デイサービスで「1、2、3、4」と元気よく体操をする高齢者。この日のレクリエーションには、8人の利用者に対し、3人の職員が対応にあたっていた。「こんにちは~」とそこへやって来たのは、介護経験者の永冨ちひろさん(48)と大学生の豊田真一さん(19)。実はこの2人、「スケッター」と呼ばれる、有償のボランティアなのだ。
ボランティアを“マッチング”で
福岡・北九州市の『デイサービスセンター つなぐ』。大学1年生の豊田さんは、この日がスケッター、デビューの日だ。先輩スケッターとして週に1度、業務指導を行っていている永冨さんと一緒に作業を進める。

スケッターは、清掃や配膳の手伝いなど未経験や資格がない人でもできる仕事を介護施設側が募集。ボランティアをしたい人とマッチングする仕組みで、現在、約1万人が登録している。

この施設が、スケッターを導入した背景にあるのは、深刻な人手不足。デイサービス社長の深町忠さんは「広く世の中でいわれているように、介護の人材不足は感じている。20代、30代は、ほぼほぼ募集がない。募集してもすぐには来ない」と苦慮の表情を浮かべる。

政令指定都市で最も高齢化が進む
北九州市は、高齢者率が31.2%と全国の政令市のなかで、最も高齢化が進んでいる。そこで市は2025年2月からスケッターを試験的に活用。現在、市内の約30の施設が導入している。

北九州市介護保険課課長の齋藤渉さんは「業界のなかだけでは、新しい人材が出てこないという話がある。これをきっかけに、例えば『介護の仕事悪くないや』とか『ボランティアだったらずっとやっていける』とか、いろんなことを体験する場になって、結果として人材の裾野が広がっていったらいい」と現状を話す。

「足湯を担当させてもらいます」。この日、豊田さんも早速、利用者に声掛けをして、足湯の席まで案内していた。
「ボランティアだけど本当に“助っ人”」
スケッターとして参加する人も理由はさまざまだ。普段、セラピストとして活動しているという永冨さんは「勉強ですかね。高齢者の方と接することができる。家族以外ではなかなかないですからね」と参加の意義を話す。

大学生の豊田さんは「姉も介護業界で働いてて、父が身体的に障害があって、経験を積んでおきたいなというのと、あとは実際、自分が介護系の業界に興味があったというのが大きな理由」と家庭環境が大きいと話す。

介護業界で初めて活動した感想を尋ねると「めちゃくちゃ緊張しました。特に介護業界だとあんまり良くないイメージが強いと思うけど、実際はそうではないこととか、それこそ若者が少ないというところには、今回のスケッターじゃないけど、実際に経験してみることが大事かなと思うので、これからもどんどん体験ができる機会が多くなればいいと思う」と前を向く豊田さん。

「足湯は気持ちよかった、お礼を言っておいてください。サンキューって」(松本美智子さん・90)や「ボランティアの方、上手ですね。楽しく会話させてもらっています」(廣重慶子さん・89)と利用者にも好評だ。

このデイサービスがスケッターを導入して約3ヵ月。 「スケッターはボランティアでありながら、本当に助っ人。ちゃんと任せれるような存在ですね。職員も業務の余裕ができて、利用者と触れ合う時間ができる」と深町社長の評価も高い。
自分のこととしてカバーするマインド
全国的に深刻化している介護業界の人手不足。スケッターの運営会社は、問題を解決するためにはこれまでとは違った、新しいかたちが必要だという。

運営する『プラスロボ』社長の鈴木亮平さんは「バイトアプリの場合だと、隙間時間でお金を稼ごうというのが目的になっているけど、スケッターは『誰かの役に立ちたい、地域に貢献したい』という互助の福祉マインドのある方々が、介護業界に関わっていく。介護問題は、社会全体の問題なので、自分のこととしてカバーしていこうという意識改革も必要なのではないか」と話す。

有償のボランティアのスケッターだが、この施設では2時間1000円で募集をしている。「今後は介護業界だけでなく、障害者施設や子ども食堂など地域の課題に手を貸せるようなプラットフォームをつくっていきたい」と鈴木社長は語った。
(テレビ西日本)