【観光施設】十勝シティデザイン(帯広)は人と地域のつながりをエネルギー源として、にぎわい創出に取り組み、成果を上げている。代表取締役の坂口琴美さんに十勝のファンを国内外に広げる事業展開と、ワイフワークの人を集める空間づくりについて聞きました。BOSS TALK#105
――どんな子ども、学生時代を過ごされましたか。
「出身は帯広の隣町で、パークゴルフの発祥の十勝管内幕別町です。早くから英会話を学び、言語をツールとして、パークゴルフの国際大会に来られる外国の方とコミュニケーションをとるのがすごく好きでした。高校時代、米国テキサス州に留学した際、日本の文化の背景を伝えられないもどかしさから、日本の大学に進もうと決めました」
地域の魅力をお客さんに発信する楽しさを覚え、飛び込んだ飲食店の世界
――大学生活はどうでしたか。
「語学系の大学で、通訳や翻訳の仕事にも興味ありましたが、ジャズバーでアルバイトをし、日本人や外国人のお客さまに、自分が住む地域の魅力を伝えることにすごく喜びを感じました。在学中に飲食店経営を持ち掛けられ、当時は就職氷河期でもあり、飲食業は自分の進みたい方向だと思い、開業しました」
――ご両親への説得は大丈夫でしたか。
「両親にしてみたら、留学させて大学にも行かせたのにショックだったと思います。しばらく、まともに口をきいてくれませんでした。テキサスでのホストファミリーのお父さん、お母さんが日本に来たとき、東京の歴史や谷根千エリアを英語で紹介したことなどを通じ、私の飲食店の仕事が両親に初めて伝わったと思います。理解してもらえないつらさが解消できたのは27、28歳のころです」
人間交差点の拠点を十勝に作りたいと、苦戦を覚悟しUターン
――北海道に帰ってくるきっかけは?
「口コミで情報が広がり、十勝出身で東京に住む方や、出張で東京に来られた十勝の方がうちの店を訪ねてくるようになりました。そんな中、テレビ局の方から『十勝の短編映画を作ってみては』と勧められ、有志メンバーで短編映画を作りました。十勝の魅力を伝えるツールを作る着地点として、十勝に泊まることのできるカフェを作りたいと思いました。今のホテルを一緒に経営する弁護士の柏尾哲哉さん(帯広出身、東京弁護士会)が、廃業した帯広のホテルを見つけてきてくれたので、(収益面の)長期戦は覚悟の上で、全面的にリノベーションして事業を始めました」
――宿泊、飲食、観光アクティビティの複合施設ホテルヌプカですね。どういうコンセプトでつくられましたか。
「東京の自分の飲食店では、地元の方がそれぞれ地域の魅力を伝えるコンシェルジュの役目を担っていました。帯広でも、こうした人間交差点をイメージしました。立ち寄ったお客さんに地元の魅力を伝える常連さんが日常的に集うホテル、カフェにしたいという思いが根っこにあります。まち、市街地は文化が生まれる場所。人とのつながりから派生して文化が育っていく。みんなで話し、地域の独特な文化が生まれるホテル、カフェになればと思います」
世界唯一のばんえい競馬のまち・帯広ならではのツアー「馬車バー」
――宿以外で十勝の魅力を伝える取り組みは?
「十勝の大麦で作ったビールを飲んでもらいたくて、クラフトビールを作りました。商品名は『旅のはじまりのビール』です。また、帯広ではたくさんの馬が飼育されており、ばんえい競馬場にも600頭ほど飼われていますが、地元の人にもあまり知られていません。それで、まちなかを周遊するツアー『馬車バー』を始めました。うちのホテルを出発し、馬車の中でお酒とおつまみを楽しめます。 地元の方も、訪ねてきたお客さまを誘って一緒に利用されることもあります」
――馬とともにある大地を感じられる仕掛けですね。今、力を入れていることは?
「ヌプカの隣に設けたウタリ。いろいろな顔が見える場所にしたくて、昼はレンタルキッチンにしたり、スイングカランサーバーを設置しているので、夜はビールを提供したり。自分のやりたいことを表現できる場所です。まちの人が集まる空間を増やしていくのがライフワークです」
――ヌプカを作って帯広の雰囲気は変わりましたか。
「夜、営業するお店が多い繁華街の中、昼に立ち寄れる場所として浸透し、『まちが変わったね』という声が聞かれるようになりました」
独特な文化こそが人を呼び込む地域の魅力 「文化形成の一助になれば」
――ボスとして、大切にしていることは?
「今は人材不足とされる時代。中でもサービス業や飲食業、観光業は、人離れが激しいと言われていますが、人とのつながりは何よりも財産だと思います。その人にとって何がワクワクできる仕事なのか。ヌプカで働いて過ごす時間に、その人がキラキラできる素材を見いだせるようにしたいと思います」
――身近なところから何かを変えていこうとされていますね。今後は?
「文化は独特であればあるほど、地域の魅力は増します。みんなのやりたいことを形にするのを手伝ったり、文化形成の役割を一部でも担えたりできれば良いですね」
――北海道十勝での仕事はこの先どう広がっていきそうですか。
「そこにあるもので、自分たちのツールを自分たちで生み出していく。地域の魅力の向上に向け、既にあるものに光を当てることを続けていきたいと思います」
――人と人のコミュニケーションを大切にされて、これからもその渦の中心にいらっしゃるのだろうと感じました。