ヤマト運輸が10月からの一部料金の値上げを発表した。従業員および輸配送パートナーの労働環境の改善などが背景にある。
近年、インターネットショッピングなどの拡大により、宅配便の取り扱い個数が急増。大手宅配業者だけで年間50億個超になるという。
一方で、2017年にドライバーの労働環境悪化が表面化して以来、2024年問題など、宅配業界の人出不足は深刻な状態が続いている。大きな要因の一つとされるのが「再配達」の問題。国土交通省によると、2024年の再配達率は10~11%前後で、これを労働力に換算すると「年間約6万人のドライバーの労働力」に相当するのだという。
再配達を減らすための手段として「置き配」サービスが広がる中、紛失や破損といったトラブルも多く、相談件数が増加している。
トラブルなく再配達を減らす方法はないのか?流通経済大学流通情報学部・学部長で、2024年問題の政府検討会メンバーでもあった矢野裕児教授に話を聞いた。
コロナが変えた「置き配」の意味
【流通経済大学 矢野裕児教授】
2019年9月、アマゾンが国内初となる「置き配」の実証実験を一部地域で始めました。ところが、翌年、コロナ禍になってしまった。当初は「再配達を減らすための試験運用」だったものが「対面で直接受け取りたくない」に変わってしまったのです。
結果として「置き配」のニーズが増えたことで、アマゾンは範囲を全国に広げ、さらに日本郵便やヤマトといった宅配業者も置き配をスタートさせました。
その後、コロナは収まりましたが、置き配が定着してきたことと、国も置き配を勧めたいということもあって、当初、及び腰だった宅配会社も正式に認める方向に動いたのです。
置き配トラブルが増えた理由…
コロナの時は、置き配というより、人との直接の接触を避ける意味で「置いておいてください。すぐに受け取りますから」だったのが、コロナが収束し、置き配という形だけが残りました。そして、リモートワークから出勤する勤務形態に戻り、荷物を外に置いておく時間が長くなったことでトラブルが増えたという側面があります。

また、置き配に適していない状況でも無理やり置いていくことも大きな原因です。
本来、置き配というのは、車庫や物置、宅配BOXといった「置き場所をしっかり確保できる状態で行う」ものでした。しかし日本の住宅事情は、そういう場所がないケースも多く、置き配トラブルの増加につながってしまっています。
個人で出来る対策は?
再配達を減らすために、すぐに個人で出来ることとしては、下記のようなことが考えられます。
*注文時に「まとめて配送」設定(※出来る場合)
*注文時に「受け取り可能な日時」を指定
*宅配会社のメンバーズ登録(無料)をして、受け取り日時の設定

注文時の日時指定は出来ない場合もありますが、配送会社のメンバーズ登録を行っていれば、これを利用することで事前に配達日時を変更できます。完全にマッチングできる訳ではないでしょうが、スムーズな受け取りの確率は上がります。
また、コンビニ受け取りは、自分の都合のよいタイミングで受け取れ、人を介すことで破損などのトラブル防止にもつながります。
ストレスのない環境整備を
そして、大きくは「宅配BOX」や「宅配ロッカー」を増やすことです。今は明らかに宅配BOXの数が足りなくなっています。集合住宅に後付けする場合、スペースの確保や予算面の問題があります。しかし、安心して置き配できる場所を増やすことは、重要な社会問題の1つとされる「再配達増加」を減らす有効な手段です。補助金の導入など、国として取り組んでほしいと思います。
宅配BOXや宅配ロッカー、コンビニ受け取りが増えることは、受け取り側の「何時までに帰らないといけない」というストレスを減らすことにもつながります。
宅配増加の大きな要因のインターネットショッピング市場の拡大。ただし増加しているといっても、小売販売額全体の内、10%程度でしかありません。中国の4割、アメリカの2割と比べても、これからもっと伸びる可能性があります。
そうなった時に完全にパンクしないためにも、今から対策をとり、ドライバー、受け取り側、双方にストレスのない環境を作っていければと思います。
(流通経済大学 矢野裕児教授)
取材:高知さんさんテレビ