半年前に火事で焼けた長野県佐久市の酒蔵が同じ地域の仲間たちの手を借りて復活の酒造りに臨みました。出来上がった新酒で「恩返しをしたい」と話しています。

■酒蔵の5代目が「新たな一歩」

タンクの中でかき混ぜているのは、酵母や米麹などを発酵させた「もろみ」。

日本酒になる一つ前の段階です。

古屋酒造店・荻原深さん:
「すごく上品な香りがあるので、いい出来になったんじゃないかと思う」


佐久市の「古屋酒造店」の5代目・荻原深さん(46)。

2024年とは違う思いで新酒を仕込んでいます。

古屋酒造店・荻原深さん:
「火事で古屋酒造店としての歴史も燃えてしまったので、新しい一歩です。一度は諦めた、頭の中が真っ白になった状態からだったので、ありがたいの一言」

■130年以上の歴史ある酒蔵が全焼

2024年12月、荻原さんの酒蔵は突然の火災に見舞われました。

130年以上の歴史がある酒蔵と住宅が全焼し、米などの原料や設備を全て失いました。

古屋酒造店・荻原さん(当時):
「ただ蔵が燃えてるのを見つめている感じで、悔しさというか、自分の無力感も感じた。火災直後は、もう本当に酒造りに関して全く何も考えることができない状態でした」


■仲間が声かけ「うちで酒造れよ」

一度は諦めかけた「酒造り」。そんな時に手を差し伸べたのが日本酒造りの仲間でした。

佐久地域の13の酒蔵は、共同で酒米作りや仕込みをするなど普段から協力していて、火事の直後から荻原さんに声をかけてくれました。

荻原さん(当時):
「佐久の13蔵の皆さまが『うちで酒造れよ』と温かい声をかけていただいたので、少しずつ酒造りに対して前向きに向き合うことができてきた」


■火事から4か月、酒造りを再開

火事から約4カ月。

4月、荻原さんは佐久穂町の黒澤酒造の設備を借りて酒造りを再開しました。

黒澤酒造・黒澤洋平さん:
「昔からの付き合いもあるし、同じ酒造業として、一歩踏み出すにあたって協力できれば」

この日は最初の工程となる「酒母仕込み」。

佐久市産の米麹と酵母を混ぜ合わせ、酒のもとの「酒母」をつくります。

古屋酒造店・荻原さん:
「やっぱり疲れますね、酒造りは。3カ月なまっていた体ですので、こたえます。きょう米を触って、水に触れて、やっぱり酒造りたいと改めて感じた」


■酒母仕込み「いい状態」

2日後、酒母の状態は。

荻原さん:
「順調にふつふつと酵母が元気になっている様子が見られて、米もしっかり溶けて酵母に栄養を供給しているので、いい状態」

仕込んだ酒母はうまく発酵しているようです。


■「ふくよかな味わいの酒になるかな」

この日は「麹引き込み」。

酒の品質を決める麹をつくる重要な作業です。

佐久市産米「ひとごこち」80kgを約1時間蒸し仕上げます。

荻原さん:
「蒸したすぐの米の匂いをかいだり、僕らの業界では『ひねりもち』というけど、手でつぶした感覚で中までしっかり蒸せているか、伸びがどれくらいあるか確認して、蒸しあがりの状態を確認している」


蒸した米は「麹室」で冷ましたあと、麹菌のもとの「種麹」を満遍なく振りかけ、混ぜ合わせます。

荻原さん:
「思っていたよりはやわらかめの、伸びのあるしなやかな蒸しあがりになっていたので、ふくよかな味わいの酒になるのかなと」


■再開して約1か月 日本酒の味は

5月16日、酒造りを再開して約1カ月。

酒母や麹、水などを混ぜ約20日間、発酵させた「もろみ」。

酒造りの最終工程「上槽」の日を迎えました。

荻原さん:
「終わったという感じと、さみしさという感じと、わくわくというかどんな酒が出てくるのか、楽しみもかなり強い」


出来上がった「もろみ」は圧搾機へ。

黒澤酒造・黒澤洋平さん:
「絞られたお酒が布を濾(ろ)されてここから出てくる」

ここで「酒」と「酒粕」に分離します。

搾りたての日本酒の味は。

荻原さん:
「含んだ時の口当たりの感じは、うちで造っていた時のお酒のような感覚があって懐かしさを覚えた。味のふくらみや酸の味わいは黒澤さんのお酒のニュアンスもあり、うちと違うところもあったので、味わっていて面白いなと」

出来上がった日本酒は古屋酒造の看板商品だった2つの酒の名前を取り「深山桜・和和和」と名づけました。

約1カ月、ともに酒造りをしてきた黒澤さんは。

黒澤酒造・黒澤洋平さん:
「古屋さんの銘柄で売るお酒ですので、恥ずかしくないものを造らなければいけないとドキドキしながら、佐久の米を中心に使いながら、皆でいいお酒が造っていけたらいいと思います」

■「酒の1滴は重い1滴」恩返しの思い

決意を込めて作った2025年の新酒。

元の場所での酒造りにはまだ時間がかかりそうですが、荻原さんは一歩ずつ進もうとしています。

荻原深さん:
「大勢の皆さんに支援して、助けていただいて、ようやくここに来られているので、この1本を商品として出すことで、『恩返し』じゃないですが、酒の1滴は重い1滴だなと。改めて今回、こういう形で酒造りさせていただいて感じることができました」

長野放送
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