東海テレビニュースONEでは、シリーズで「SNSな人々」をお伝えします。いまや“社会そのもの”といっていいほど私達をとりまいているSNS。そんな時代を「うまく生きる」ヒントをさまざまな人の声から探ります。「闇バイト」というSNSの罠に落ちてしまった若者たちを取材すると、彼らがSNSに“つながり”を求めてしまった背景が見えてきました。
■訪れた家で「私服警官に肩を叩かれて…」“3度目の受け子”で逮捕された32歳男性
奈良県大和高田市にある「エモーショナルリテラシーセンター」。元受刑者やギャンブル依存症など社会に生きづらさを感じている人たちを支援する民間団体「ワンネス財団」が運営する施設だ。

この団体から支援を受けている32歳の男性は、実際にSNSで闇バイトに応募し、特殊詐欺事件に加担。逮捕、実刑判決を受けた。

闇バイトをして実刑判決を受けた男性:
偽物の警察手帳の写真をこういうふうに見せてくださいと渡されて、偽名でワキモトという名前を名乗れと言われました。耳元にイヤホンを付けて、指示役の言うとおりにやっていた。「お客様のクレジットカードが何者かに悪用されてしまっているので、一旦こちらでお預かりさせて頂いて、また後日新しいカードをお持ちします」と。
この男性は2020年、2度にわたって高齢者の家を訪れ、キャッシュカードをだまし取った。総額およそ950万を引き出し、報酬は45万円ほどだったという。
しかし…。
闇バイトをして実刑判決を受けた男性:
ピンポンを押してちょうど相手の方が出られたところで、私服警察官に肩を叩かれて。もう真っ白になりましたね、頭が。
3度目の犯行に及んだ際、詐欺未遂で現行犯逮捕され、懲役3年の実刑判決を受けた。
■大学卒業後は就職し平日休みでスロットにハマり…多額の借金で闇バイトに
中学・高校と部活動に打ち込み、大学卒業後は地元・北陸地方の食品関係の会社に就職したが、そこから人生の歯車が大きく狂い始めた。

闇バイトをして実刑判決を受けた男性:
平日休みの仕事に就いていたので、なかなか休日に友人と会うことがなくなっちゃって、1人で何しようとなった時に、結局スロットにそのまま流れついちゃって。仕事のない休みの日とかは朝からパチスロ。(借金を)大体300~400万円ぐらい背負っていました。
スロットで多額の借金をし、返済も滞り、消費者金融や闇金に手を出してしまったという。そして…。
闇バイトをして実刑判決を受けた男性:
Twitter(X)ですね、きっかけは。「ブラックでもお金が借りられる」「即日高収入」とかそんな感じのキーワードを打って検索かけたらそういうツイートにつながった。
当時、ツイッターで見つけたのが、仕事の内容を明らかにせず多額の報酬をほのめかす、「闇バイト」だった。
闇バイトをして実刑判決を受けた男性:
1回目は踏みとどまったんですよ、これ、だいぶヤバいなと。日々返済するためのお金をどう工面したらいいんだろうと悩んでいるうちに結局、流れついちゃったっていう感じですね。
やり取りを秘匿性の高いアプリ「テレグラム」に誘導され、要求通り、通帳や実家の場所が分かる写真を送ってしまった男性。そのわずか数週間後に立っていたのは、特殊詐欺事件の現場だった。

闇バイトをして実刑判決を受けた男性:
母子家庭になっていたので、そもそも経済的に裕福でなかった。大学自体も奨学金で行っていたので。督促状が来るようになってからは会社だったり、親にも結構責められていたので、正直自分の居場所がどんどん、肩身が狭くなっていく感じではありましたね。相談とかも全然できなかったですね。
現在は、団体の支援を受けながら 更生への道を歩んでいる。
支援者:
どうですか、調子は?
闇バイトをして実刑判決を受けた男性:
精神的なところは安定していますし、4月から正社員で働くことも決まっています。
■SNSで出会った“やさしいおじさん”が徐々に犯罪行為を要求…救い出された25歳男性
簡単には抜け出せない“SNSの罠”。その一歩手前で救い出された人々もいる。
若者などを支援するNPO法人「陽和」の理事長、渋谷幸靖さん。

2025年2月9日、名古屋市中区で勉強会を開き、非行や引きこもり、虐待など 様々な“生きづらさ”を感じる若者たちを支援する団体などが集まった。

この勉強会で登壇したのは、名古屋市に住む25歳の男性だ。
25歳の男性:
僕自身も小さい頃から虐待を受けて育ってきて、僕は非行に走って、少年院2回と鑑別所3回ぐらい。
男性はあることがきっかけで、SNSの罠から救い出された。

渋谷さんの支援を受けながら、2025年1月から名古屋のマンションで1人暮らしを始めたこの男性。

25歳の男性:
変な感じしますよ、やっぱり家が無いのが当たり前だったので。
虐待を受け、家庭でも学校でも孤独を感じていたといい、SNSが唯一の“つながり”だった。
25歳の男性:
16歳とかの時ですね、QRコードを載せている子をどんどん追加していったりとか、グループLINEで全国の子と繋がったりして、俺はこんな犯罪したぞとか。自分自身もそこで繋がって、最初普通に優しいおじさんっていう感じで、いつも車とかで遊びに連れて行ってくれたりとか。徐々にどこどこから銅線をパクってこいとか、居酒屋のレジからお金をパクッてこいとか、東京に行ったりとかして詐欺をする受け子とかかけ子とか。
不安や不信感はなかったのか。
25歳の男性:
そういうのは全くないですね。むしろ誰かと繋がっていたりとか、誰かとしゃべっていないと寂しかったりとか、やるせない気持ち。

家庭環境などで感じた“生きづらさ”を、YouTubeに投稿していた男性。その動画を偶然見つけたのが渋谷さんだった。

陽和の理事長 渋谷幸靖さん:
私のほうから「闇バイトの入口とか、詐欺に使われるところになってくるから、口座とか売ったらだめだよ、犯罪だから」ということを彼に強く伝えて「そうなんですか」と初めてそこでストップがかかった。素直さが高いが故にどっちにも転びやすくて、いい方にも悪い方にも転んでしまう。悪い大人とか、利用してしまう大人がいると簡単に操ってしまう。
男性は、スマートフォンの待ち受け画面に、自分が気を付けなければならないことを箇条書きにして表示し、忘れないようにしている。

25歳の男性:
自分が発達障害を持っていたりとか、アスペルガーと言われているので、自分自身で気を付けること、例えば「しっかり相手の気持ちを考える」ことだったり、当たり前のこと、みんなができるけど俺は意識しないとできない部分なので、そういうのを待ち受け(画面)にして、常に意識してやっていかないとみんなに迷惑かけちゃうので。
「生きづらさ」を感じながら、立ち止まれないでいた男性は、SNSではない“つながり”で、 歩みを止めることができた。
■「気づいたタイミングだと遅い」「便利だけど脅威」SNSに翻弄された2人の若者
SNSに翻弄された2人はいま、どう向き合っているのか。

25歳の男性:
気付いたタイミングだと遅いんですよね。だからそうなる前とか、怪しい情報あるときには、どこでもいいと思うんです、誰かに話す。これは危ないのか危なくないかわからない時にはすぐに相談したほうがいいと思います。
闇バイトをして実刑判決を受けた男性:
(今は)Xもアカウントは持っていますけど、基本は見るだけ。1日5分とか、長くても10分ぐらいですかね。結局のところ相談とかしなければ1人で完結できちゃうてとことが僕はSNSの怖さとは思うんです。使い方によっては便利なものになるけど、脅威にもなるということですかね。
2025年2月25日放送
(東海テレビ)