将棋の八大タイトルの一つ「棋王」を決める熱戦が、高知の地で幕を開けた。「子供の頃から夢にまで見ていた舞台」。挑戦者の増田康宏八段の言葉が、対局への期待を高める。
21年ぶり、高知で将棋タイトル戦
2025年2月2日、高知市で21年ぶりとなる将棋のタイトル戦が開幕した。

第50期棋王戦5番勝負第1局。先手は竜王や名人など、タイトル七冠を持つ藤井聡太棋王。

挑むのは、これがタイトル戦初挑戦となる増田康宏八段である。

対局場がある高知市文化プラザかるぽーとには、子供から高齢者まで大勢の将棋ファンの姿が見られた。「藤井名人を見たくて来ました」という声も聞かれ、地元高知の熱気が感じられる。

将棋を始めて2年目という女子高生は「うまく決められた時とか、爽快感がすごい。先輩を倒した時は本当に嬉しい。プロの将棋ってほとんど見たことないので、どんなのかなって気になってます」と思いを語った。
前日の様子、緊張と期待が入り混じる
時間は遡って対局の前日。藤井聡太と増田康宏八段が最初に望んだのは「検分」だ。

対局で使う駒や盤、対局場の仕様などを対局者が実際に見て確認する。

第1局の立会人を務める四万十市出身の大御所・森雞二 九段は、将棋盤について「21年前に谷川・丸山戦で使った盤で、地元の人の提供です。結構いい盤だね」と語った。

将棋盤と駒は高知のアマチュア六段、小野憲三さんが提供した。小野さんは「21年前に使っていただきまして、2度目ですけんど、もう本当に光栄です」と喜びを語った。

検分を終えた二人の対局者。夕方には「前夜祭」で大勢のファンの歓迎を受けた。鉄道ファンという藤井棋王は「土讃線の特急・南風に乗って、こちらまで来まして、ダイナミックな車窓の景色と、振り子式の車体の傾斜を楽しみながら来ることができました」と話した。

清水市代女流七段から「初めてのタイトル戦で一番不安なことは対局の作戦ではなく、前夜祭でのスピーチ」と暴露された増田八段は「これだけ大勢の方に、ハイ、お集まりいただいて、嬉しいと同時に、ハイ、緊張しています」と挨拶。

対局の抱負を聞かれると「藤井さん得意戦法の『角換わり』が一番難敵でして。明日は(角換わりに誘導させないよう)先手番が来ることを願っています」と語った。
対局当日、高知に熱気が満ちる
増田八段の願いはかなわず、第1局は藤井棋王の先手で始まった。対局は互いの「角」を交換し、持ち駒にする「角換わり」の戦型になった。だが、増田八段は用意していた戦法で互角の戦いに持ち込んだ。

大盤解説会では、両者が指す一手一手を、観客が固唾を飲んで見守る。ファンの男性は「増田先生が嫌がっていた『角換わり』になってるので、ちょっと頑張ってもらいたいなと期待してます」と語った。

また、追手前高校の将棋部に所属する男子生徒は「藤井聡太さんってプロが予想しない手を打ったりするので、そういうところを見たいですね」と期待感をつのらせた。
名人たちの指導対局、ファンを魅了
対局の傍らでは、プロ棋士による、1人のプロが8人のアマチュアを相手に将棋を指す「指導対局」も行われた。

2016年度から名人戦を3連覇した「A級棋士」佐藤天彦九段は、子供たちとの対局を振り返り、「子供だったらどんどん攻めてくるかと思いきや、むしろ僕の動きを待ってるというか、うまく反撃を決められて、最後負けた将棋が複数ありました」と感心した様子で語った。

佐藤九段は、高知の子供たちの姿が印象的だったという。
佐藤天彦九段:
同じ将棋教室でコミュニティとしてやられているんだと思う。同じコミュニティで将棋をさすという文化が育まれているのはとてもいいことだなと思いました。

高知出身の女流プロ棋士・島井咲緒里女流二段も指導にあたった。「地元に将棋を通して恩返ししたいという気持ちがすごくある」と、地元での指導対局に込めた思いを語った。
熱戦の結末、そして将棋ファンの思い
午後7時18分、127手で増田八段が投了。藤井棋王が先勝した。

増田八段は「藤井さんの知らない作戦をやることができて戦えたのは、かなりいい内容だったかなとは思います」と振り返った。

藤井棋王は「棋王戦、高知でのタイトル戦は本当に久しぶりの開催だということだったんですけども、本当にたくさんの方に対局を見ていただけたことを嬉しく思っています」と語った。

観戦に訪れたファンたちからは「見応えがあってすごい対局だった」「プロの対局を生で見られる機会はもっと欲しいです」といった声が聞かれた。

第50期棋王戦第1局は、多くの人たちの心に熱いものを残し幕を閉じた。次回の対局も期待が高まる、将棋ファンにとって忘れられない一日となった。
(高知さんさんテレビ)