鹿児島市の磯地区(世界文化遺産エリア)にJR仙巌園駅が開業したのは2025年3月。1カ月が経ち観光客が増え地元住民や飲食店などから喜びの声が聞かれる一方、開業前から指摘されていた交通渋滞などの課題は残されたままだ。地域の魅力を引き出しつつ、課題にどう対応していくのか、磯地区の動向が注目されている。
観光客の増加と若者の流入
2025年3月15日に開業したJR仙巌園駅は、旧集成館などの世界文化遺産のエリアに位置していることが大きな特徴で、開業以来、磯地区には国内外から多くの観光客が訪れている。
千葉からの観光客は「「私たちは基本的にバスなど公共交通を使うことが多いが、電車で降りられるところにあれば、すごく便利で使いやすい。駅がなかったらちょっと諦めようかなというプランになっていたと思う。駅ができて本当によかった」」と話す。駅の利便性が、観光客の行動範囲を広げているようだ。

地元住民からは、若い世代の増加を指摘する声が聞かれた。「高校生が結構多い」「若い子が多くなった」といった声が、その変化を如実に物語っている。

地域経済への好影響
駅周辺の飲食店もにぎわいをみせている。地元名物・ぢゃんぼ餅店の店主は「客が2割、3割、4割そこまで増えた」と話す。客層にも変化がみられ「フランスから来ている人がいた。期待通りに効果はある。期待以上かもしれない」と驚きを隠せない様子だ。また、これまで海水浴シーズン以外ほぼ活用されていなかった近くの「磯ビーチハウス」にはカフェがオープン。平日も繁盛していて雰囲気が一変した。


交通渋滞という課題
一方で開業前から指摘されていた課題として、駅開業に伴う交通渋滞の問題がある。仙巌園駅に隣接する国道10号は姶良、霧島方面と鹿児島市をつなぐ大動脈。渋滞対策として、通勤時間帯にあたる午前7時~9時までは下りの列車4本を通過させるなど渋滞対策も行っているが、国道を利用するドライバーからは「駅が開業してから渋滞をしている」「特に土日は感じる」という声が聞かれた。

朝の渋滞について、ドライバーからは「朝より昼間の方が混んでいるかなという感じ」「渋滞は相変わらずあると思うが、前よりは若干緩和されている気がする」とのことだった。
駅開業の前後1週間の渋滞の長さを調べた鹿児島県警のデータを比べてみると、開業前の3月8日は仙巌園を先頭に姶良市方面に最大約3.5キロ、開業後の3月22日には最大約4.1キロの渋滞となった。開業後の方が長くなっているが、県警は「その日によって道路交通状況は変わるため、新駅開業との因果関係は分からない」としている。

バス停移設を巡る対立
駅近くのバス停移設問題も、駅開業前から指摘されていた交通課題だ。国が安全対策として、車道の一部を広げる形で確保された停留スペースをバス会社が使用せず、バス停は元の場所に設置されたままになっているのだ。

元々は、事故が多かった周辺道路の安全対策の一環として国が行った停留スペースの工事。しかし路線バスを運行する鹿児島交通は、「この停留スペースは交通渋滞を悪化させる新駅の設置に伴う工事」と主張し、渋滞の緩和策がしっかりと示されていない以上、国が求めるバス停の標識の移設には協力できないとの立場を示している。

国は3月までに2度、県バス協会に移設を求める勧告書を提出したが、協会側は「バス会社に対応を任せる」として膠着状態が続いている。
今後の展望
開業から1カ月、磯地区は大きな変化の渦中にある。観光客の増加や若者の流入は地域に活気をもたらしている一方で、交通問題という課題は依然として残されている。
ゴールデンウィークや夏の海水浴シーズンを控え、さらなる人出が予想される磯地区は、交通渋滞やバス停問題の解決が急務となっている。地域の魅力を最大限に引き出しつつ、これらの課題にどう対応していくのか。磯地区の今後の動向が注目される。

(鹿児島テレビ)