正月の団らんを襲った能登半島地震から1年余り。被災地では損壊した建物が徐々に解体され、空き地が増えている。そうした空き地に花を植え、市民の憩いの場にしようと、石川県出身の九州大学卒業生の取組みが注目されている。
3月22日。石川・七尾市では、色とりどりの花々を約200人の地元の住民たちが、花壇に丁寧に植えていく。福岡市が取り組んでいる「一人一花運動」を参考にして、能登で始動した新たな復興プロジェクトだ。

プロジェクトの実行委員長を務める岡田翔太郎さん(34)は、九州大学を卒業後、故郷の石川・七尾市に戻り、2014年に建築事務所を設立。1級建築士として働きながら被災地の復興に汗を流している。

被災建物の解体で増える「空き地」
七尾市にある日本有数の温泉街「和倉温泉」。21ある旅館の内、営業を再開したのは、わずか4軒。観光客はもちろん、道行く人もまばらで、街は静かだ。

震災前は、観光客の出迎えで、旅館の送迎バスで賑わっていた「和倉温泉駅」も、今では閑散としている。

2024年元日、能登地方を襲った最大震度7の地震では、560人以上が犠牲になった。

600年以上の歴史があり、風情のある街並みが続く「一本杉通り」も地震で大きな被害を受けた。

岡田さんは、この通りに事務所を構えているが、最近、空き地が増えていることが気になっているという。

能登半島地震で、全半壊した建物を県や自治体が所有者に代わって費用を負担する「公費解体」が進んだ結果なのだが、「このまま空き地を放置しておくと、雑草が生い茂り、ごみが捨てられるなど、新たな地域の問題になっていく恐れがある」として、岡田さんは対策を考えていた。

被災地に彩を「一人一花運動」
悩む岡田さんにアイデア提案したのは、大学時代の恩師である九州大学の鵜飼哲矢教授。街の賑わいを取り戻す活動として、福岡市の「一人一花運動」を紹介した。鵜飼教授は、「震災後、被災地に来た時に、風景がグレーだった。色があった方がいい。花は生き物で、生きている証みたいだから」と“教え子“に提案した理由を語る。

岡田さんは、早速、「一人一花in能登半島」プロジェクトを始動させる。実行委員会には、九州大学の教授に加え、福岡市の「一人一花運動」に携わる専門家らも参加した。岡田さんは、“チーム福岡”と共に、初回の活動を七尾市からスタートさせることにした。

俳優の常盤貴子さんも花壇に姿を
3月14日。岡田さんは、プロジェクト「第1号」の現場で、地元の人たちと一緒に砂利や土を敷き詰める作業にあたった。

岡田さんが、スタッフに作業の段取りを説明するが、不慣れなせいか思うようにいかない。苦戦しながらもチーム福岡との連携で、なんとか「山のある立体的な花壇」を完成させた。

花壇に使われた花の色は15種類。能登の春を彩る華麗な祭り「青柏祭」の主役で、日本一大きな山車と言われる通称「でか山」で使われる装飾の色だ。5月に「一本杉通り」を2年ぶりに「でか山」が通るとあって、チーム福岡のメンバーもなんとか通りを盛り上げようと懸命だ。

イベント本番の3月22日。岡田さんの活動に賛同した地元の人たちや、能登の支援に積極的に取り組んでいる俳優の常盤貴子さんも花壇に姿を見せた。

「復興のスピードは、能登には能登の時間があるので、他の地域とはスピードが違うかもしれないけど、でも、着実に一歩一歩進んではいると思う。その中でこういうお花とかで心の隙間を埋めることができたら」と常盤さんも岡田さん達の取組みを応援する。

そして、植え込みを終えた花壇に「でか山見附ガーデン」と名付けた。5月の青柏祭の頃には、花壇の花が満開になる予定だ。

岡田さんは、「本当に小さな小さなものかもしれないが、街の希望というか、そういったものに繋がるのではないかと思う。花壇を増やすことがゴールではなくて、これが復興の第一歩として能登半島全体に広がり、そして町の再生につながっていけばいい」と岡田さんは、前を見つめる。
(テレビ西日本)