埼玉・深谷市で、老朽化した市営運動施設が解体を条件にマイナス4335万円で落札された。市は費用負担を抑え、早期解体を図る狙いだ。「マイナス入札」は、2018年導入後5件目で、跡地は住宅に再生される例も多い。専門家は税収確保へ有効と指摘し、老朽化対策の切り札として注目される。
公共施設を“マイナス価格”で売却
公共施設の老朽化問題を巡り、ある自治体が取り入れている打開策が注目されている。
老朽化で使われなくなった埼玉・深谷市にある公共施設が、地元のリサイクル業者によって落札された。その入札方法というのが「マイナス入札」というものだ。

「マイナス入札」とは、建物の解体を条件に市が保有する土地を公売する一般競争入札のひとつだ。実際の土地評価額から建物の解体費用を差し引いたマイナスの金額で売る。
つまり「市がお金を出して土地を買ってもらう」という入札方法だ。

その「マイナス入札」で、今回落札されたのは深谷市の公共施設「旧岡部B&G海洋センター」だ。体育館やプールなどを備え、市民の運動施設として親しまれていたが、老朽化により5年前に休館となった。
「民間ノウハウで効率的に解体できる」
深谷市は、入札予定価格を過去最大のマイナス価格となるマイナス6637万円に設定した。実際の落札額も過去最大となるマイナス4335万円となった。市が4000万円あまりを負担する格好だ。
深谷市公共施設改革推進室・小暮悟史さん:
購入した落札者の方が民間のノウハウを使って効率的に解体ができる。時間面的にすごくメリットがある。市が積算した金額よりもだいぶ安く解体できる。

「マイナス入札」は、2018年に深谷市が全国の自治体で初めて取り入れ、今回で5件目だ。上手く再活用できているという。その現場のひとつを取材した。
記者:
こちら深谷市の旧中瀬小体育館があった場所ですが、今はマイナス入札によって住宅に生まれ変わっています。
複数の住宅が建ち並ぶこの場所には、かつて小学校の体育館があった。老朽化のため閉鎖となり、7年前に「マイナス入札」で公売された。
落札者の関係者:
(落札額は)マイナス795万円です。商工会の仲間で「家欲しいね」「土地欲しいからみんなで落とそうよ」と。
近隣住民からも、歓迎の声が聞かれた。
深谷市民:
結婚したらみんな外に出ちゃうから。そこ(住宅)なんかみんな新しく来た人だよ。人数が多くなるからいいんじゃない。
全国へ波及するマイナス入札の可能性
この「マイナス入札」は、公共施設で進む老朽化問題の打開策として今、注目されている。
深谷市公共施設改革推進室の小暮悟史さんは、「2024年だけでも、相当な数の自治体から問い合わせがきています」と話す。

石川・小松市も2025年に入って保育所の跡地をマイナス入札で公売した。建物解体後の土地利用条件を住宅地に限定し、活用を目指しているという。

専門家はこう話している。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト・永濱利廣氏:
地方の自治体では管理されていない公共施設の負担軽減や、跡地の利用の促進がうまくいけば税収の確保につながったりする。(マイナス入札が)これから多くの自治体に広がっていく可能性は高いと思います。
(「イット!」4月18日放送より)