トヨタ自動車は5月8日、2026年3月期におよそ1兆円の減益となる見通しを明らかにした。 “トランプ関税”の影響が見通せず、トヨタが守り続けてきた「国内生産300万台」が試練に立たされている。愛知の下請けメーカーも、「現時点で影響は限定的」としながらも、先行きの不透明さに危機感を強めている。
■26年3月期は“約1兆円の減益”見通し 国内生産「300万台維持」は名言せず
トヨタは5月8日午後、2025年3月期の決算を発表した。
認証不正問題などに揺れた1年だったが、売上高は48兆367億円で過去最高を更新し、本業のもうけを示す営業利益は4兆7955億円だった。

最も注目が集まったのが、アメリカのトランプ政権の関税政策への対応だ。
トヨタ自動車の佐藤恒治社長:
まさに今、政府間交渉も含めて、政府関係の皆さまがご尽力いただいているところでありますし、関税の詳細はまだまだ流動的なところがあるので、先を見通すのは現段階で難しい。
トヨタは2025年度の業績予想で、トランプ関税について、暫定的に4、5月分だけで1800億円利益を減らすと試算した。さらに、追加関税の発表以降で円高が進んだことなどから、営業利益はおよそ2割減り、3兆8000億円になると見込んでいる。

会見では、国内のものづくりや雇用を守れるかにも質問が相次いだ。
Q国内生産300万台体制は揺るぎのないものだという風に考えてよいのか?
トヨタ自動車の佐藤恒治社長:
国内生産が持っている意味というのを忘れてはいけないと思っています。それは揺るがずに、我々は守っていきたいと思っている。中長期的には、現地のお客さまに適した商品を現地で開発して、現地で生産していく形をしっかりとっていく。

2024年度のトヨタの生産台数952万台のうち、312万台が東海地方を中心とした国内の生産だ。佐藤社長は8日、豊田章男会長が社長時代から度々強調してきた「国内生産300万台の維持」を明言しなかった。
■トランプ大統領に名指しされるトヨタ 約125億円の投資計画でアピールも…
これまでにトランプ大統領は「トヨタはアメリカに100万台の外国車を販売している」と発言するなど、トヨタは度々、名指しされている。
2024年、日本からアメリカへは53万台を輸出した。トランプ政権の要求は、この輸出を減らしてアメリカ現地での生産を増やすことだ。当然、「国内生産300万台」の維持はより難しくなる。

石破首相は5月1日、大学の同級生でもある豊田章男会長と会談した。アメリカとの交渉について意見交換したとみられるが、先行きは見通せない。
石破首相(5月2日):
お互い国益をかけて交渉しているので、そこは一致点を見出すために最大の努力をお互いにしていく。

そんな中、トヨタは4月23日、アメリカ・ウエストバージニア州の工場にハイブリッド車の部品を生産する新しいラインを作るため、8800万ドル(約125億円)を投資すると発表した。トランプ大統領の意向に応える姿勢をアピールした。

アメリカに次ぐ輸出先は中国だ。4月23日、上海モーターショーでは新型のEV「bZ7」を発表したが、この車は中国の自動車メーカーと共同開発・現地生産する“中国専用”だ。

電池をはじめ多くの部品が中国メーカーのもので、日本のものづくりにとって厳しい環境だ。
■「影響は限定的」と話す一次下請けメーカー それでも不安は“アメリカでの販売減”
愛知県稲沢市の「イイダ産業」は、従業員およそ400人のトヨタの一次下請けだ。

イイダ産業の主力製品は、車のボディと屋根をつなぐ柱に入れて走行時の騒音を減らす「防音材」で、人気車種の「ヤリスクロス」などで使用されている。

車のボディなどに使う「接着剤」も生産していて、アメリカの現地工場へ輸出したあと、各メーカーに納品している。
関税を負担するのはイイダ産業になるが、輸出量はそれほど多くないため、「現時点で影響は限定的」だという。

イイダ産業の飯田耕介社長:
基本的に我々が作ったものは、日本国内の自動車メーカーに納めています。そこから一部、アメリカに輸出されていると思いますが、アメリカで関税がかけられると、アメリカでの販売台数が落ちることは考えられます。そうすると、日本での輸出が減る。日本での生産が減っていく。そうすると、我々の工場への影響が出てくると思います。

より心配なのが、関税の分、日本から輸出する車の価格が上がり、アメリカでのトヨタ車の販売が落ち込むことだ。
トヨタは当面、追加関税の部分を被る形で価格を据え置く姿勢だが、25%の出血を続けるのは現実的ではない。
関税の影響を避けるために現地生産を増やすとしても、日本での生産台数が減り、中小の部品メーカーには痛手となる。
飯田社長は「国内生産300万台」を重視してきたトヨタの姿勢に、期待を寄せている。

イイダ産業の飯田耕介社長:
トヨタは基本的に「アメリカでの販売価格を上げない」と言っていますので、そんなに販売台数は落ちないんじゃないかと思います。販売台数が落ちないということは、日本から輸出する台数もあまり落ちない。つまり、日本での生産が落ちないんじゃないかなと思います。
■トヨタの佐藤社長「じたばたせずに、地に足をつけてやれることやる」
4月25日、トヨタグループ7社が2025年3月期の決算を発表した。しかし、トランプ関税の影響は見通せず、今期の業績予想に盛り込むのを見送るなど対応が分かれる結果となった。
豊田自動織機の伊藤浩一社長(4月25日):
アメリカの追加関税につきましては、販売への影響を見通すことは難しく、関税のコスト上昇分も、正確な算出が困難な状況です。

デンソーの松井靖副社長(4月25日):
トランプ政策の下振れは一切入れていないので、景気が大きく減速するようなことがあれば、それは下振れリスクとして認識しますので、上方修正・下方修正はあり得ると思っている。

またアイシンは、トランプ関税の影響で営業利益が200億円ほど減るという予測をしている。

名古屋銀行に2020年頃にできた、トヨタの取引先を支援する専門部隊「自動車サプライチェーン支援室」も、トランプ関税への対応に追われていた。
自動車サプライチェーン支援室の近沢保室長:
現状だと、情報というか関税の影響が不確実で不透明な状況。完成車メーカーやティア1、上位サプライヤーの方針がどう出るか待っているという話は伺っている。

トヨタの取引先は、東海地方を中心におよそ6万社あるともいわれている。
名古屋銀行が1000社から集めたアンケートでは、トランプ関税について、63.8%の企業が「影響がわからない」、76.7%の企業が「静観する」と回答していて、中小の取引先は身動きが取れない状況であることが伺える。

トヨタの佐藤社長は8日の決算会見で、日本国内でのモノづくりの意義を強調した。
トヨタ自動車の佐藤恒治社長:
サプライチェーンを守りながら取り組んで、輸出をすることで外貨を稼ぐ。あるいはその外貨によって、エネルギーなど国内に必要な取引に応用されていく。我々の国内生産に対する思い・意思はぶれずに取り組んでいくつもりでおります。
想定外の「トランプ関税」を乗り越えることができるのか…。
トヨタ自動車の佐藤恒治社長:
我々が今一番大事だと思っているのは、とにかく軸をぶらさずに、じたばたせずに、しっかりと地に足をつけてやれることをやっていく。

2025年5月8日放送
(東海テレビ)