福岡厚生労働大臣は、2月14日、医療費が高額になった場合に患者の負担を抑える「高額療養費制度」の上限額を引き上げる方針を一部修正し、がん患者団体などに伝えた。

長期的に治療を続ける患者の負担を増やさないよう、「多数回該当」のみ、限度額を据え置くという内容だ。

全国保険医団体連合会 本並省吾事務局次長
全国保険医団体連合会 本並省吾事務局次長
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「このままでは現役世代に大きな負担がきます。実態を全く分かっていない修正案です」と話すのは、全国保険医団体連合会の本並省吾事務局次長。詳しく話を聞いた。

■負担額アップは現役世代狙い撃ち 高額療養費制度を受けられない人が増加

全国保険医団体連合会 本並省吾事務局次長:

政府が出した修正案は、「多数回該当」のみ限度額引き上げを据え置くというものです。

「多数回該当」とは、直近12カ月以内に高額療養費制度を3回利用すると、4回目から負担が軽減される仕組みのこと。

例えば、年収約370万円~770万円の方は、現行では高額療養費の負担額が約80,100円、多数回該当になると44,000円になります。 これを最大約77,000円に引き上げるとしていたのを、44,000円のまま据え置くという内容です。

しかし、高額療養費の負担限度額の引き上げによって、長期的に治療を続けている患者さんの中にも、高額療養費の対象から外れてしまう人が多数発生します。

例えば、年収650万円の人は、現行では医療費が約8万円を超えると高額療養費の対象になります。 それが、引き上げ実施後は医療費が約14万円を超えないと高額療養費の対象にならなくなってしまうのです。

高額療養費の対象にならないということは、当然、多数回該当にもなりません。

■狙い撃ちにされた「年収510万円~770万円のボリュームゾーン」

全国保険医団体連合会 本並省吾事務局次長:

そして、この負担限度額の引き上げ幅が大きいのが、年収約510万円~770万円のいわゆるボリュームゾーン、働き盛りの方たちです。 子育て中の方も多くいる世代です。

年収約510万円~650万円で3万円超の負担増、650万円~770万円で6万円近い負担増となります。

高額療養費の対象にならない患者が増えるということは、多数回該当者が減るということです。

このことからも、修正案は実態調査をせずに決めたように思えてなりません。

■長期になるほど治療は予定通りに進まない…

全国保険医団体連合会 本並省吾事務局次長:

治療は計画通りに進むものではありません。

がん患者の抗がん剤治療など、患者の体調によって2週に1回の予定が3週に1回、4週に1回と延期になることは珍しくなく、長期の治療ほど、体へのダメージが蓄積し、変更が起こりやすくなります。

そして、治療スケジュールの変更により、ひと月の支払額が高額療養費制度の対象とならない場合も珍しくないのです。

また、通院している病院によっては、検査のみ他の病院を利用するケースがよくあります。PETや骨シンチグラフィといった特殊な検査機器は、どこの病院にでもある訳ではないからです。

高額療養費は医療機関ごとに計算しますが、70歳以下の場合、1医療機関につき1カ月2万1千円以上の医療費負担でないと合算できません。 しかし、検査費用は(状況によりますが)、数千円~1万数千円程度が多く、合算の対象にならないこともよくあるのです。

このように、長期的に治療をしていても、高額療養費制度の対象にならないことも多く、多数回該当にならない患者さんはたくさんいるのです。

■利用者全体の8割、640万人を切り捨てるのか

全国保険医団体連合会 本並省吾事務局次長:

高額療養費制度の年1回以上の利用者は795万人。うち多数回該当は155万人で、全利用者の2割です。 今回の政府の修正案では、この残り640万人は、負担増により「治療中断」「治療回数減」が懸念される状態のままです。

子どもを持つがん患者を対象に実施した保団連調査でも、多数回該当の有無にかかわらず、限度額引き上げによる負担増で、4割が治療中断、6割が治療回数減と回答しています。

いざ、がんなどの大きな病気にかかった時、子育て中などの現役世代こそ、高額療養費制度というセーフティネットは大切なものです。 今一度しっかり検討していただきたいと思います。

(関西テレビ 2025年2月16日)

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