漆塗り職人になるため、石川県輪島市で研修に励む岩手県大船渡市出身の女性がいる。
東日本大震災、能登半島地震、そして今回の大船渡山林火災と3度の災害を経験した女性が抱く、ふるさとや未来への思いを取材した。
石川県輪島市にある輪島漆芸技術研修所で漆塗りを学ぶ大船渡市出身の女性がいる。
今野風花さん25歳。大学時代に漆に魅せられ、漆職人を志す。
今野風花さん
「自分の作品を仕上げることを絶対の目標に、研修所にいる間に少しでもたくさんのことを勉強できたらと思っている」
この研修所の2年生で、今は卒業制作として漆の器づくりに大忙しの今野さん。
作品のテーマは「自然災害」。今野さんの身の回りで災害が続いたことが、その理由だった。
今野風花さん
「デザイン考えている時も自然災害の経験は、結構頭に浮かんでくるので、絵や柄で表現していけたらと考えている」
2024年1月1日、輪島市で震度7を観測した能登半島地震。
今野さんはその日、大船渡市に帰省していた。
今野風花さん
「信じられないなという感じ。それこそ頭が真っ白だったし、これからどうしようかなと、すごく悩んで迷って不安な時期だった」
この地震で輪島塗の研修所も被災し9カ月休校を余儀なくされた。
そして今野さんのふるさと・大船渡は、14年前の東日本大震災で大きな被害を受けた。
発生当時、通っていた小学校にいた今野さんは自宅の被災は免れたが、その記憶は今も強く残っている。
今野風花さん
「感じたことのない大きい地震にびっくりして怖かったことは覚えている。家もすごく流されてなくなっちゃって。大事なものを失った感が強かった」
その大船渡では2025年2月、今度は大規模な山林火災が発生。今野さんは輪島からふるさとを案じていた。
今野風花さん
「ニュースとか見聞きしていてどうなっているんだろうと。結構被害大きいなと思って家が燃えるんじゃないかと覚悟はした」
火災発生から1カ月後、春休みを利用して帰省した今野さんは、赤崎町にある実家は被害を免れたが、火の手はすぐ近くにまで迫っていた。
今野風花さん
「上のところにある道路、焦げているのが見えていると思う。あの辺までは（火が）来ていたという話と（家の裏山の）てっぺんから向こうまでは燃えていたという話を聞いている」
今野さんはこの日、初めて赤崎町の被災した町並みを自身の目で確認し、その現実に心を痛めていた。
今野風花さん
「無事だった人と家が全部燃えちゃった人と、すごく差は大きい。すごく複雑な気持ちになる」
今野さんが、今回の帰省にあわせて訪れた場所があった。陸前高田市にある「旧吉田家住宅主屋」だ。
江戸時代に仙台藩主・伊達政宗から気仙郡を治める役人を任命された吉田家が、1802年に建てたこの住宅は、2006年に県の文化財に指定されている。
14年前の津波で全壊したが、関係者が柱や梁などの部材を拾い集めそれを使って復旧、2025年3月末ついに完成した。
今野さんが特に見たいと思っていたものは、火や水を使う囲炉裏の近くに配置された漆塗りの引き戸だ。
地震の影響で輪島の研修所が休校となり、岩手で創作活動をしていた2024年の夏ごろ、今野さんがその漆塗りを担当していた。
県内の職人の指導も受けながら塗った引き戸は、文化財にふさわしい重厚感を放っている。
今野風花さん
「感動している。自分が手がけたものが、これから先も残っていくのはうれしい」
震災を乗り越え様々な人の手でよみがえった旧吉田家住宅。災害と向き合う機会が多い今野さんにとって、この訪問は特別な時間となった。
今野風花さん
「時間も手間もかけて思いがつまった建築物。伝統技術の伝承はすごく大事なことだと、きょう改めて思った」
輪島の研修所で2025年11月まで学び、将来は職人として岩手で活動することを目指す今野さんは、ふるさとへの思いをより強くしている。
今野風花さん
「これから先も漆を続けていきたいし、将来的に地元に戻ってきて漆で仕事をしたい思いは持っているので、そこは曲げずにやっていく」
災害を通し伝統工芸を未来に遺す意義を再認識している今野さんは、漆で地域に貢献する日を夢見て、修行の日々が続く。
