岐阜県海津市の「美濃すき」は、ここでしか食べられないローカルフード「あかどろ麺」が人気のうどん店です。麺はもちもちの太麺で、スープはすき焼きの割り下に赤味噌や豆板醤を合わせたオリジナルで、多くのファンがいます。しかし、店主のこだわりで週に1度、土曜日の夜だけの限定営業です。
■見た目は具沢山の味噌煮込みのよう…大人気ローカルフード「あかどろ麺」
岐阜県海津市の「美濃すき」は、2009年(平成21年)にオープンしたうどん店です。

営業は週に1度、土曜の夜だけで、この店でしか食べられない人気の「あかどろ麺」は、見た目は具沢山の味噌煮込みのようなうどんです。

店主の森本隆さん(53)は「あかどろ麺」の準備を始めるのは営業の前日、金曜日の夜からです。

生地作りには、塩水と小麦粉を使います。この日は湿度が高かったため、それを計算して水を少なめにしているといいます。

美濃すきの店主 森本隆さん:
1グラム違うと固さが全然違う。気温も違えば湿度も違う。そのたびに微妙に1グラム2グラムで調整しながらやって、それで毎回同じものができあがる。
この段階でうどんの良し悪しが決まるといい、森本さんの表情も真剣そのもの。目指すのは、スープをほどよく吸収するモチモチ食感の太麺です。
生地をこね終えると、取り出したのは湯たんぽです。独学でうどん作りを覚えたという森本さんが、生地を熟成させるのにたどり着いたのが「湯たんぽ」でした。麺と一緒に発泡スチロールのケースに入れて、ひと晩寝かせます。

そして翌日、営業日の昼過ぎから、熟成した生地をのばし始めます。時間を掛ける生地がとどんどん干からびてくるといい、時間との勝負です。

美濃すきの店主 森本隆さん:
これ音聞こえます?生地が鳴いているみたい。この音がするぐらいが一番いい状態と思うんですよ。
一定のリズムで、幅6ミリほどにカット。均一の薄さに仕上げた生地だからこそ、美しいうどんに仕上がります。

美濃すきの店主 森本隆さん:
ここから少し伸ばして、若干細くなるんですよ。この時に繊維が細かくブチブチっと切れるんですよ、それをあえて作ってスープがしみ込みやすくしているんですよ、味がしみ込みやすいように。
予約が全くなければ、麺を作るのはわずか15~20食ぐらいだといいます。
美濃すきの店主 森本隆さん:
少ないですね。1人でやっているので。20人以上さばくともう大変なので、そこまでにしてあります。

2日間かけて、ようやく20食分の麺が完成しました。
■メニューは「あかどろ麺」だけ それでも多くのファン
「あかどろ麺」の一番の特徴でもあるスープは、すき焼きの割り下に、赤味噌や豆板醤を合わせたオリジナルです。

そして自家製手打ちうどんの上に、温泉卵や牛肉、春菊などのすき焼きの具材を乗せていきます。見た目はまさに「すき焼きうどん」、森本さん自慢の「あかどろ麺」は1杯850円です。

店のメニューは この「あかどろ麺」1つだけですが、一度食べたら癖になる味と、多くのお客さんがやってきます。
男性客A:
味噌煮込みをすき焼き風にした味。
女性客A:
すき焼きのシメを先に食べるみたいな。麺がなくなると営業終了になっちゃうので(次の)予約をして帰っている感じですかね。
男性客B:
甘い中にピリ辛さがあるので、食べれば食べるほどじんわり汗をかく。
女性客B:
うどんってあまり好きじゃないんですけど、でもここのうどんはすごく好きでハマっちゃって、気づいたら結構来ています。
男性客C:
もう10何年通っています。もうちょっと食べたい時に食べに来られるといいんだけど。
■「後悔しないために」ストイックな店主が週1しか営業しない理由
森本さんは平日、宅配弁当の会社に勤めていて、仕事のない週末の夜にお店をやっています。

休みを削ってまでうどんを作っているのには、森本さんなりの考えがありました。
美濃すきの店主 森本隆さん:
サラリーマンは生きるためで、お店は人生のため。なんか違う。やっぱり人生のためにやっていることは自分の好きなことをやりたいので、サラリーマンの世界と店の世界というのは全く違う。それが毎週繰り返されるというのがすごく楽しい。
この「二刀流生活」を初めて、気が付けば15年、この生活スタイルが今の自分には合っているといいます。

美濃すきの店主 森本隆さん:
たぶん店だけで食べていこうとかすると、バランスが崩れてくるのかな。でもやっぱり週末は近づいてくると楽しみです。オープンに近づけば近づくほどやっとやりたいことができるなってワクワク感ですよね。死ぬ間際に後悔しないためにやっているような。
■すき焼きのシメのような「あかどろ麺」にこだわる幼少期の思い出
楽しみで仕方ないというこの「あかどろ麺」作り。一番の特徴である「すき焼きのシメ」のようなうどんにこだわっているのにも理由があります。

美濃すきの店主 森本隆さん:
小さい頃よく家庭でするすき焼きをやっていて、うちは男ばかりの3人兄弟で、しかも末っ子だったのでどうしても肉の割合が少ないじゃないですか。全部兄貴がもっていってしまうので。いつもすき焼きになると泣いていたんですけど、最後に残った汁に母親がうどんを入れてくれて、シメのうどんを作ってくれるんですよ。その頃になるとバクバク食べていた兄貴たちもお腹いっぱいなので、最後のシメのうどんは末っ子の僕のものだったんですよ。だからすき焼きそのものよりも、すき焼きうどんの方がずっと好きで、僕の中ですき焼きはすき焼きうどんなんですよ。

あかどろ麺は「母の味」。さらにそこへ森本さんが加えたのが「おじや」です。残ったスープにご飯を入れて食べる「おじや」は、客のほとんどが注文するほどの人気だといいます。

森本さんはサラリーマンとして会社に勤めながら、週に一度、母親との思い出の味を地元の人たちに提供し続けています。

美濃すきの店主 森本隆さん:
あんまり考えないぐらい、いまが続けばいいなと思っています。この日がないとやっていけないですね。いまのところ週一でいいんじゃないかなと。体力の続く限りできたらいいなと思っています。
2024年11月4日放送
(東海テレビ)