災害時の厳しい避難生活など、間接的な理由で起こる災害関連死。住民と協力し避難所にいち早く診療態勢をつくることで災害関連死ゼロを目指す医師たちの取り組みを取材しました。
5月、佐賀市の赤松校区で行われた大規模地震を想定した避難所の開設、運営の訓練。このなかで行われたのが…
【医師】
「地震が起きる前まではそういった体調不良はなかったということですか?」
【模擬患者】
「はい、前立腺肥大でトイレが近いというのはありますけど」
避難所にいる模擬患者と、別の場所にいる医師をオンラインでつないだ遠隔診療の訓練です。
佐賀大学が2年前から取り組む「災害関連死をゼロにする地域連携プロジェクト」の一環で行われました。
立ち上げの時からプロジェクトリーダーを務めるのは、医師の古川祐太朗さん(34)です。
【佐賀大学医学部附属病院高度救命救急センター 古川祐太朗医師】
「我々、災害関連死を予防するというプロジェクトを推進する上でもこのようなことを赤松校区で皆さんと同じ目線に立って共有できたというのは大きな前進」
「災害関連死」とは災害による直接的な死ではなく、精神的なストレスや厳しい避難生活による心身への負担など間接的な要因による死を指します。
【佐賀大学医学部附属病院高度救命救急センター 古川祐太朗医師】
「(災害関連死は)災害の規模がどれだけのインフラ設備への被害をもたらすかによって課題のレベルの高さがまるで異なってくる」
災害関連死の割合は熊本地震では全体の死者数の約8割、能登半島地震では現時点で6割を超えています。
古川さんは、佐賀大学医学部附属病院高度救命救急センターの救急医として働いています。
【佐賀大学医学部附属病院高度救命救急センター 古川祐太朗医師】
「救急医として災害に関わりながら、本来自分が興味のある住民目線の予防の話や、住民の方々が災害が起きたときに自分の命を守れるのかということを一緒に考えるというのが自分としては興味深く、大事なことだと思い活動している」
救急医としては9年目。現在はセンターでの救急対応のほか、ドクターカーやドクターヘリに乗って現場へ向かうこともあります。
プロジェクトは日々の中で感じた課題から立ち上がったといいます。
救急医の同僚は…
【佐賀大学医学部附属病院高度救命救急センター 松岡綾華医師】
「社会学的な観点、予防医学的な観点はすごく大事な救急の一面。自分のフィールドワークとしてやってきた人が今までいなかったというのが現状。こういった取り組みは非常に大事かなと」
もう1つのきっかけは約10年前、宮崎県出身の古川さんが同じ九州にある佐賀大学医学部の学生として過ごしていた頃の活動でした。
【佐賀大学医学部附属病院高度救命救急センター 古川祐太朗医師】
「地域の住民がどういう暮らしをしているのか、学生なりのモチベーションで当時ずっと課題意識があって」
ボランティアとして高齢者と関わった古川さん。孤独死を防ごうと見守りサービスも発案しました。
【佐賀大学医学部附属病院高度救命救急センター 古川祐太朗医師】
「そのなかで押しボタンの研究は、とある団地で毎朝起床時にボタンを押してという仕組みを作って」
地域との関わりは現在も続き、今年2月には佐賀市内の公民館の館長を対象に研修会を開き地区の防災や地域連携の重要性を伝えました。
なかでも地域住民と連携した遠隔診療の訓練は全国でも数少ないと話します。
【佐賀大学医学部附属病院高度救命救急センター 古川祐太朗医師】
「佐賀県、日本でもこういった連携を医療機関と一緒にするという住民の訓練はあまりないと思う。これがモデルになるようなすばらしい訓練になれば」
訓練は大規模な地震が発生し避難所となった小学校の教室にいる患者の診療を、被災していない地域の医師が遠隔で行うものです。
【模擬患者】
「トイレに行こうと思って来たが、左足が赤く腫れてすごく痛い」
【医師】
「それはお辛いですね。左足に関してはもともとでしょうか」
診療は古川さんが担当し、体調不良を訴える4人の患部などを確認しながら通信トラブルもなく無事に診療を終えました。
【佐賀大学医学部附属病院高度救命救急センター 古川祐太朗医師】
「災害の現場における遠隔診療というのは事前の体制の連携や、診療するための医師との連携、物的に診療する空間、デバイスの準備、一筋縄ではいかない部分がかなり多くある」
また、患者の体調不良は避難所のトイレの衛生環境の悪化が原因となることが多く、衛生管理も課題として挙がりました。
【参加者男性(30代)】
「災害のときに関連死というのもよく聞くので、そういったところも体制がとれていればスムーズに対応できるかなと感じた」
【参加者女性(50代)】
「(避難時は)医師が近くにいないことがほとんどと思うので、今の時代、遠隔で診療していただけるのはすごくありがたい」
【赤松校区自主防災実践本部 荒金健次副本部長】
「どうしてもやっぱり一定期間、自宅で生活ではなく、不便な環境で生活する上では、より体が弱くなってくる人が多くなるだろうから(遠隔診療は)必要」
訓練を主催した自主防災組織のメンバーはプロジェクトに賛同していて、去年から訓練の内容に遠隔診療を取り入れています。
【赤松校区自主防災実践本部 荒金健次副本部長】
「現場主義というか、そこまで医師はやらない。現場と一緒にこういう活動をするというバイタリティーが非常にすごいな」
災害関連死をゼロにするために佐賀から自主防災のモデルの発信を。古川さんたちの奮闘は続きます。
【佐賀大学医学部附属病院高度救命救急センター 古川祐太朗医師】
「避難所運営のやり方を他の自治体でも転用・普及できるモデルになったときに、市とか県とか大きな規模において、皆さんが“やっていきましょうよ”という運動になるのがもちろん理想。私一人の力ではどうしようもないが、関係性もあり続ける限りは地域の方々とこの目線で関わり続けたい」
古川さんによりますと、現在の通信環境では災害が発生した直後から遠隔診療を行うのは難しく、去年の能登半島地震でも遠隔診療が始まったのは約1カ月後だったといいます。
そのためまずは、住民自身で避難所を運営していくことが重要として、訓練にも積極的に参加し備えの大切さを伝えているということです。