高知県に住む40代男性の銀行口座に2025年1月31日、『国税還付金』として税務署から94万1220円が振り込まれた。男性が「何の金か分からない」とそのままにしておくと、2日後に別の知らない口座に94万円が送金されていた。
5万円の副業のはずが、知らぬ間に数億円規模の税金詐欺に加担していた―。SNSで広がる新たな手口は、誰もが犯罪者になりうる巧妙な仕組みだった。
独自入手の資料から浮かび上がる闇バイトの実態
男性の口座は、匿名・流動型犯罪グループ「トクリュウ」によるe-Tax還付金詐欺に使われていた。県警は主犯格の小笠原惇容疑者ら10人を逮捕。取材によると、被害総額は数億円に上る可能性もある。
さんさんテレビは関係者から、この事件に関わったとみられる28人の名簿などの資料を独自に入手。このうち名嘉優貴容疑者と猿山順子容疑者はすでに逮捕されている。今回取材したのは、その名簿に記載されていた県内在住の40代男性だ。
「金がなかった」“副業”勧誘メールに飛びついて…
事の始まりは2024年9月。「今ならキャンペーンで5万円のキャッシュバック」「お仕事ご案内の公式ラインになります」と記されたメールが男性のスマートフォンに届いた。
男性は「金がなかった。パチンコもするし、ネットビジネスでだまされて借金ができて債務整理中。これやったらできる」と、メール記載の「ジョイントライフ」という会社をかたる担当者に返信。するとLINEで必要な手続きが送られてきた。

【LINEで届いたメッセージ】
「ネット販売でさまざまな事業をされている個人事業主さんの決済代行をさせて頂く簡単なお仕事になります」
「1、合同会社の設立設立費用は弊社が負担します。
2、個人事業主の売り上げを受け取るために必要な法人銀行口座の開設。」
「売上金受け取り口座が多ければ多いほど給料に反映します」
「ネットバンクは必須になります」
違法と知りながら…言われるがまま「口座貸し」
(40代男性)
「口座のまた貸し。口座貸しは向こうも悪い仕事だと分かっているが、こっちはお金を払わない、使わないと思って、口座を貸して渡してあげて、何かあったらいいかなと思って。口座情報をいっぱい送って、どれがどれか分からない」
男性は、複数の銀行でインターネット口座を開設し口座番号や暗証番号などをトクリュウの担当者に送信。すると、また別の手続きを指示するメッセージが届いた。
【LINEで届いたメッセージ】
1・個人事業主開業届登録の申請
2・e-Taxの発行利用者識別番号の取得
男性は2024年9月、最寄りの税務署に実態のないWEB制作業の開業を届け出た。また、所得税の確定申告に必要なIDとパスワードを取得。運転免許証の写真とともに再びトクリュウの担当者に送信した。
94万円の振込と消えた担当者
2025年1月、県内の税務署から「国税還付金振込通知書」が届き、ネット口座には税務署から94万1220円が振り込まれていたのだ。

男性はすぐにジョイントライフの担当者に連絡をとった。するとー
(40代男性)
「『引き出さんとって』と言われて。『入り用がある、払わなきゃいけないお金』と言われて。僕も引き出したら90数万円をとれる。それをしたらいかんなと思って」
口座の金をそのままにしておくと、2日後に別の知らない口座に94万円が振り込まれていた。男性は口座に残された3000円をATMから引き出した後、5万円のキャッシュバックを求めるメッセージを送信。しかし、担当者は3月の返信を最後に連絡がとれないようになった。
「それでえーかな」詐欺への加担を知らされても…
記者「 e-Tax詐欺事件のニュースは?」
男性「見ていない。テレビは見ない」
記者が事件の概要を説明し、男性が詐欺に関わったことを伝えるとー
男性「特に…。税務署に行った時間が無駄になっただけ。3000円もらってその分得になった。それでえーかなみたいな」
記者「その代償としてトクリュウに個人情報を渡したリスクについては?」
男性「うーん、住所は教えているが…引っ越す予定もしている。一応」
「これ詐欺なんですか?」60代女性の証言
また、事件に関わり、トクリュウに個人情報を提供した関東の60代女性にも取材をした。
記者「e-Tax登録に必要なIDとパスワードを送った?」
女性「そうです。その話を頂いた会社、ジョイントライフだったかな」
60代女性もジョイントライフという会社をかたる担当者の指示でネットバンクを開設し暗証番号などをLINEで伝えていた。
女性「収納代行しませんか?それも副業ですが。私の口座を使って5%が振り込まれるという話があったが。私の銀行口座に振り込まれたことがあったが、それは一旦、回収しますと言われて回収された。これ詐欺なんですか?」
記者「詐欺に利用されたということですね」
女性「えー!本当ですか?だから電話もつながらない」
本当の被害者は納税者
この詐欺事件には数百人が関わり、被害総額は数億円に上る可能性もある。
事件の手口は、闇バイトに取得させたe-TaxのIDとパスワードでトクリュウの担当者がうその確定申告をして、1人あたり100万円の還付金が闇バイトの口座に振り込まれるというもの。

取材を通して、トクリュウがSNSを使って集めた「口座貸し」の闇バイトを利用したという構図も見えてきた。
本当の被害者はきちんと納税をしている国民だ。そもそも確定申告のうそを見抜けないことが問題であり、再発防止に向けて一刻も早い制度の見直しが求められている。