東海テレビニュースONEでは、シリーズで「SNSな人々」をお伝えします。いまや“社会そのもの”といっていいほど私達をとりまいているSNS。そんな時代を「うまく生きる」ヒントをさまざまな人の声から探ります。

SNSが生活の一部となりつつある中、地方自治体もSNSの運用が欠かせない時代となっている。地域の人たちのために、町おこしのために、SNSをどう活用するか、東海地方の自治体でも模索が続いている。

■町の魅力を知ってもらうために…職員2人が挑む「攻めの発信」

三重県北部に位置する東員町(とういんちょう)は、名古屋のベッドタウンの1つで、自然豊かな町として知られている。

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東員町では、広報担当の男性職員2人が、町長の秘書業務や町の広報誌の作成などと並行して、インスタグラムを使った情報発信を担っている。

自らスマホを手に町を歩き、町の日常や風景を撮影し、投稿する。

SNSは、今や自治体の情報発信の一つのツールとなっていて、多くの自治体が、観光誘致や町のPRを目的に情報を発信している。

東員町役場・政策課の佐藤彰英さん:
ホームページもそうだが、名古屋圏域の人が東員町のホームページを見るかというとそうではない。こちらから情報を積極的に配信していきたい。それで情報を見た人に、東員町のことを知ってもらいたいというのが、インスタグラムを活用している理由。

■インスタ活用で人口増…若者に向けた「独自の戦略」

SNSでの発信により、大きな成果を上げている町がある。

人口およそ3万人の神奈川県葉山町(はやままち)は、海に面した自然豊かな町で、皇族の別荘でもある御用邸があることで知られている。

葉山町では、10年前からインスタグラムで町の情報を発信している。

2025年3月時点のフォロワーは3万8000人と、自治体のアカウントでは異例の多さを誇る。

当時、町では「人口減少」が課題だった。

葉山町役場・政策課の宮崎愛子さん:
全国的にも人口減少が行政の課題として挙げられているなかで、若い人に情報発信できれば、町の魅力が伝わって多くの人が訪れたり、移住してきてくれるのではないかと。

「移住・定住促進」を明確な目的と定め、インスタグラムでの発信を始めた。

宮崎さんはSNSの特性を生かした、独自の運用を考えた。「#葉山歩き」というキーワードを新たに立ち上げ、“葉山の魅力だと思うところを、ハッシュタグをつけて投稿してください”と呼びかけたのだ。

葉山町役場・政策課の宮崎愛子さん:
その写真を参考に同じ場所に行って、再撮影して発信する。魅力を発掘、発信する流れをやったことが一番初めです。

「#葉山歩き」という独自のキーワードは、みるみるうちに反響を呼び、町内の美しい風景や日常を紹介する投稿の閲覧数が増加した。

その影響もあって、インスタグラムを開設した2015年以降、町の人口は転入者が転出者を上回る社会増が続いている。町民からも「移住してきている人で、若い人は結構いる」との声が聞かれた。

葉山町役場・政策課の宮崎愛子さん:
SNSをやることが目的になってしまわないように、何のために運用するのか。住民のためのSNSであってほしいなと思っています。

■閲覧数は7倍に…「プロの力」借りて“10秒程”の投稿増やした東員町

人口およそ2万5000人の東員町でも、人口減少が課題となっている。そんな中、SNSによる情報発信を通じて“将来的な移住者増加”を目標に定めた。

東員町役場・政策課の佐藤彰英さん:
ターゲットとしては、名古屋圏域から東員町へ来ていただく。定住もそうだが、関係人口や交流人口などを増やしていきたい。町外の人に東員町の魅力を発信したい。

インスタグラムでの情報発信を始めて3年あまりになるが、「フォロワー以外にどう情報を届けるか」という課題を抱えていた。

東員町役場・政策課の佐藤彰英さん:
フォロワー以外に情報が全く届いていなかったので。(情報が)どの方に届いているか、どうしたら届くかを考えてやったことは正直なかった。

東員町は2023年度から、副業での人材をマッチングするサービス「lotsful(ロッツフル)」と提携した。

国の地方創生の交付金を活用し、2024年度は150万円の契約を結んで、SNSに精通した人材の協力を受けている。

採用された東京都に住む河田洋平(かわだ・ようへい 38)さんは、SNSを活用して観光業界に特化した情報を発信するサービスを展開する会社「スキヤキッド」を経営している。

他の市町や観光協会のSNSアカウントの運用や支援も行っているノウハウがあることから、副業として東員町のインスタ活用を支援する。

東員町のインスタを支援する河田洋平さん:
東員町がSNSに精通した人を募集するのを見て、応募して採用された。一緒に撮影して、撮り方やどういう瞬間が撮れるとSNSとして使えるかなど、感覚が必要な部分を実際に伝えながら、撮影して編集して投稿もする。

河田さんが運用に携わって以降、東員町のインスタグラムのフォロワーは1.5倍に増え、投稿の閲覧数はおよそ7倍に伸びたという。

実際、職員だけで運用していた時代は写真が中心だったが、河田さんのアドバイスで、音楽が付いた10秒程度に編集した動画が中心に投稿されるようになった。

日常の暮らしにスポットを当て、町の雰囲気がわかるような投稿が多くなっているという。

東員町のインスタを支援する河田洋平さん:
まず、“誰に見てもらいたいか”を決めること。その人たちが“何を見たいか”“どんな情報がほしいか”。そこを整理することが、一番大事だと思います。

■自治体間の競争が激化…より魅力ある投稿を

2025年3月、河田さんは職員とともに、インスタグラムで投稿する町内の撮影に出かけた。カメラを構える位置や動かし方など、河田さんが手取り足取り教えながら撮影していく。

東員町役場・政策課の朝倉滉貴さん:
「この画角がいいですよ」とか「こういうのがうけますよ」とか。そういうのをいろいろ教えてもらいながら、一緒に撮っている感じです。

撮影しているのは、町内を走る、黄色い可愛らしい車両が特徴の北勢(ほくせい)線だ。線路の幅が狭い電車として知られ、鉄道ファンの間でも有名となっている。

撮影を1時間半ほどで終え、役場に戻るとすぐに編集作業を始める。

投稿するのは町内の古い街並みが残る地域を紹介する15秒ほどの動画で、撮影から編集、投稿まですべての過程をスマホ1台で行う。

まだ撮影に慣れていない朝倉さん。町内を走行するバスの動画を使おうとするが、いざ再生してみると、画面に自らの指が“フレームイン”していた。

東員町のインスタを支援する河田洋平さん:
あ~指が入っちゃってる(笑)

東員町役場・政策課の朝倉滉貴さん:
ショック。咄嗟に撮るとアレですね。焦るね~。

思わぬハプニングもあったが、40分ほどであっという間に動画が完成した。

実際に投稿された動画では、昔の風情が残る水路を中心に撮りながら、赤い橋や理容院のサインポールなど目を引くものを入れるよう工夫されている。

東員町役場・政策課の朝倉滉貴さん:
僕らが作るのとは全然違って。共感を呼びそう。見てもらえそうだなと。

多くの自治体でSNSを活用する中、自治体間の競争を勝ち抜くためには、より魅力ある内容を投稿し続けることが求められている。

東員町役場・政策課の佐藤彰英さん:
私たちも取り組んでいるということは、他の市町も取り組んでいる。その中に埋もれないように、東員町は東員町の魅力があるというのを上手に発信していかないといけないと思っている。

東員町のインスタを支援する河田洋平さん:
最終的に町に人が集まるとかを目指していく上で、継続して発信していくことが大事。1回見て「その町に行こう」とはほとんどならないので。常にいろんな接点を持ち続けるのが投稿。見てくれている人の人生のどこかのタイミングで接点が大きなきっかけとなることを夢見て、継続して発信していけたらいいなと思います。

2025年3月18日放送

(東海テレビ)

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