政府と随意契約をした大手小売業者による「備蓄米」の店頭販売が順次スタートした。
「5キロあたり2000円ほどで買えて助かる」と歓迎する人々。しかし、その盛り上がりを冷ややかに受け止める人もいる。
広島市内で2店舗を展開するスーパー「たかもり」を取材すると、地域の実情と政策の“すき間”が見えてきた。

大手優遇? 備蓄米の申請条件

「需要があれば全部出す。そういった強い思いで、なんとか価格の高騰を抑えたい」
そう語ったのは小泉進次郎農相。政府は5月29日から、物価高対策として随意契約による備蓄米の売り渡しを開始。31日から店頭に並び始めた。

先行して販売が始まった宮城・仙台市では「おいしい、普通のお米とあまり変わらないです。2000円で買えて助かります」と喜ぶ声が聞かれた。

広島市南区の生鮮スーパー「たかもり 宇品本店」
広島市南区の生鮮スーパー「たかもり 宇品本店」
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一方、広島市南区の生鮮スーパー「たかもり」には、その備蓄米がまったく届いていない。
置いてあったのは、品薄になった銘柄米だけだ。広島県産のコメが4キロあたり3650円(税抜き)。店内で買い物をする客は「備蓄米に興味はありますよ。出たら買います」と話していた。

品薄になった広島県産の銘柄米
品薄になった広島県産の銘柄米

政府は5月30日から大手だけでなく中小の小売業者などからも申請を受け付け始めたが、「たかもり」では政府が決めた売り渡しの資格条件が足かせになっているという。
「随意契約の備蓄米は私たちのような規模では、まったく手が届きません。正直、大手優遇の政策だと感じています」と副社長の伊木英人さん。
中小の小売業者が申請するための資格条件は、年間のコメの取扱実績が1000トン以上1万トン未満。「たかもり」の取扱量は年間約20トン。その差は歴然だ。

「価格競争」にも置き去りか

全国展開する大手スーパーが5キロあたり2000円ほどで備蓄米の販売を進める一方、小規模スーパーは「置いていかれた」格好だ。

「銘柄米も頼んだ数は入ってこないし、売り切れた後どうしようかな…。今は逼迫した状態です」
伊木副社長の不安はそれだけではない。価格の下落が引き起こす“価格競争”の波が、小売業者や生産者の首を絞めかねない。
「生産者も、われわれもある程度の利益が確保できなければやっていけませんから」
持続可能な商売を目指す中、「何も手出しできない」現状に歯がゆさがにじむ。

農家は“コメの値崩れ”懸念

不安は生産者にも広がっている。東広島市のコメ農家・佐々木貴之さんは、政府の備蓄米政策に懸念を抱く。

東広島市のコメ農家・佐々木貴之さん
東広島市のコメ農家・佐々木貴之さん

「2000円という価格がひとり歩きして、思いっきり値段が下がった印象を与えてしまった。実際、コメ農家がその値段でやっていくには大赤字で、廃業しかない」

佐々木さんが昨シーズンに収穫した販売用のコメはなくなり、いまは売りたくても売れない状況。さらに、備蓄米の混乱によってコメそのもののイメージが悪化しないかも心配している。
「備蓄米を買ってみて、期待した味じゃないと思う人も中にはいるかもしれないですよね。当然、古いコメなので。その印象が広がれば“コメ離れ”につながる可能性もある」

広島の店頭販売は早くて6月中

流通大手・イオンは6月2日までに東京、千葉、名古屋、大阪で随意契約の備蓄米を先行販売。

テレビ新広島の調べでは、イズミ、イオン、ハローズなど広島県内の主なスーパーにも随意契約の備蓄米が入荷予定だが、発売時期は未定。フジは6月中旬、ドン・キホーテが9日以降に備蓄米の発売を予定している。
しかし、「たかもり」のような小売業者には依然として流通の見通しが立っていない。

生活に欠かせないコメ。その価格に翻弄されているのは消費者だけではない。備蓄米を取り扱えない地域のスーパー、次の新米価格を心配する農家…。解消しきれない“不平等感”が静かに漂っている。

(テレビ新広島)

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