3月18日に開幕する春の選抜高校野球大会に壱岐高校が21世紀枠で初出場する。初戦は強豪の東洋大姫路に決まった。地元は「100年に一度の奇跡」に沸き、島民あげて「甲子園での勝利」を祈っている。
25人全員が壱岐で生まれ育つ
聖地・甲子園でのプレーを目前に、練習はいつも以上に熱を帯びている。
壱岐高校はマネージャーを併せた部員25人全員が地元の出身だ。人口約24000人の小さな島で生まれ育った高校生たちが、いま全国から注目を浴びている。
壱岐高校は2024年の秋の長崎県大会で準優勝。その後の九州大会でベスト8まで勝ち上がった。そこで期待されたのが「ハンデを乗り越え奮闘した高校」に与えられる「21世紀枠」での甲子園出場だ。壱岐高校は一度の遠征で約30万円かかり、練習試合の機会をなかなか作れないなど島特有のハンデがあるが、チーム一丸となって好成績を残した。

すると、1月には「九州地区 壱岐」と発表され、全国で2校のみに与えられる21世紀枠に選出され、初めての甲子園出場を決めた。

ピッチャーの浦上脩吾主将は「自分たちの夢だった壱岐から甲子園という夢が叶ってうれしい」 と話し、キャッチャーの岩本篤弥選手は「この壱岐から甲子園というのは自分たちだけでなく島民全体の願いだと思っているので、叶えられてうれしい」と喜びをあらわにした。
ハンデを自主性に変えて成長促す
夢をつかんだ壱岐高校野球部だが、他の強豪校と比べ、十分な練習環境とはいえない。

グラウンドはサッカー部や陸上部と共用。公立学校のため練習時間も冬場は1時間半ほどに限られる。

チームを率いる坂本監督は、自主性や柔軟性を養うため、日々の練習メニューを選手に考えさせるなど、限られた環境で工夫して成長を促してきた。

坂本監督は「ただ言い訳しても環境は変わらないし、置かれている立場も変わらない。それをプラスに捉えて気持ちの面でも成長できるようにずっとやってきている」と話す。
制限も多い中、強さの秘密はどこにあるのか。

ファースト日高陵真選手(高ははしごだか)は「みんな小さい時から知っているのが一番大きい」と言う。ショートの山口廉斗選手は「ホームランを打ったり150キロを投げるピッチャーはいないが、小学校中学校からずっと知っている仲間なので、どういうプレーをするか雰囲気でわかるので、それは強み」と語った。幼少期からの知り合いで気心知れた仲間だからこその結束力だ。
ライバルが仲間に「壱岐から甲子園」
全員がずっと同じチームだったわけではない。主力の2年生は中学時代まで島内の別の学校同士でしのぎを削ってきた。

バッテリーを組む浦上選手と岩本選手もそれぞれ違う中学の出身だ。浦上主将は「ずっとライバルという存在で、小中ずっと決勝戦で当たっていたので、そのときから負けたくない気持ちがあった」 と振り返る。浦上選手がいた郷ノ浦中学校は、県内随一の強豪校。当時、九州大会で優勝したこともあった。

その郷ノ浦中を最後の夏の大会で破り、長崎県大会優勝を果たしたのが、岩本選手がいた勝本中学校だ。岩本選手は「小中ずっと浦上のチームに負けっぱなしだったので、浦上とか郷ノ浦の人たちと高校で野球したいと思っていた」 と話す。

このメンバーなら必ずやれると掲げた目標が「壱岐から甲子園」だ。島外の強豪校からの誘いもあったが、ほぼ全員が壱岐高校に進学し、夢を叶えた。
壱岐の街はお祭り騒ぎ
少子高齢化に人口減少と多くの課題がある壱岐にとって、野球部の活躍は希望となっている。

地元の人は「壱岐から甲子園に出るのは今後あるかわからない。町の人みんなが押せ押せムード」とお祭り騒ぎだ。

町のあちこちに出場を祝う横断幕が掲げられ、市の寄せ書きコーナーにも数々の熱いメッセージが寄せられている。

さらに、市の広報誌の表紙にも選手たちが登場している。
壱岐高校フィーバーにうれしい悲鳴を上げている店もある。

壱岐高校の甲子園での応援グッズを販売している洋服店では、一日中、注文の電話やFAXが止まらない。店主の樋口さんは「結構日本各地からネットとFAX合わせると400件くらい。東北もあるし、関西圏が多い」と嬉しい悲鳴だ。

樋口さんは野球部のOBだ。現役だった40年ほど前、甲子園出場は夢のまた夢だった。樋口さんは「胸に壱岐って入ったユニフォームを着た子が甲子園プレーしているだけで、想像するだけでもワクワクする」と興奮気味だ。
「とにかく今はアルプス席を満席にしたい。精一杯応援したい。あとは心置きなく選手たちがプレーできるように、物心両面で支えていきたい」とも話す。
初戦は強豪・東洋大姫路との対戦
7日、組み合わせ抽選会が行われた。初戦の相手は3年ぶり9回目の出場となる近畿代表・東洋大姫路で、大会3日目の第3試合で対戦する。東洋大姫路は、春夏通じて20回の甲子園出場経験があり、これまで多くのプロ選手を輩出している強豪校だ。2024年秋の兵庫県大会と近畿大会を制していて、今大会の優勝候補にも挙げられている。

浦上主将は「東洋大姫路は投打においてレベルが高いチームなので自分たちは挑戦者としてしっかり戦いたい。自分たちの野球をして島民の思いでもあり自分たちの目標でもある1勝を達成できるように頑張りたい」と意気込んでいる。

開幕は3月18日。選手たちは島民の思いをひしひしと感じている。岩本選手は「街中いたるところに『壱岐高校おめでとう』や『頑張れ』と書いてくれている。自分たちの頑張っている姿を見て少しでも活気が出てくれたら恩返しになると思うので、全力プレーで島民に恩返ししたい」と話す。

小さな島で育った球児たちが大きな期待を背負い、夢の舞台で躍動する。
(テレビ長崎)