伊藤忠商事が男子寮に続き、女子寮を新設した。減少傾向だった社員寮の充実化の動きが進んでいる。

快適な居住空間と交流スペースが特徴

3日、伊藤忠商事は新たに設置した女子寮を公開した。2カ所に分散していた借り上げの女子寮を統合した。

伊藤忠商事の新しい女子寮
伊藤忠商事の新しい女子寮
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伊藤忠商事・小林文彦副社長:
同じ屋根の下で集合的に集団生活を送るということが、将来の人脈形成、成長、それから一体感の醸成に大変寄与できるのではないか。

国交省の調査によると、1998年に12万2780件だった社員寮が、2000年代以降は減少傾向にあったが、2023年には8万3450件と増加に転じている。

近年の採用難や賃貸住宅の価格上昇を背景に、福利厚生の一環として社員寮を充実させる動きが大手企業で広がっている。

ベッドと机があっても広く感じる室内
ベッドと机があっても広く感じる室内

伊藤忠商事が心がけたのは、“居心地の良さ”と、“ほどよい距離感”だ。

番場成花記者:
こちらが新設された女子寮なんですが、1人暮らしの平均的な広さと同じくらいらしいですが、ベットと机がコンパクトに収まっていて、結構広く感じます。

建設する前に女性社員にアンケートを行った上で、女性目線での収納スペースを多く設け、最新の家電も設置した。

また、睡眠の質向上を促すためのマットレスも導入し、専用アプリで睡眠テータを確認でき、睡眠の質を上げるアドバイスも見ることができる。

社員のプライバシーだけでなく、健康もサポートすることで、最大限仕事に集中できる環境に。

さらに、もう一つ、力を入れているところがある。それは、年代や部署を超えてコミュニケーションを深める事のできる「共有棟」だ。

寮の8割が木材で建てられていて、社員が木のぬくもりを感じながら、談話できるほっとした空間になっている。

また、シェアキッチンでは置き型社食も導入し、社員は1個100円で購入でき、疲れて帰っても、手軽に栄養のある食事をとることができる。

月に掛かる寮費は、光熱費などを含めて1万5千円だ。

入寮予定の社員:
率直に早く入寮したいと思うくらい、素敵なお部屋で。シェアキッチンであったりソファースペースがあるので、寮生の同期、先輩、後輩と料理やスポーツ観戦ができるのが楽しみです。

今後は交流イベントやミーティングなど、共有スペースを使って、社内の人脈形成や人材育成の場として活用していきたいという。

伊藤忠商事・小林文彦 副社長:
たくさん優秀な女性に当社を目指してほしい。商社はまだまだ男の世界だというふうなものもあると思うが、優秀な女性が生涯に渡って、自分のライフイベントをこなしながらでも、勤めあげることができる会社なんだと感じてもらいたい。

福利厚生充実が企業価値向上につながる

「Live News α」では、エコノミストの崔真淑(さい・ますみ)さんに話を聞いた。

堤礼実キャスター:
今回の社員寮の取り組み、どうご覧になりますか。

エコノミスト・崔真淑さん:
私も社会人デビューをした時に女子寮で過ごしていたんですが、当時は景気もよく、とても綺麗なマンションで過ごせたのは良い思い出です。たしかにモチベーションアップにつながっていたと思います。
ただ、2008年のリーマンショック以降から、法定外の福利厚生費は全体では下がりつつあるんです。今回の取り組みは、女性向けというだけでなく、従業員の働くモチベーションに直結しやすく、人材獲得に悩む多くの企業にとって示唆のある取り組みだと思います。

堤キャスター:
賃金アップではなく、福利厚生を充実させるメリットはなんでしょうか。

エコノミスト・崔真淑さん:
賃金の上昇はもちろん重要です。しかし、賃金は企業の社会保険料コストなど、見えない固定費も増加します。ただ、福利厚生費であれば、もしもの時に企業側も機動的に変動させられるというのが導入しやすいポイントだと思います。
さらには経済学における研究をみると、こうした住環境などの福利厚生は、従業員離職率低下、生産性の改善、そして結果的に企業価値へプラスの報告が多数あります。
また、こうした取り組みは大企業だけでなく、ベンチャー企業でも起きており、婚活支援をするなどユニークな企業も登場してきています。企業の特性が出やすいというのも福利厚生のポイントです。

非正規社員との格差問題にも注意

エコノミスト・崔真淑さん:
ただし、福利厚生については課題もあることも忘れてはいけないと思います。

堤キャスター:
その課題とはなんでしょうか。

エコノミスト・崔真淑さん:
こうした法定外の福利厚生は、多くの企業では正規社員をメインにしています。各種研究をみると、正規・非正規問題は賃金だけでなく、福利厚生でも格差が起きていることを報告しています。
最近は、就職氷河期世代の雇用や賃金などに注目が集まることが増えてきています。政府とはしては、賃金以上にさまざまな格差が起きていることを認識する必要があるのかもしれません。

堤キャスター:
ひとつ屋根の下でそれぞれの価値観を共有することで、チーム力の向上や、社内でのネットワークの構築にもつながるように思います。プライベートと仕事を分けつつ、自然に良いコミュニティができあがるといいですよね。
(「Live News α」3月3日放送分より)