石破首相は3日、公邸で会食した自民党の新人議員15人に1人10万円分の商品券を配布。国会では連日釈明に追われ、世論調査の内閣支持率も急落した。政権内からは「参院選まで政権が持つのか」と危ぶむ声も上がっている。

これに対し、立憲民主党など野党は、石破首相が国会の政治倫理審査会に出席し弁明するよう求めている。内閣不信任決議案を提出するかどうかについては、慎重に検討を進めている。

少数与党の中で、野党がまとまれば内閣不信任案が可決される可能性がある。石破内閣が総辞職に追い込まれる可能性も否定できない。

政局の行方に注目の集まる中、キーパーソンとして取り沙汰されるのが、国民民主党の玉木雄一郎代表だ。

「103万円の壁」国民・玉木代表「負けた」と宣言 参院選で「21議席目指す」

「178万円を目指して引き上げると言って選挙を戦い、たくさんの票をもらって交渉に臨んだが、私たちは交渉で負けた。率直に力不足だ」

玉木氏は9日、愛媛県松山市での街頭演説で、「年収103万円の壁」引き上げをめぐる与党との交渉についてこう語った。

さらに玉木氏は、「掲げた目標から比べれば、全然及第点はいただけないと思っている」とした上で、「正直、悔しい」と自らの心中を吐露した。

「103万円の壁」をめぐる自民・公明両党との3党協議では、国民民主は178万円への引き上げを主張したが、結局、与党が主張する年収200万円以下の人の非課税枠を160万円に引き上げるなど、年収に応じて段階的に非課税枠を引き上げる方式となった。

玉木氏は178万円の実現に向けて、「諦めることなく頑張っていきたい」と訴えた。

その玉木氏は参院選での議席目標を掲げている。役職停止3カ月の処分期間を終えた4日、玉木氏は復帰会見でこう表明した。

「単独で予算を伴う法案提出権を得られる参院での21議席を目指して臨んでいきたい」

玉木氏は非改選の議席と合わせて、参院で21議席の確保を目指す考えを示した。

さらに「5人が非改選、4人が改選となるので、改選で16取らないと21にいかない。相当高い目標であることは自覚している」と述べた。

そして、「まだまだ候補者の擁立が足りない」として、「全国比例、複数区、1人区も含めて、受け皿として立てられるところにはしっかりと立てていく」と意気込みを語った。

玉木氏の発言に対し、立憲民主党の幹部は「玉木氏は手堅く見ている。少なくとも16議席ということだろう。国民民主党には勢いがあり、それ以上取る可能性もある。うちから取るか、自民党から取るか、それは分からない」と警戒感を示す。

一方、国民民主の幹部は「参院で自公を過半数割れに追い込むとともに、比例代表での獲得議席は第1党を目指す。実現した場合には選挙後は主導権を握れる」と話す。

勢いが衰えない国民民主 世論調査で政党支持率“野党第1党”

衆院選で躍進した国民民主の勢いは今も衰えは見せていない。

FNNの世論調査では、衆院選後の11月に国民民主の支持率が結党以来、最高となる10.1%に急上昇。続く12月は立憲が9%に対し、国民民主が11.3%で、野党第1党の立憲を上回った。年が明けた1月は立憲に政党支持率での「野党第1党」の座を奪還されたが、2月には立憲が6.9%に対し、国民民主が9.8%と引き離し、再び奪い返したのである。

さらに、北九州市議選の小倉北区選挙区で新人が自民の候補を抑えてトップ当選を果たしたほか、横浜市南区の市議補選でも新人候補が勝利するなど、地方選挙でもその勢いを見せつけている。

神奈川県川崎駅で1日に行われた玉木氏の街頭演説。筆者も現場にいたが、玉木氏の話を聞こうと、多くの聴衆が集まっていた。玉木氏の訴えに「そうだ」「頑張れ」などの掛け声が上がり、先の衆院選に勝るとも劣らない活気を感じた。

6日後の7日夜、玉木氏もBSフジの「プライムニュース」に出演し、街頭活動での雰囲気を問われると、こう指摘した。

「選挙の時より多いかもしれない。ただ、我々に対する期待というよりも、それだけ物価高騰で苦しいというSOSの声の表れなのだと思う。議席を増やしたことに慢心せず、何が我々に求められているのかをしっかり受け止めてやっていかないといけない」

こうした中、玉木氏に関するある会が発足した。

名称は「玉木雄一郎を総理大臣にする会」。玉木氏によると、数人の企業経営者が世話人として企画した会だという。10日夜、東京都内で設立総会が開催され、玉木氏も参加した。

出席者からは、玉木氏に対し、首相を目指してほしいと期待する声が上がったという。

会合を終えた玉木氏は取材に応じ、「期待の声はいただいたが、まだまだ私はすぐにそういう立場になれる状況にはない。まずは地道に仲間を増やし、力をつけていきたい」と語った。

しかし、玉木氏はこうした発言の一方、将来的には首相として国政を担いたいとの意欲を隠してはいない。

外交に積極的な理由を問われた玉木氏「総理大臣になるため」

玉木氏は、役職停止の処分を受けた後、周囲に対し、「将来も見据えて外交面にも力を入れて取り組んでいきたい」と話し、処分期間中には、スイスで開催された世界の政治経済のリーダーや有識者が集まる「ダボス会議」に参加し、台湾では頼清徳総統と会談するなど、議員外交に力を入れた。

玉木氏は、先述の川崎駅での街頭演説に先立ち、川崎市内のタウンミーティングにも参加。

その際、出席者から外交に積極的な理由について問われると、1つ目の理由として、「国政政党のトップとして外交は非常に重要だと思っている。世界の中で、特にアジアの中で、日本が主体的リーダーシップを発揮できる国にしたい」と語った。そして、2つ目の理由としてこう発言したのである。

「総理大臣になるためだ。総理大臣の仕事の半分以上は外交だ。外交だけは国会議員、特に国政のトップが担う役割が大きい」

玉木氏は、先述のBSフジの番組で首相を目指しているかと問われると、こう答えた。

「私に限らず、国政政党の代表を務めている人は大なり小なりトップリーダーとなって、この国を率いていきたいという意思と能力を示していくことが、政党への支持の大きな動機づけにもなる。自分としても首相になったらどうするかを常に意識しながら、政策も内外への発信でも気をつけているつもりだ」

野党の一部でくすぶる首相指名選挙での“玉木氏擁立案”

少数与党の中で、立憲など野党が内閣不信任決議案を衆院に提出した場、野党がまとまれば可決する可能性がある。仮に可決した場合には、石破首相は衆院の解散、もしくは内閣の総辞職という二者択一を迫られる。内閣総辞職となった場合には、首相指名選挙が行われる。野党の一部には、統一候補として玉木氏を推す案もくすぶり続けている。

立憲には2024年11月の特別国会で行われた首相指名選挙での苦い教訓がある。自民党の石破総裁が首相に選出されたこの指名選挙。与党が過半数割れした衆院は1回目の投票で誰も過半数に達せず、石破氏と立憲の野田代表による30年ぶりの決選投票にもつれ込んだ。しかし、結果は石破氏221票、野田氏160票、無効84票。他の野党をまとめきれなかった野田氏に対し、石破氏の得票が上回り、首相に再指名された。

今回、内閣不信任案の対応をめぐって、立憲は慎重な姿勢を崩していない。ある幹部は「野党内で不信任案が可決した後の構想が定まっていない。首相指名選挙で野党がまとまって行動できるか分からない状況で、石破首相を辞任に追い込めば混乱を生むだけだ」と懸念を示す。

別の立憲幹部は「首相指名選挙で、国民民主党は玉木代表への投票は譲らないだろう。しかし、逆に野党がまとまって玉木氏を推せば政権が取れるかもしれない」と話す。これに対し、重鎮議員は「玉木氏では党内が持たない」と否定的な見解を示す。

1993年の衆院選で過半数を得る政党がなかった状況で、小沢一郎氏らが、野党第1党の社会党からではなく、日本新党の細川護熙氏を首相候補として擁立し、8党派による連立政権を実現させた過去がある。

ただ、首相を目指す玉木氏にも不安材料はある。党所属議員の多くが先の衆院選で当選した新人議員であり、代表を務める玉木氏も閣僚を経験していない。実際に政権を担った場合にはその不安は拭えない。

10日夜の取材では、玉木氏は次の衆院選について次のような見方を示した。

「夏には参院選もあるし、そう遠くないうちに衆院選がある」

そして、玉木氏は「手取りを増やす経済政策をぶれずに進めていきたい。期待に応えることができるように受け皿を全国に作っていかなければいけない」と強調し、参院選に加え、次の衆院選に向けても積極的に候補者の擁立を進めていく考えを示した。

次の衆院選での飛躍を目指すか、その前に大政局が起きるか。かつて玉木氏が「首相を目指す」と語ると、周囲からは笑いが起きていた。しかし、今、永田町で、その状況が変わりつつあるのは間違いない。

(フジテレビ 野党クラブ・キャップ 木村大久)

木村 大久
木村 大久

フジテレビ政治部(野党担当キャップ・防衛省担当)、元FNN北京支局