2025年の参院選と同じ7月20日、豊橋市では『新アリーナ計画』の是非を問う住民投票が行われる。市長と議会、そして賛成派と反対派の市民…市を二分してきた議論は本当にこれで決着となるのか。住民投票の「先輩」たちのその後から、ヒントを探った。

■混迷の『新アリーナ』住民投票で決着へ…市民には“戸惑い”も

人口およそ37万人、東三河の中心都市・豊橋市で、市民を二分する争いになっている『新アリーナ計画』。

住民投票が決まり、帰宅ラッシュの豊橋駅前では、賛成派と反対派が投票を呼び掛けていた。

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反対派:
「ぜひとも住民投票で、いったん中止にして」

賛成派:
「住民投票賛成に〇、賛成に〇、豊橋公園の緑はなくなりません」

取材中には賛成派と反対派の市民が、言い争う様子も見られた。

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長坂尚登市長:
「結果を問わずノーサイドでお願いしたい」

市民が納得する、「ノーサイド」の未来は実現するのか。

住民投票で是非が問われるのが、プロバスケチーム・三遠ネオフェニックスが、新たな本拠地に見込む「新アリーナ」を、豊橋公園に武道場などとともに整備する総事業費230億円の計画だ。

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2016年に当時の佐原光一市長が立ち上げた計画だが、2020年の市長選で計画の見直しを掲げた、浅井由崇市長が当選した。

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ところが浅井市長は公約を一転させ、元々の計画通り、豊橋公園で新アリーナ整備を進めると表明したのだ。

反対派の市民グループ(2023年2月):
「皆さま方の声をしっかり受け止めていただいて、対応いただけるように、強く要請して請求いたします」

計画見直しを求める市民団体は、住民投票を求め、必要な数の3倍近い署名を2度にわたり提出した。

しかし推進派が多数を占める市議会はこの請求をいずれも否決し、市は2024年9月に、アリーナの整備・運営をする企業と契約を結んだ。

その2カ月後の2024年11月の市長選で、計画の中止を掲げた長坂尚登市長が、浅井前市長ら推進派の候補を破り、初当選を果たした。

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長坂尚登市長(2024年12月):
「市長として第一に始める取り組みとしては、新アリーナ計画の中止であり、早期の契約解除に向け、手続きを進めてまいります」

就任していきなりの契約解除の動きに、議会側は猛反発し、計画の是非は、住民投票にゆだねられることになった。

賛成派:「住民投票は賛成に〇」

反対派:「230億円を使うアリーナ計画、物価高の市民の生活を見ているのか」

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「豊橋市初」の住民投票に、賛成派・反対派ともに熱を帯びているが、市民からは戸惑いの声も聞かれる。

豊橋市民:
「どちらになってもそうじゃなかった側の方は、ずっとモヤモヤした気持ちが残っていくような気がして」

別の市民:
「ネットとかYouTubeとかみていても、両極端な意見しか出てこないので」

■住民投票で残った“しこり”…結果をどう尊重するか

住民投票の「先輩」なのが、豊橋市に隣接する新城市だ。10年前の2015年、市役所の建て替えの在り方を問う、住民投票が行われた。

住民グループの中心だった白井倫啓さんは、新庁舎の建設計画の見直しを訴え、住民投票を求める運動を起こした。

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市が計画していたのは、ガラス張りの5階建て、総事業費およそ50億円の庁舎だった。

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住民投票はこの案の「維持」と「縮小」いずれかを問い、結果は「縮小」1万2899票、「維持」9759票で「縮小」が上回った。

新城市の穂積亮次市長(当時):
「当然重く受け止めながら、次の見直し案を出すにあたって、この結果を踏まえたうえで出していかなければならない」

当時の市長は「住民投票の結果を尊重する」として、当初の5階建てから4階建てに変更し、予算も削減する方針を示した。

白井さんたちのグループは、訴えていた「3階建て」の案が取り入れられなかったことに、市長の歩み寄りが不十分だと反発、リコール運動にまで発展し、大きなしこりを残した。

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新城市の住民グループ 白井倫啓さん:
「批判的にしか聞こうとしなかった。『お前ら、いい加減なもの出して市民惑わせやがって』という感じでしか、取り合ってくれなかった」

新城市民:
「(5階建てに)反対でした。ふたを開けてみてびっくり。そっちの方面(4階建て)に行くのみたいな」

別の新城市民:
「いつまでもやっていても、進まないことにはどうしようもないから、ある程度譲歩してくれればいいかな」

今回の豊橋市の新アリーナをめぐる住民投票は、事業の継続に賛成か、反対かの二択で、条例で市長と議会の双方が結果を尊重しなければならないと定めている。

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しかし、議会では…。

推進派の市議:
「混迷といいますか、こういう状況に市政が置かれていることに対して、市の責任者として責任があるのではないかと」

「市長選の民意がある」と一歩も譲らない長坂市長に対し、推進派の市議らは、市長による新アリーナの契約解除に待ったをかける異例の条例まで可決し、法廷闘争になるなど、両者の対立は深まっている。

長坂市長は仮に新アリーナ賛成が多数だった場合、計画を進めることを明言している。

一方、反対が多数で、契約解除をする場合、企業に支払わなければならない違約金が、新たな火種になる可能性もある。

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住民投票の後も“しこり”が残った新城市から、豊橋市へのヒントは…。

新城市の住民グループ 白井倫啓さん:
「住民投票終わった後、どういう対応するかですね。もう一度皆さんの声を聴きたいというのが本来の筋だったと思う。結局は市長、議会、市民の中でお互いが信頼し合えているかどうか、これがないと何をやっても、結果『しこり』を残してしまう気がする」

■一度は「白紙」も…住民投票を「スタート」に

市民みんなが納得できる街づくりはできるのか?

小牧市の中央図書館は2021年にオープン、大きなガラスやコンクリートの外観が特徴で、その年のグッドデザイン賞を受賞した。

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小牧市民:
「週に2~3回は来ます。静かですし、自分が好みの本もいっぱいあるので」

別の小牧市民:
「できてから若者が増えたので、にぎわってきてありがたいなと思いました」

多くの市民に愛されるこの図書館も、住民投票を経て誕生した。

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小牧市は老朽化した前の図書館に代わり、「TSUTAYA」が運営する図書館の構想を打ちだしたが、市民グループがこれに反対し、2015年に、計画の是非を直接住民に問うことになった。

結果は「反対」がおよそ6割、「賛成」がおよそ4割で、計画はいったん白紙になったが…。

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小牧市の山下史守朗市長:
「賛成、反対っていうことあったけれども、どういうことを皆さんがお望みなのかということは、あの結果だけで分からないわけですよ。ああいう投票になると感情論もあるので、理性的にもう一度落ち着いて、いろんな方々に入っていただいた審議会を立ち上げて」

市は専門家のほか、反対派の代表もメンバーに加えた審議会を立ち上げ、1年間で17回もの話し合いを重ねた。

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市民からはゆっくり時間を過ごせるカフェや、学生たちが集まれるスペースなど、多くの要望が出された。

山下史守朗市長:
「設計段階で高校生とか若い皆さんに入って頂いて、ワークショップやりながら設計して。市民の意見を丁寧に聞いていくのはすごく重要で、『市民参加』で作り上げたのは間違いないです」

議論を経て、新図書館は「TSUTAYA」への委託ではなく、市の直営となった。一方、駅前の建設場所や、「市民の滞在型」というコンセプトは、当初の案のまま進めることで決着した。

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小牧市民:
「スタバもあるし、休憩所もあるし、いいと思いますよ。税金がかかっているので嫌だと思ったけど、つくってみたらいいなと思いました」

かつて、一度は市民にノーを突き付けられた山下市長は、「住民投票はゴールではなく、スタートだ」と話す。

山下史守朗市長:
「住民投票で賛成、反対当然出るんだけれども、その結果を受けて、どう再スタートを切っていくのかっていうことが非常に重要なんですよね。どちらかになったら、当たり前のように物事のすべてが決まるっていうものではなくて、どちらに転んでも、そこからが再スタートで、どう最後ゴールまで持っていくかっていうのは、まさにこれは首長の責任、市長の責任だと思うんですよ」

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豊橋市民は市の未来にどんな一票を投じ、市長や議会はそれをどう受け止めるのか。住民投票の投開票は参院選と同じ7月20日に行われる。

2025年7月11日放送

(東海テレビ)

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