはじめ行政の「災害復旧事業」は、基本的にはあくまで“元に戻す”復旧が前提というたてつけの制度。
荒生さんが訴えているのは、単なる復旧ではなく“次世代につながる形での復興”。
長期的な視点で進めなければ、自分たちがこれからも暮らし続ける町の未来につながらない…、そんな強い覚悟が感じられた。

地域を支える生業の復活を目指す生産者たちは、復旧・復興への地道な歩みを少しずつ前へと進めている。
(さくらんぼテレビ)