「ただ押しました、というだけのハンコはもういらないことにしようと

河野行革相は9月24日、全ての中央省庁に「ハンコ」を行政手続きで使わないことを要請し、小泉環境相や平井デジタル相らが賛同の意を示した。

これにより“脱ハンコ”の流れが一気に加速しそうだ。

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民間では、リモートワークの増加もあってハンコの必要性が疑問視されていたが、ここにきて大手企業も“脱ハンコ”に舵を切るところがでてきた。

富士ゼロックスが年50万件の電子署名化を発表

出典:富士ゼロックス

富士ゼロックスは9月23日、今後 年間50万件に及ぶ顧客との契約に電子署名を導入すると発表したのだ。

同社はすでに今年1月から、契約書の署名や捺印・受け渡し・保管などをクラウド上で完結できるアメリカの「電子署名クラウドサービス(DocuSign)」を販売しており、これを自社にも導入する。年間50万件という規模は、同社のサービス利用例としては国内最大になるという。

出典:富士ゼロックス

同社の「電子署名サービス」で契約を結ぶには、まず依頼者と署名者の双方が合意する電子の契約書をクラウドにアップロードする。

依頼を受けた署名者がそのクラウドにアクセスし、ガイドに従って署名をすれば契約の締結となる。

このサービスは、スマホやタブレット・PCなどあらゆるデバイスで行うことが可能で、双方とも対面やオフィスに出社する必要はないという。また、アメリカやEUを含む世界の厳しいセキュリティ基準を満たし、最も強力な暗号化技術を使用しているとのことだ。

出典:富士ゼロックス

富士ゼロックスは「紙契約書の運用・管理における課題」として、契約締結までのリードタイムが長い、コストや工数がかかる、運用管理が大変、紛失や改ざんのコンプライアンスのリスクがあるという問題点を指摘。

これに対し「電子署名クラウドサービス」は、印刷・製本・署名/押印・郵送・ファイリング・保管までを約25倍に高速化し、1文書あたり約4000円のコストを削減するとしている。(実際の効果は業務内容や適用範囲によって異なる)
 

出典:富士ゼロックス

今の時代に合ったとてもいいサービスのように思えるのだが、課題はないのか? 顧客がかたくなにハンコの契約を求めたらどうするのか? 富士ゼロックスに聞いてみた。
 

5年間で1億円の経費削減と試算

――1月から発売したサービスを、なぜ今自社で導入した?

当社は約1年かけて販売プロセスの改革を進めてきました。電子署名導入はその一環です。署名の電子化だけでなく、その前後の工程が電子化されたことで、販売プロセスの中でデータ活用が一気通貫で行えるようになり、電子化の効果が最大化できるようになりました。


――電子署名化でどれだけコストを抑制できそう?

当社の場合、印刷、製本、署名/押印、郵送、ファイリング、保管、契約プロセスにあたって、電子署名の導入を含む販売プロセス改革により今後5年間で1億円の経費削減につながり、作業もスピードアップされると試算しています。

署名依頼者側の画面(出典:富士ゼロックス)

――電子署名化で苦労したことは?

電子契約システムを構築するだけでなく、契約後に発生する計上プロセスとのシステム連携や運用ルールの策定など、関係部門を巻き込みながら、販売プロセス全体の改革を推進するのに苦労しました。

しかしその経験があるからこそ、お客様のお困りごとについても理解できますし、電子署名だけでなく、その前後を電子化することの大切さ、そのためのアプローチや解決方法もご提供できると考えております。


――取引先が対応できない場合は?

リリースの図にも記載しているように、紙を使っての契約はまだまだ続くと考えております。急な改革を求めない、あるいは急な対応が困難なお取引先様もいらっしゃいます。

そういうお客様に対しても、当社は、紙文書の電子化や、紙文書と電子ドキュメントを一括して管理するような、さまざまなソリューションをご提供できます。

「紙の契約書」にも対応  出典:富士ゼロックス

デジタル化=今の業務をそのままデジタルに置き換えること、と考えがち

――河野大臣発言など昨今の“脱ハンコ”への流れをどう思う?

河野大臣の発言に対してコメントする立場にはございませんが、政府がデジタル化の旗を振ることでデジタルトランスフォーメーションが加速していくことは間違いないと思います。


――ハンコの問題点とは?

文化的な背景・側面もあるので、一概にハンコを否定できないと思います。

一方で、印刷・製本・署名/押印・郵送・ファイリング・保管などの契約プロセスに貴重な時間と多くのコストがかかっている事や、ハンコが必要なためにコロナ禍であっても出社しなければならない事は現実であり、効率化が求められていると思います。


――どんな会社でも電子署名化できる?

組織・会社の業種や、どういう課題があるのか、何を改革したいのか、また規模の大小によっても異なってくると思います。

当社は電子署名に関しても、中小・中堅企業から大企業のお客様まで、ニーズに合わせた商品やサービスをそろえています。

署名者側の画面(出典:富士ゼロックス)

――いままでデジタル化を阻んでいたものは何だと考える?

デジタル化というと、今の業務をそのままデジタルに置き換えるということだと考えてしまいがちです。その結果、コスト高や非効率を産み出していたということがあると思います。

デジタル化を実現する新しいツールを使いこなすためには、それに即した、新しい最適なルールを確立し、効果を最大化するというマインドセットが必要になると考えます。

足踏みしていたデジタル化ですが、電子署名の技術の進歩に加えて、コロナ禍におけるリモートワーク環境の拡大が追い風になり、今、大きく変わろうとしているのだと思います。


――電子署名の導入によって日本社会はどう変わる?

 電子署名にはさまざまな課題がありますが、今までの数倍のスピードで民も官も変化する中で「電子署名を導入したらどうなるだろう?」と懸念する考え方から、「直面する社会課題を、電子署名を使って解決するにはどうすれば良いのか?」といった解決思考が定着してきていると思います。

そうした思考で さまざまな課題が従来より迅速に解決されていき、より良い社会に向かうことを期待しており、当社としても課題解決のお手伝いをしていきたいと考えています。

契約にハンコが不要の時代にもうすぐなるかもしれない(画像はイメージ)


担当者は「紙の契約」はまだ続くとも指摘していたが、“脱ハンコ”による未来は明るいようだ。あなたが何気なくポンと押しているハンコは本当に必要なのか、改めて考え直す時が来ているのかもしれない。

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