トランプ大統領の政策をめぐる不透明感がアメリカの「トリプル安」を招くなか、日米財務相会談で、アメリカ側からドル高是正をめぐる言及がなかったことで、対ドルの円相場は下落方向に進んだ。
「為替目標の話はなかった」
加藤財務相は、ベッセント財務長官との初会談後の会見で「米国から為替水準の目標や枠組みの話は全くなかった」と述べ、「為替レートは市場において決定され、過度な変動や無秩序な動きが経済・金融の安定に悪影響を与えることを再確認した」と説明した。

これらの内容は、日米を含むG7=主要7か国がこれまで合意してきたもので、2017年5月の声明では、すべての国が通貨の競争的な切下げを回避することの重要性が強調されている。会談では、こうした認識を改めて共有した形となった。
日米会談に先立って、ベッセント財務長官は、為替レートの目標を取り上げる考えがないことを明らかにしていたが、実際、会談の場で、アメリカ側からドル高是正についての具体的言及はなく、両国は緊密に協議を進めていくことで一致した。「驚くようなものはなかった」というのが日本側の受け止めだ。

外国為替市場の円相場は、会談後、ドルを買い戻す動きが広がり、25日には1ドル=143円台後半まで下落する展開となったが、トランプ政権による「ドル高是正」要求をめぐる懸念が消えたわけではない。
「マールアラーゴ合意」への警戒感
トランプ大統領は20日、「非関税障壁による不正」と題した自身のSNSへの投稿で、8項目を列挙し、1番目に「為替操作」を掲げていて、市場では、トランプ政権がドル高是正に向けた国際協調を求めるのではの警戒感がくすぶる。

こうした枠組みは、トランプ氏の別荘の名をとって「マールアラーゴ合意」、もしくは、1985年に主要国がドル高是正で合意した「プラザ合意」を踏まえ、「第2プラザ合意」とも呼ばれている。
トランプ政権の政策は、スティーブン・ミランCEA(大統領経済諮問委員会)委員長による2024年11月の論文がたたき台のひとつになっているとの見方が強い。
この論文は、ドルが過大評価され、アメリカ製造業の空洞化や貿易赤字がもたらされていると指摘、不均衡是正のため、貿易・通貨政策の大幅な見直しを掲げ、関税や安全保障を交渉カードに据えつつ、ドル高是正への協調的な通貨調整を促していく可能性が示されている。
強硬姿勢をいったん打ち出すも…
こうしたなか、広がりつつあるのが「トランプ大統領も金融市場には勝てない」という見方だ。関税や経済政策をめぐって強硬な姿勢をいったんは打ち出すものの、相場が大きく動揺し「アメリカ売り」が強まると、措置が一時停止されたり前言が撤回されたりすることを注視したものだ。

9日の相互関税の上のせ分発動をめぐっては、米国株、米ドルに加え、米国債にまで売りが急速に広がり、「トリプル安」が強まる事態となったが、発動から13時間ほどで、90日間の一時停止を発表。解任をちらつかせて利下げを求めてきたFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長への攻撃を強めたことで、21日のダウ平均が一時1300ドルを超えて下落し、その後の外国為替市場の円相場で一時1ドル=139円台をつけるなど、幅広い通貨に対するドル売りも加速すると、22日、一転して「解任するつもりはない」と明言。
23日には、アメリカ景気や金融市場の悪影響への懸念が高まってきた中国への追加関税をめぐり、税率引き下げの可能性も示唆した。

トランプ大統領の強硬な態度がアメリカ経済の不確実性への懸念を深め、アメリカ売り圧力が強まる事態になると、トランプ氏も市場に気配りせざるを得なくなる――そんな見方が広がってきている。
政策や法制度をめぐる不透明さが経済活動の重荷になるという警戒感が一段と高まるなか、”やりたい放題”について、市場から方針転換を迫られる場面が増えていくのか。
投資家のアメリカ離れの行方とともに、今後のトランプ政権の「朝令暮改」パターンの動向が注視される局面になってきた。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)