広島県が全寮制の中高一貫校として2019年に開いた「広島叡智学園」。開校から6年が経ち、1期生45人が高校卒業の日を迎えた。広島県が掲げる“学びの変革”の先導役を担った中高一貫校の成果と課題を探る。 

グローバルリーダー育成のため開校

2025年3月1日、卒業を迎えたのは県立広島叡智学園、通称「HiGA(ハイガ)」の1期生45人。

この記事の画像(14枚)

福嶋一彦校長が一人一人に卒業証書を手渡し、「広島叡智学園で培ったスキルや経験を土台にして、どのような問題に対しても前向きにそしてグローバルな視野を持って考え、解決していくことに果敢にチャレンジしてくれることを期待しています」とメッセージを送った。 

卒業生代表・藤川空風さんがは「HiGAの1期生であったという誇りと、共に学び支えあった絆はこれからの人生の礎として変わることはありません」とあいさつした。 

広島叡智学園は世界で活躍できるリーダーの育成を目指し、広島県が2019年に開設した全寮制の中高一貫校。1学年の定員は中学が40人、高校からは外国人留学生が加わり60人になる。

注目すべきはその立地である。瀬戸内海に浮かぶ島「大崎上島」にあり、本土との交通手段はフェリーまたは高速船。柑橘類やブルーベリーの栽培が盛んなのどかな離島が“学びの改革”の舞台となった。

国語以外の全教科、段階的に英語で授業

2019年、開校したばかりの広島叡智学園には期待に胸を膨らませた1期生の姿があった。 

当時中学1年だった吉光絢菜さんは「最初は英語にすごく苦手意識がありました。今は英語で話すことがあっても聞き取るまではできないけど、慣れたというか環境に合ってきているのかなと思います」と話していた。

開校した2019年の授業風景
開校した2019年の授業風景

広島叡智学園では国語以外のすべての教科で段階的に英語を使った授業を実施。2021年には国際的な教育プログラム「国際バカロレア」に中高一貫の公立学校として全国で初めて認定された。高校3年生の時に外国語で受ける最終試験を通れば、海外の大学の入学資格を取得できる。

あれから、6年。
卒業する1期生たちは最後のホームルームで「いろんな困難にみんなで挑んで乗り越えていく毎日が楽しくて、刺激的な6年間でした」「HiGAは私にとって居心地のいい場所でした」などと発表し、頼もしく成長していた。 

その中に、吉光さんの姿を見つけた。 
「数えきれないくらいの思い出ができたけど、どれも色濃いから全部思い出せるくらい鮮明で自分の人生で一番大切な経験になりました」 

島だからできた経験や人との縁

福山市の実家を離れ、寮生活を送った吉光さん。6年間の島での生活をこう振り返る。

吉光さんが過ごした大崎上島での生活
吉光さんが過ごした大崎上島での生活

「海に行くときにウェイクボードに誘ってもらったり、HiGAから始まった島の人たちとのつながりで、地元にいたらできなかったような経験やいろんな人とのかかわりが持てました。島だからつながった縁かなと思います」

 一方、送り出した親は不安の連続だったという。 吉光さんの母親は「最初はホームシックがすごくて、たびたび学校から連絡をもらって迎えに来ました。『戻りたくない』と言うこともたまにあったんですけど、徐々に慣れてきて学校に戻ることが楽しくなるように変わった。安心して外に出せるくらい成長してくれたかな」と笑顔で語った。 

卒業の記念撮影をする吉光さん家族
卒業の記念撮影をする吉光さん家族

吉光さんは、4月に東京外国語大学に進学する。 
「国際的な視野やいろんな世界の文化を知れたからこそ、自分の地元や日本人としてのアイデンティティをこれからも大切にしていきたい。日本文化や日本の言語を深く探究して日本の魅力をもっと世界に広げられるような人になっていきたいです」 

卒業生45人中29人が海外の大学志望

学校によると、2025年2月21日時点で1期生45人全員が大学への進学を希望。 

そのうち29人が海外の大学を志望していて、アメリカやイギリスなど約30の海外の大学に合格しているという。

広島叡智学園の福嶋校長は「進路指導が一番の大きな課題だと思っていました。3年くらい前から手探りで大学とのネットワークを作ったり、あるいは職員をあらかじめ海外に派遣して大学とのつながりを作ってきた。その積み重ねが、子どもたちが海外へ行くときの背中を押すことにもつながった」と述べる。 

一方で、開校した当時は9倍を超えていた志願倍率はこの6年間で減少を続け2025年度は5.80倍にとどまっている。また、高校から1学年20人を募集している外国人留学生枠は、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いてからも「全寮制」が障害となり定員に満たないのが現状だ。
この課題について福嶋校長は「国によって教育課程が違う。24時間子どもをあずからなければいけないから、差がありすぎる子どもをとっていくというのは現実的には厳しい」と話す。 

広島県の湯崎英彦知事も外国人留学生の確保を課題に挙げたうえで「卒業生の活躍が大きなカギ」になると期待を寄せている。
「卒業生とつながり続けて、活躍を後押ししてあげることが一番だと思います。彼、彼女が学んだ学校に行ってみたいというふうにつながっていくのではないか」

グローバルリーダーを育てようと開校した「広島叡智学園」。初めての卒業生たちが世界を目指して羽ばたいていった。「離島」「全寮制」の壁を越えて大きく成長した卒業生を武器に、生徒をひきつけるための模索が続く。

(テレビ新広島) 

テレビ新広島
テレビ新広島

広島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。