東海テレビニュースONEでは、シリーズで「SNSな人々」をお伝えします。いまや“社会そのもの”といっていいほど私達をとりまいているSNS。そんな時代を「うまく生きる」ヒントをさまざまな人の声から探ります。

「闇バイト」による犯罪が後を絶たないが、加担する人はなぜ指示役らを簡単に信頼してしまうのか。実行役に送りつけられたマニュアルやSNSのやりとりから、知らず知らずのうちに引き込まれていく「心理面」を紐解いた。

■丁寧な言葉は一転して“脅し”に…信用させるための巧みなメッセージ

愛知県岩倉市で2023年11月、マンションなど17カ所のポストに配られたチラシ。家賃の支払いがオンライン化されたという知らせと、QRコードが載せられていた。

しかし、ここで表示されるのは、闇バイトの首謀者が管理する口座だった。

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この首謀者の男は、数々のLINEアカウントで詐欺を展開していて、そこに応募したのが30代の無職の女性だ。

捜査関係者が入手した2人のメッセージのやりとりがある。

【LINEのメッセージ】
首謀者:
今回、面白い案件を発足しました 特定口座に振込した後、不正利用されたとして補償申請することでその分を無料で得るスキームです 即日着金 手数料2割

このメッセージは、詐欺行為に加担をさせる「ワナ」だった。

【LINEのメッセージ】
首謀者:
資金が1.8倍になるので多いに越したことはないかと思います。入金額の方はいくらになさいますか?

30代女性:
すぐ返ってくるなら多めにやりたいので45万円でお願いします。

首謀者:
かしこまりました 入金したら明細お願いします。

丁寧な対応をする首謀者の勧誘に軽い気持ちでのり、女性は45万円を支払うと、男は途端に既読スルーに。女性が催促すると、届いたのは「脅しのメッセージ」だった。

【LINEのメッセージ】
首謀者:
ご提案があります。今回の案件は不正送金だと自作自演してから銀行に不正に補償金を盗むという詐欺行為です。もちろん警察にバレれば詐欺罪で逮捕されます。ちなみに私側は飛ばしの携帯を使っているので逮捕はされません 口止め料として10万円を請求します。口止め料払わないなら問答無用で通報しますよ。言い訳も受け付けません。

結局、女性は口止め料も含めた55万円を振り込んだ。警察に対しては「バカなことをした」と話したという。

■“初期の丁寧な対応”は闇バイトのマニュアルにも

「丁寧な誘い」と「脅し」。愛知県岡崎市の人間環境大学で犯罪心理学を教えている山脇望美(のぞみ)講師に、この一連のやりとりから首謀者の性格を読み解いてもらった。

人間環境大学の山脇望美講師:
最初は優しくして、後から脅迫的なことを言う行動自体が、自分に自信があったりとか、自尊心が高くないと出来ない行動だと思うので「自分、すごいんだよ」って実はアピールしたい。自分が優しくすると相手もそれに応えてくれます。自分らしい言葉みたいなものを、あえて使っていないというか、消すような形でしゃべっている。

「自尊心」から来る「初期の丁寧な対応」。この特徴は、別の事件でも見られた。

時間が経つとメッセージが消え、秘匿性が高く闇バイトの連続強盗事件でも使われたアプリ「テレグラム」で、初めに送られてきたのは1枚の写真だ。中身は「マニュアル」だった。

【マニュアルの内容】
「8:00-18:00が基本的な労働時間です」
「指示を出す際、なるべく分かりやすいように指示します」
「少しでも不安がある場合は迅速に当社までお知らせ下さい」
「気持ちの良い取引が出来るよう努めて参りますので何卒よろしくお願い致します」

敬語を使い、安心感を与える一文。リクルーターグループのことを「当社」と呼ぶなど、まるでマニュアルがホワイト企業の業務手引書のように作られている。しかし、よく見ると文面は優しいものの、書いてある内容は、犯行の手口そのものだ。

【マニュアルの内容】
「ダンク=コインロッカーに納められていることを指します。回収完了後、コンビニトイレに入り、カードの写真撮影をお願いします」

人間環境大学の山脇講師:
ここまで丁寧にきちんと説明しますよとして言われると、その方に対する信頼とか尊敬みたいなものが芽生える。当社とか貴社とかと書かれてあるので、ここから自分が会社の一員なんだみたいな、自分の価値観みたいなものが上がるような形になっているのかなと思いますね。

信頼だけでなく、実行役の自己肯定感も上げてくれる「初めの丁寧な対応」。ここに、実行役が信用してしまう理由があるとみられる。

■動画で金を数えさせ合計金額も言わせる…首謀者側の“徹底された確認”

反対に、リクルーター側は信用していないためか、チェックは入念だ。リクルーターらはだまし取った金の確認を報告させていた。

警察の押収品から見つかったのは、受け渡しの一部始終を撮影させた動画だ。

まず、実行役に自撮りをさせながら、ダンボールから札束を取り出して金を数えさせて確認する。動画は、合計金額を言わせて終了だ。

中抜きがないように一部始終を撮影させ、徹底的に管理しているとみられる。動画で報告後、金の受け渡しは、トイレの個室やコインロッカーなど顔を合わせない場所で行う。

■この事件での20人目の逮捕者は「暴力団組員」

愛知県警のサイバー犯罪対策課では、秘匿性の高いアプリやネットを悪用する組織的な犯罪などの捜査を進めている。

この闇バイト事件で捜査の指揮を取る松本淳平課長は、マニュアルに対して憤りを隠さない。

愛知県警サイバー犯罪対策課の松本淳平課長:
上司と部下、あるいは受託側と委託側の通常のビジネスであるかのようなやり取りですので、これは罪悪感が薄まる効果を出しているとは思います。人をだましてお金を取っておいて「気持ちの良い取引」と書いてある、これはやはり怒りを禁じ得ないですし、必ず検挙してやろうという気持ちを新たに持ちました。

これまでにこの事件に関わったとして、19人を逮捕。

そして2025年2月28日、首謀者として逮捕されたのは指定暴力団・住吉会傘下組織の組員で、31歳の男だ。

SNSの甘い言葉で誘い込み、背後で暴力団が指示をしていた疑いが高まった。

愛知県警サイバー犯罪対策課の松本課長:
次はこの金の流れが、さらにどのような形で使われているのか、誰に向かっているのか。可能な限り客観的証拠を積みかねてさらなる首魁(しゅかい)に迫っていきたい。

「闇バイト」は、SNSで丁寧な対応や、ビジネスのような関係性を持たせ、信頼感を与えて犯罪へ誘う。

愛知県警サイバー犯罪対策課の松本課長:
相手は本格的な犯罪組織ですので、気軽な気持ちで応募して犯罪に加担させられ、場合によっては脅迫される、命の危険があるということをもっと多くの方に知っていただきたい。

闇バイトの背後でうごめく反社会勢力。甘い言葉の影に鋭い刃が潜んでいる。

2025年2月28日放送

(東海テレビ)

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