長い間夜の山道を探し、そのウサギと会うことが出来た。丸っこく黒い毛に覆われたアマミノクロウサギだ。短い耳と長い爪が特徴で、あらかじめ写真を見ていなかったらウサギと思わなかったかもしれない。接近しても逃げようとしない。近くで撮影を続けていると急に道を横断して茂みに消えた。

撮影場所は、奄美大島の山中。世界中で、ここと徳之島にしかいない固有種であり、絶滅危惧種である。
道を横断する際に車に轢かれるロードキル(road kill)があとを絶たず、出没しそうな道路には注意を呼びかける看板がいくつも掲げられていた。人が持ち込んだノラネコによる被害もあり、ノラネコ捕獲の罠も多数仕掛けられている。一方で天敵のマングースが根絶されたことで、アマミノクロウサギは増加傾向にあり、果物畑の木の皮が食べられる被害も出ているという。
“日本一美しい”カエル
山の中の舗装道路で色鮮やかなカエルに出くわした。緑地に金色の斑点があることから「日本一美しいカエル」とも言われているそうだ。立派な吸盤で木の上に登ることもあるという。

こちらもマングースが減少し増加傾向にあるそうだが、絶滅危惧種で国の天然記念物でもある。沖縄のイシカワガエルと同種とみられていたが、2011年に固有種であることがわかっている。
世界自然遺産で“盗掘”
奄美大島は、徳之島・沖縄島北部・西表島と一緒に世界自然遺産に登録されて4年になった。固有種が75種、絶滅危惧種が95種と多く、その多様性が評価された。

生物の多様性を守る為、ロードキルの防止や天敵の根絶の他、モニターカメラを設置して盗掘の防止にも努めている。
「盗掘は相次いでいて、前日に群生していたものが根こそぎ無くなっている。ネット上では高値で売りに出されている」と案内してくれたガイドは声を荒らげた。
生物や植物の撮影の際は、場所が判らないように配慮を求められた。無法者に希少な動植物の位置情報を提供しないためには仕方ない。

待ったなしの保護が必要な地域では立ち入り制限も行われている。
亜熱帯の広葉樹林が広告にも使われた金作原は、「自然環境への負荷を減らす」ために、認定エコツアーガイドが同行しなければ入ることは出来ない上、ツアー数にも上限を定めている。また路肩の植物の新芽を守るため、ガイドの説明にある植物を近くで見たくても、未舗装の道路から外に出ることは出来ない。

奄美群島最高峰の湯湾岳では、展望台のある広場から先の山頂までのエリアは「最大限の配慮が求められる」とのことで立ち入り禁止となっていた。学術研究目的でも通行申請書の提出が必要だ。

湯湾岳ではガイドの勧めもあり長靴を履いていた。毒をもつハブから足を守るためだ。噛まれると死に至ることもあり地元でも恐れられている。町のあちこちには「退治する」ための棒が置かれている。またハブを捕獲して役場に持っていくと3000円奨励金がもらえるという。「ハブは山の守り神。ハブがいたから人は山から遠ざけられ奄美の自然は守られた」と話す住民もいた。
世界自然遺産の登録から4年。観光客の増加と開発を望む声がある一方で、生物の多様性を守るための取り組みも続けなければならない。
そのバランスをどうやってとっていくかという課題はこれからも続く。