人口減少により小学校や中学校の統廃合が全国で進んでいますが、幼稚園や保育園の閉園や廃園も相次ぎ、空き校舎などが増え続けています。
勝山市では、閉園となった保育園の建物が素材にこだわったパン屋に生まれ変わりました。運営するのは地元の農家で、カフェを併設していて地域活性化につながっているだけではなく、農家にとってもプラスの面があるようです。
丘の上の黄色い建物は、2024年3月に閉園した勝山市の旧平泉寺保育園です。園としての役目を終えた建物が、週末には大勢の人でにぎわう場所となりました。
集まった人たちのお目当ては焼き立てのパンです。地元、平泉寺町の農場「滝本ふぁーむ」が事業を拡大し、4月5日に「平泉寺のパン屋さん」を本格的にオープンしました。店長は卒園生の滝本紫音さん(25)「卒園された方に、ぜひ懐かしみに来てほしいなって」と話します。
旧保育園の建物は、市が跡地の売却先に無償譲渡することになり公募をしたところ、譲渡先が「滝本ふぁーむ」に決まりました。滝本ふぁーむは60年ほど前から平泉寺町で環境にやさしいコメ作りを続け、ポン菓子や味噌の製造販売など6次化に取り組んできました。
2023年からは、紫音さんが手作りパンの販売を始め人気が高まってきたことから、農場の代表で紫音さんの母親の和子さんが保育園を活用してパン屋を開くことに決めたのです。和子さんは「かわいい声が響いていた保育園がまさかなくなるなんて、この子たちが通っている時には思いもしなかったけど…なくなった時は本当に寂しかった。こうしてうちが明かりを灯すことで、少しはその寂しさが紛れたらいいなと思うし、どうせなら卒園生の娘がやったらいいなと思って」と話します。
滝本ふぁーむの新たな事業は、農村の交流人口の増加などを進める県の「農村発イノベーション推進事業」にも採択され、一部に補助金を活用して改築などを行いました。
オープン日には、開店前から多くの家族連れが訪れ、楽しみながらパンを選んでいました。
子供の頃から農業に携わり、栄養士の資格も持つ店長の紫音さん。材料は地元の信頼する農家の野菜や果物にこだわり、絶えず新商品を生み出しています。「私が焼くパンは、パンよりも野菜や果物を主役にしているので、パンを知ってほしいというより、ぜひ、このイチゴやトマトを食べてほしいとか、家族に作るみたいにその人を思い浮かべながらパンを焼く」といいます。
安心して食べられる厳選した材料のパンの魅力は子供たちにも伝わっているようです。
また、カフェを併設したパン屋の運営は、農業の安定した収入にもつながっています。「農家は収穫したその次の月ぐらいにやっと1年の労がねぎらわれ、収入がある。それも年に1回。春になると種まきをするが、本当にお金がかさむ。農業プラスカフェで商売をプラスすると、農業を安心してできるというのは大きい」とパン屋を経営するメリットを語ります。
母親の和子さんは今後、この建物を「農家民宿」にしたいとも考えていて、さらに交流人口を増やしていきたいとしています。さらに「若い人が農業に関心を持つきっかけになれば」とも話していました。
地域の人だけでなく、市外の人たちの憩いの場として生まれ変わった旧・平泉寺保育園。滝本ふぁーむの挑戦は、地域活性化だけでなく、これからの農業の希望にもつながっているようです。
【平泉寺のパン屋さん】
営業日:毎週土曜、日曜、月曜