高齢化の進む地域で、孤立しがちな「高齢の男性」が地域と関わる機会を作り、孤立を防ごうという取り組みが行われています。その取り組みは堅苦しいものではなく、晩酌です。晩酌をきっかけに地域の交流の輪が広がりつつあります。
仙台市泉区の長命ケ丘4丁目。地域の高齢男性が集まってきました。「まずは乾杯しましょう。かんぱーい!」。開かれているのは長命ケ丘四丁目に住む高齢男性の集まり「晩酌の会」です。参加資格は75才以上であること。この日は8人のメンバーのうち5人が集まりました。
月に一度、土曜の午後6時から開かれるこの会。始まりは2年前。現在、晩酌の会代表を務める勝倉和彌さん(86)が町内の男性に声をかけたことでした。
勝倉和彌さん
「定年になって会社を辞めた場合、何も知らない、この町内のこと。飲み会でもしたらどうか?と本間さんに提案したの」
その声を受けたのが、本間照雄さん(74)。勝倉さんの1回り年下です。本間さんは、東日本大震災発生後、被災地の孤立支援に取り組んだ経験もあります。
本間照雄さん
「私だけでなく、この19班は75才以上の人が結構いるので、皆さん誘ってもいいかと話したら、ぜひということだった。それが発端。高齢の人たちが、皆さん家の中であまり外に出る機会がない。外に出る方法は何かないかと考えていたときに、他者と関わるきっかけに晩酌という個人的な行為を使えると思った」
2人の気軽な思いつきが地域を巻き込んだ「晩酌の会」に発展しました。何か特別なことをするのではなく、日常の延長線上にある他者との接点。40年以上同じ町内にいても、お互いを知らない関係だったといいますが、出席者を高齢の男性に限定したことで皆さん「晩酌の会」を楽しめているそうです。
菅野恒さん(80)
「母ちゃん来たら何も話さなくなる。男同士だからこそ、共通項がいっぱいある。会って話してみなければわからないことだらけ」
吉田純一さん(79)
「この年齢になって初めてお会いして、気持ちを一緒にして何かをする。こういうことはなかなか体験できない。すごく自分の生きがいになっている」
勝倉和彌さん(Q、勝倉さんの一言から生まれた関係)
「そうなの。だから、会長。まつり上げられているの」
皆さんが暮らす長命ケ丘地区では、1970年代に団地の造成が始まりましたが、時間の経過とともに高齢化が進んでいます。65才以上の人の割合は40.6パーセント。これは仙台市全体の25.42パーセントを大きく上回ります。中でも本間さんは、高齢男性の抱える課題を強く感じています。
本間照雄さん
「高齢と一口に言っても男性と女性の場合で圧倒的に違うのは、男性は仕事中心で職場中心で人間関係も全てで、何十年も地域との関わりがなかったので接点がない。晩酌の会という一つのきっかけを作れば、今まで皆さん持っていた地域愛などが少しずつ高まるのではないか」
そして、この晩酌の会にさらなる広がりが出ています。メンバーは年に3回の町内会の集まりで、自分たちが入れた珈琲を振る舞っているのです。
住民
「うちの主人は全くできないので本当に感激です。ありがたく頂いている」
「子供も楽しいみたいでずっとニコニコで参加している」
「コーヒーを入れるだけでなく、いろんなお話を含めて、きょうどうですか?と聞いてくれたり。そういうところも大変うれしく感じている」
この日は1歳から88歳まで約50人が集まりました。晩酌の会が、地域全体とのつながりになってきているのです。
菅野恒さん
「会話のきっかけになる。きのうまですれ違っていた人が、きょうから『おはようございます』となる。すごくいい機会だと思う」
吉田純一さん
「集まって食事をしていろいろな話をして終わりではなく、活動のエリアが広がったことは人生プラスになっていると思う」
勝倉和彌さん
「うれしいですね。こんなに大勢集まって。そして何杯もおかわり。こんなのあまりない」
そして、本間さんもこの交流を通し、高齢男性の「孤立」という社会の課題に同じ高齢男性の立場でこれからも向き合います。
本間照雄さん
「晩酌は目的ではなく手段。そこからご高齢の人が社会的な役割を果たすという出番が増えてきて、自分自身も楽しめて、社会的な役割も見出せる。そこが私としては目的。楽しい連鎖が長命ケ丘全体に広がっていくと長命ケ丘にある既存のシステムも変わってくるのではないか」
晩酌の会から広がりを見せる地域の輪。地域との新たなつながりは、小さなきっかけから生まれるのかもしれません。