2019年、中国の武漢市で原因不明のウイルス性肺炎が確認された。この時はまだ未知なるウイルスにやがて全世界が翻弄されることになることなど想像していなかった人が大半だったのではないだろうか。
未知のウイルスが蔓延

2020年2月28日、静岡県内で初めて新型コロナウイルスの陽性者が確認された。
1月15日に初めて国内で確認されてから約1カ月半後のことだ。
当初はクルーズ船の乗客や海外に出かけた人たちが中心だったが、未知のウイルスに、どう対応してよいのか、どう伝えればよいのか、誰にもわからなった。
こうした中、政府が決めたのは子供たちの学校の休校だ。
安倍晋三 首相(当時)は「学年を共に過ごした友達との思い出を作るこの時期に学校を休みとする措置を講じるのは断腸の思い」と口にした。
人と人との接触を減らして距離を取るという新しい生活様式が始まったが、同年3月には新型コロナ対策・専門家会議の尾身茂 副座長(当時)は「爆発的な患者急増、オーバーシュートにつながりかねない状況が続いている」と警戒を呼びかけた。

感染拡大は止まらず「クラスター」「オーバーシュート」「パンデミック」「PCR検査」といった聞き慣れない言葉が日常に。

そして2020年4月、安倍首相(当時)は「改正新型インフルエンザ等対策特別措置法第32条第1項の規定に基づき緊急事態宣言を発出いたします」と宣言。
企業はテレワークを推進し、イベントや酒を提供する飲食店の営業は休止に追い込まれた。
”人流”を抑える取り組みが強化され、社会は大きな我慢を強いられた。
そうした中でも新型コロナは変異を続けていった。

2021年8月、静岡県疾病対策課・後藤幹生 課長(当時)は「デルタ株、今までにない最強の感染力。もう別次元。今までと違うウイルスに生まれ変わってしまったと言っても過言ではない」と変異株の脅威を説明。
どんな対策が有効なのか。より多くの命を守るため何が必要なのか。
行政、医師、企業、社会が力を合わせた。
そして、世界中で進められた研究により、かつてないスピードでワクチンと治療薬が開発され、社会に広がった。
「5類」移行でかつての日常を

2023年5月。
新型コロナは感染症法上の分類がインフルエンザと同じ5類へと移行され、日常を取り戻す動きが本格化していった。
海外との行き来にも支障がなくなり、2025年1月の訪日外国人は1カ月間として過去最多に。
静岡県下田市のある飲食店は現在、週末はほぼ満席状態で、料理やお酒を気の合う仲間と自由に楽しむ日常が戻っている。
新型コロナの感染を経験したという来店客は「症状が結構重く、味覚障害になり1カ月くらい味を感じなかった。それをきっかけに禁煙できたが、好きな店も自粛していて行けなかった。今はこうなって本当によかった」と話す。
当時を振り返り“今”のありがたさを実感

下田市内で飲食店4店舗を経営する開国グループ・徳島一信 代表は従業員の生活を守るために奔走した5年間を「あの頃はやっぱり店を維持していくことが本当に大変で。お金がどんどん飛んで行ってしまいどうしたらよいのかわからない。いま思い返すとそういう状況だった」と振り返る。
新型コロナが蔓延していた当時は通常営業ができず、子供たちへの食事の提供やテイクアウトメニューの開発、下田の町を支える取り組みなどに力を注いでいたという。

いま、お客さんの笑顔、笑い声の戻った店内を見て徳島代表は「あの頃を思い返すと、もともと料理が好きでこの世界でやっているので、お客さんとコミュニケーションを取りながら仕事ができるのは本当にうれしい」と喜びを口にした。
コロナ対策の最前線に居た医師は

静岡県の専門家会議の座長として、先頭に立って新型コロナ対策に取り組んで来た倉井華子 医師(現・県立静岡がんセンター感染症内科部長)は「感染症がこれだけ世界を変えてしまうことを実感できたことが大きい。医療に非常に多くの人たちが協力し、真剣に向き合ってもらえるのだなと感じたことが印象的だった」と当時を思い返す。
その上で「当初は恐怖が呼ぶ偏見と言うのか、感染者が出た店が風評被害で営業停止になったり、患者が出た施設に多くの批判が集まったりということからトラウマを抱えた人を多く目にしてきたので、情報の伝え方、『怖さ』をどのように伝えるかの難しさを強く感じた」と話した。

また、当時の苦労について尋ねると「医療現場は恐怖を感じるより、ただ頑張るだけという状況であったが、感染者に対する心無い言葉を聞くのがつらかった。大変なことと言えば、患者の受け入れを拒否する医療施設や宿泊施設など多くあり、わからない中でそうした所に協力してもらうのは大変だった」と振り返る。
現在の新型コロナの状況

初めて感染が確認されてから5年が経ったが新型コロナウイルスが無くなったわけではない。
現在の感染状況は定点観測された数値が1週間に1回発表されており、最新の数値で1医療機関あたり6.84人となっている。
これは県が独自で定める注意報レベルの「8人」をやや下回り、警報レベル「16人」からはかなり下の落ち着いた状態だ。
ただ、時系列で見ると半年前と2024年夏に比較的大きな流行があったことが確認できる。

また、東京都の健康安全研究センターでは新型コロナが5類になった後も変異株の解析を続けており、2024年の夏「KP.3(ケーピースリー)」の流行をいち早く察知していた。
「KP.3」はオミクロン株の子孫にあたり、従来のオミクロン系統よりも感染力が強いのが特徴だ。
そして「KP.3」がさらに変異して、今は「XEC(エックスイーシー)」中心になっているそうだ。この株は感染力が強い以外、症状は「KP.3」とほとんど変わらないという。
変異するウイルスへの対応は

次々と変異していくウイルスに対して私たちはどんなことに注意すれば良いのだろうか。
倉井医師は「注意する点として『感染力』『重症化しやすいか』『免疫逃避能力(ワクチンが付きにくいか)』の3点で評価する必要がある。変異株といってもどこが変わっているのか注目することが重要」と説き、「今のワクチンはベースラインとなる株を使っていて(変異株にも)一定の効果は得られるようになっているので安心して欲しい」と強調する。

新型コロナは5類に分類されたが、我々の生活を一変させたウイルスは変異し続け我々の周りに存在していることを忘れずにいたい。
(テレビ静岡)