宮城県出身で今、演劇界注目の若手劇作家がいます。演劇にとどまらずドラマやコントなど次々に活躍の幅を広げ、光る才能を発揮しています。6月25日と26日の2回に分けて、その創作の源泉と哲学に迫ります。
先週、東京・武蔵野市の劇場には多くの観客が詰めかけていました。この舞台の脚本・演出を手がけたのが、宮城県出身の劇作家・三浦直之さん(37)です。舞台の脚本・演出にとどまらず、映画やドラマなど、活躍の場を次々に広げている今注目の若手劇作家です。東京と宮城の2拠点生活を送りますが、脚本などの執筆活動は、もっぱら宮城で行っています。
劇作家・演出家 三浦直之さん
「人混みがあまり得意じゃなくて、宮城ってほんとすごくちょうどいい。いろんなサイズ感だったり、人の数だったり、退屈しない場所もすごくあるし」
三浦さんは仙台市生まれ。小学3年生まで女川町で育ち、その後は富谷市へ。仙台三高を卒業するまでの18年間を宮城で過ごしました。
劇作家・演出家 三浦直之さん
「僕、中学生くらいの頃、ドラマのシナリオライターになりたくて、演劇は本当に触れずに育ってきましたね」
意外にも演劇とは縁のない少年時代を送ったという三浦さん。演劇界に足を踏み入れたきっかけは、大学進学でした。
劇作家・演出家 三浦直之さん
「日本大学芸術学部に行けばドラマのシナリオライターになれるのかもって思って、大学受験の時に(日大芸術学部の)映画学科を受けたんですけど、映画学科に落ちちゃって。でも、日大芸術学部ひとまず入っとけと思って演劇学科を受けたら受かったから」
そこで演劇の魅力にハマり、大学3年の時に自身の劇団「ロロ」を旗揚げします。本格的に演劇にのめりこみ始めた頃、東日本大震災が発生しました。
劇作家・演出家 三浦直之さん
「もう本当に…ものすごくショックだった」
三浦さんが幼い頃に過ごした女川も甚大な被害を受けました。震災発生から1カ月後、三浦さんは、劇団の仲間とともに女川へと足を運びます。
劇作家・演出家 三浦直之さん
「僕が通っていた小学校とか残っているんですよ。で、小学校を見ると、その小学校の当時の記憶がばって蘇ってくるし、僕のアパートも残っていて。アパートでの記憶とかも蘇るんですけど。アパートから海までは、本当に何もなくなっちゃってて。そうすると何も思い出せないんです。『あれ、ここって何があったんだっけ』とか。その時に、記憶って自分の内側にあるんじゃなくて、外側にあるんだっていう感覚になったんですよね」
この時の経験を基に作った作品があります。
「記憶」をテーマに、東京から石巻までを旅する物語。劇中、登場人物たちが震災前と震災後を行き来します。
劇作家・演出家 三浦直之さん
「演劇っていうのは想像させるものだから。間接的なものだからこそ、震災っていう大きなものを描くとっかかりがあるんじゃないかな」
舞台だけでなく、震災をテーマにしたラジオドラマの脚本も手掛けました。葛藤もあったといいます。
劇作家・演出家 三浦直之さん
「僕はその震災当日は宮城県にいなかったから、当事者って言えないなと思っていて。そういう自分が震災の物語を書くときに当事者の方を傷つけるんじゃないかとか、何かこう、消費してしまうんじゃないかとか。それで書くのが怖くなったり、苦しくなってきたりっていうのはありますね」
それでも創作を続けた三浦さん。高い評価を得ているのは、きめ細かな演出です。この日は、公演を間近に控えた作品の稽古。深夜の教室の中で、役者2人が昼休みの情景を思い浮かべるシーンです。
2人の動きを見ていた三浦さん、何かを考え込んでいます。すると…
本来出番ではない他の役者たちに、稽古に入るよう指示を出し始めました。本番ではその場にいない生徒たちを実際に動かして、そのシーンを再現します。舞台は、実際そこにない世界をお客さんに想像させるもの。この場面では「多くの生徒」でにぎわう昼休みの教室の様子を、「役者2人」の演技で想像させる必要があるからです。
劇作家・演出家 三浦直之さん
「舞台上って限られたスペースしかないから、僕が面白いなと思う演劇って、その(舞台の)外側の世界を想像できるもの。教室にいるんだけど、そこから見える校庭の景色を想像できたり、そういう瞬間にすごく感動するので『じゃあ実際この外側の空間ってどういうふうになっているんだろうね』みたいなことをやると、俳優がイメージを作る材料も増えるかなと思って」
実際、本番と同じ2人に戻すと…表情や動きに、リアリティが増したように感じます。三浦さんにも、手応えがあったようです。
劇作家・演出家 三浦直之さん
「はい、OK!いいね!」
三浦さんの演出や稽古は、演じる側には、どう映っているのでしょうか?
舞台に出演する竹内蓮さん
「俳優がどうやったら信じられるかとか、どうやったら本当に感じられるかみたいなことを多分、第一に考えてくれての演出だと思う。やっぱりやりやすいですね。すごく楽しかったですね」
舞台に出演する三上晴佳さん
「俳優を自由に放ちつつ、しっかりサポートもしてくれる作家・演出家。演出家が決めたことを俳優がこなすっていうだけだと、僕はその関係ってあんまり楽しくないから。それは俳優だけに限らず、スタッフとかみんなで何かアイディアを出し合ったり、打ち返し合ったりしたりして作るっていうのが演劇だなって思っています」
迎えた本番当日。劇場には三浦さんの作品を楽しみにする多くのファンが詰めかけました。
舞台の観客
「みんなが見つめる先に何があるんだろうっていうのを考えると、私も高校生の時、何を見ていたんだろうとか思うと、懐かしいような痛いような不思議な気持ちでほっこりもしています」
「僕たちの生活の中で結構見ない、見られてない部分にスポットが当たっていたりとか、温かい作品で素晴らしいなと思います」
「すごくよかったですね。演劇であるってことはこんなにも素晴らしいんだなっていうことを、作品を通して感じられてめちゃくちゃ感動しました」
三浦さん自身がこれから目指すものは…
劇作家・演出家 三浦直之さん
「ロロで多様な客席を作りたいっていうのがすごく夢で、いろんなジェンダーの方だったり、あと障がいを持っている、持ってない、年齢だったりとか、そういうのがどこかに偏るんじゃなくて、満遍なく集まれる劇を作りたいと思っているので、これからもそういう客席を作れるように頑張っていきたい」
(※6月26日の後編に続きます)