近年、日本の食卓から少しずつ姿を消しつつある「しょうゆ」。食生活の多様化などを背景に、全国のしょうゆ出荷量は年々減少を続けている。そんな「しょうゆ離れ」の逆風に立ち向かうように、鹿児島県内のしょうゆ蔵では様々な取り組みが行われている。

減少するしょうゆ需要、県内蔵元の新たな挑戦

濃い口しょうゆに刺身醤油…豊富な種類のしょうゆが並ぶのは、いちき串木野市にある創業1927年の吉村醸造だ。吉村醸造は「サクラカネヨ」の名称で親しまれてきた伝統の味を守りながら、それにとらわれない新商品を開発するなど、常に新しい取り組みを行っている。店内のイートインスペースでは「醤油ソフトクリーム」やお団子を提供し、若い世代がしょうゆに触れる機会を創出している。

店内のイートインスペース
店内のイートインスペース
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「団子しか知らなかったが、来てみたらしょうゆとかみそとか色々なものが売っていて、いい所だなと思った」と来店客は話す。長年愛用している客からは「しょうゆもここの物を(使っている)。濃口と薄口。やっぱり私たちに合っているのでは」という声も聞かれた。

しょうゆのトレーディングカード、驚きの販促戦略

吉村醸造が6月から始めた新たな挑戦が、「しょうゆのトレーディングカード」だ。インスタグラムで醤油に関する情報を発信している「醤油の記憶」の協力で製作されたこのカードは全4種類。

しょうゆのトレーディングカード(全4種類)
しょうゆのトレーディングカード(全4種類)

異なる味のしょうゆがデザインされており、裏面にはそれぞれのしょうゆに合った料理などが記されている。商品を2000円以上購入すると1枚、3000円以上購入するとラメが施された特別感のある極甘醤油デザインのカードがもらえるという仕組みだ。

裏面には、しょうゆに合ったレシピなどが記されている
裏面には、しょうゆに合ったレシピなどが記されている
ラメが施された極甘醤油デザインのカード
ラメが施された極甘醤油デザインのカード

サクラカネヨ直売所の永山千愛さんは「トレーディングを通してしょうゆに興味を持ってもらい、しょうゆ業界がもっと盛り上がれば、地元の味、慣れ親しんだ味をもっと広げていけたら」と期待を寄せる。

加工調味料で活路を見出す久保醸造の戦略

一方、鹿屋市の創業93年を誇る久保醸造は、自社のしょうゆや酢、みそなどを加工した特製調味料の開発に力を入れている。直売所には定番のしょうゆ以外にも、ドレッシングや鍋の素など約70種類もの商品が並ぶ。

このような調味料を製造する背景には、食卓の「しょうゆ離れ」があるという。しょうゆ情報センターがまとめた全国のしょうゆ出荷量の推移では年々減少が続き、2023年の出荷量は約68万キロリットルと、1989年と比較すると6割以下に落ち込んでいるというデータが浮かび上がる。

1989年と比較すると、2023年は6割以下に
1989年と比較すると、2023年は6割以下に

久保醸造4代目の久保真一朗専務は「共働きと食の多様化。煮物を作らなくなってきているので、濃口、薄口の需要が減ってきている」と現状を分析する。

同社は1990年代の中ごろから加工調味料の開発・製造に本格的に取り組み始めた。「かけるだけ」、「あえるだけ」、「一緒に煮込むだけ」で味が決まる同社の商品は、手軽さと便利さを求める消費者の心をつかみ、売り上げを伸ばしてきた。

久保醸造の人気トップ3
久保醸造の人気トップ3

「人気ナンバー1が『なんにでも使える酢』、2位が『たまねぎドレッシング』、そして大定番の『さしみしょうゆ』が3位。やっぱり根強い人気」と久保専務は語る。

一番人気の「なんにでも使える酢」は、様々な食材に合うように酸味のバランスや味を追求し、約1年に及ぶ開発期間を経て22年前に誕生した商品だ。酢の物はもちろん、揚げ物や南蛮漬け、冷やし中華にもよく合う。購入者からは「簡単なので、誰でもおいしくできる」と好評を得ている。

5月にはこれから旬を迎える夏野菜にもぴったりの「パパッとポリッと浅漬けの素」と、鳥刺しにつけたり唐揚げの下味に使ったりする「ガツンとにんにく醤油」という新商品も登場した。

「お酢、しょうゆ、みそなどの基礎調味料は、時代の流れによって減ってくると思うがなくなることはないと思う。基礎調味料は大切にしつつ、生活に根差した調味料を作っていきたい」と久保専務は未来を見据える。

変わらない味を引き継ぎながら、現代のトレンドもとらえる。伝統を絶やさぬために、鹿児島のしょうゆ蔵の奮闘はきょうも続いている。

(鹿児島テレビ)

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