21世紀初頭に創刊した大怪獣の名を冠したフリーペーパーがまもなく64号を発刊する。
100号を目指し、長田渚左編集長は意気軒高である。
季刊フリーペーパー『スポーツゴジラ』編集長はノンフィクション作家・長田渚左さん
『スポーツゴジラ』は、特定非営利活動法人・スポーツネットワークジャパンが発行元の季刊フリーペーパー。

2006年1月から年に4回のペースで発刊されてきた。
置かれているのは、都営地下鉄(大江戸線・浅草線・三田線・新宿線)各駅、全国の大学102カ所、スポーツ関連団体など。
各メディアにも届けられてきた。

編集長は、ノンフィクション作家の長田渚左さん。
1980年代から数多くのドキュメントを世に送り出してきた。
一方で、テレビのスポーツキャスターの草分けとしても知られている。

長田渚左編集長:
スポーツネットワークジャパンは、取材を通じて人のつながりをより広げ、深めることが目的のNPO法人。協調関係にあるのが、日本スポーツ学会で創設28年。年に4回のペースで「スポーツを語る会」を開催してきました。大学教授、スポーツ研究者、競技団体やメディアのOB、アスリート、お医者さん、経営者、そして愛好者が垣根を超えて、忌憚(きたん)のない意見交換ができる場です。良くも悪くもスポーツ界はタテ型社会の典型ですので、横に斜めに関係がつながる。会のテーマも、テレビ、専門誌などが踏み込まない領域、戦争や差別、民族やジェンダー、体罰と教育など。スポーツゴジラで会での内容を全国に誌面で伝えてきました。
発刊の決断はサッカー元日本代表監督・岡田武史さんの語った「愛」
長田編集長が発刊を決断したのは2002年10月15日、早稲田大学所沢キャンパスでの「スポーツを語り合う会」がきっかけだった。

早大ア式蹴球部OBでサッカー元日本代表監督・岡田武史とレスリングフリー90kg級五輪2大会連続銀メダリストで早大教授・太田章。
ワールドカップ日韓大会でサッカー熱が高まっている中で岡田が語ったのは、サッカーの戦術論ではなく、「愛」についてだった。
岡田が後輩たちに説いたのは「地球愛」環境問題への自らのアプローチについてだった。
日本サッカー界屈指の論客、岡田がテレビなどのメディアで熱弁しても、おそらくカットされてしまう事柄だった。
司会進行を務めた長田は、会場を埋めた学生たちのまなざしが熱を帯びていくのを舞台上で感じた。
シンポジウムを終え、所沢キャンパスから早大生ですし詰めのバスの中。
席でうずくまる長田の頭上のつり革にぶら下がったピアスと茶髪の学生の会話が耳に止まった。
「俺、早稲田に入って、きょう初めて良かったと思ったよ。岡ちゃんの愛の話、ここでしか聞けない話だよな」
「あぁ、俺も同じだよ」

長田渚左編集長:
スポーツの結果や記録、技術論とは異なる面白さ。学生や次世代にスポーツが産み出す“賜物”の姿を伝える使命を感じました。気軽に手に取って、何度も読み返せる紙媒体が良い。脳生理学でページを繰ることが脳に影響するという話もあります。バスの名で聞いた若者の本音がスポ―ツゴジラ出版の引き金でした。七転八倒の18年になります。
2023年、フリーペーパーの代名詞と呼ばれた『ホットペッパー』(リクルート)が街角から消えた。
2000年創刊、若者の衣食住をつかさどってフリーペーパー界の巨人が消えた。
雪崩を打つがごとく、老舗雑誌の『週刊朝日』、『アサヒカメラ』、『ザ・テレビジョン』、『ぴあ』が廃刊し、「小学生シリーズ」は『小学1年生』を残すのみ。
スポーツ専門誌では、『ワールドサッカーキング』、『パーゴルフ』、『ボクシングマガジン』、『近代柔道』などが書店から姿を消した。

「スポーツを語り合う会」では、戦争、ジェンダー、障がい、セカンドキャリア、原発、漫画、食、科学、国際交流と硬軟織り交ぜたテーマで年に4回。
テーマに沿った各分野のスペシャリスト、リーダー、実践者たちが登壇する。
語る会の内容を、ライターが読み物として誌面に落とし込む。

長田渚左編集長:
テーマに合致したベストな方に原稿作業を依頼してきました。日本のスポーツ文化の研究・普及・支援の一助になれるように、多面的な視点と発想で忌憚なく意見交換し、提案・議論・行動のヒントにする。そんな誌面作りを心がけています。
月刊誌『Number』が、スポーツの瞬間、アスリートの素顔、戦いの実相をルポとグラフィックで描き出す劇場だとすれば、『スポーツゴジラ』は、スポーツ界の事象を掘り下げる思考の実験室といった趣がある。
「平和があってこそのスポーツ」目標とする100号まで揺るがず
そして、オリンピック休戦についても活動してきた。
2018年平昌五輪が北朝鮮のミサイル攻撃で危機にさらされた時、日本スポーツ学会は、スポーツゴジラ誌面でも休戦の署名を呼びかけた。
長らくIOC(国際オリンピック委員会)委員を務めたアルペンスキー銀メダリスト・猪谷千春さんが平昌で、IOCのトマース・バッハ会長に数万人の署名を手渡した。
しかし、ロシアとウクライナ、パレスチナとイスラエルなど戦火が鎮まる糸口さえ見つからない。

長田渚左編集長:
青臭いと言われるかもしれませんが、平和があってこそスポーツです。スポーツ文化は平和への一助になるものと信じています。オリンピックは平和の祭典。その姿勢は目標とする100号まで揺るぎません。

月に2回、スポーツゴジラの支援者らが集う「スポーツライター講座」には、さまざまな人たちが自らの原稿を持ち寄り、意見を出し合って研さんを続けている。
スポーツゴジラ最新64号の特集は「アフリカ甲子園プロジェクト」。
野球不毛の地・アフリカに野球の種をまいて育んで花を咲かせるプロジェクト。
アフリカの子どもたちに、実践した野球を通じた人間教育の現在・過去・未来が掲載される。
(撮影:産経映画社)