継続した治療を受ける患者にとって“命綱”ともいえる「高額療養費制度」。 この制度の見直しをめぐって、いま国会で議論が紛糾している。 不安を抱く患者たちの思いを取材した。
■【動画で見る】「子供の将来と自分の命が天秤に…」がん闘病患者の悲痛な声
■「高額療養費制度」の見直し 不安を抱く患者「命の期限感じた」

立憲民主党 岡本充功議員:私は高額療養費の見直しはするべきだと思いますけど、今回のはあまりにひどい。現場では泣いてますよ。
国会で野党から猛反発の声が上がっているのは、「高額療養費制度」の見直しだ。

一般社団法人 医療と暮らしを考える会 宮本代表:三木ちゃんいらっしゃいませ。
ガン患者の当事者の集まりに訪れた三木啓義さん(50)。 2019年にすい臓がんと診断された。
三木啓義さん:すい臓自体がないでしょ。今はこの子(すい臓がん)と付き合って6年。(息子が)成人式して、一緒にお酒飲んだりとかは、もう無理なんだろうなあというのが、自分中での命の期限に感じていました。
抗がん剤などで三木さんの月々の医療費は、平均で35万円ほどだが、医療費が高額になった際、患者の自己負担を一定額に抑える「高額療養費制度」などを利用し、実際の支払額は毎月3万円ほどに抑えられている。 がんが見つかった時は余命1年と宣告されたが、抗がん剤治療を続けた結果、今は病状も安定。 社会福祉士の資格取得を目指している。
■「死んだほうが家族のためになる」治療をすることが心の負担につながる

三木啓義さん:(治療費が)高額になった人間を、皆さんの保険料で支えていただくという、非常にありがたい制度。
この制度の受給者は、年間1250万人ほどと推定されているが、政府は去年12月、少子化対策の財源確保などのため、高額療養費制度を見直し、月々の負担額の上限を引き上げる方針を明らかにしたのだ。 例えば現状の制度だと、年収600万円の場合、高額療養費制度を使うと実質の負担額は月8万100円ほど。 しかし、政府の案では2年後には月11万3400円程度と、月々3万円ほどあがるのだ。
三木啓義さん:それ(治療費)を工面していくっていうので、やっぱり家族には迷惑をかけまして、かけました、今もかけてます。俺って死んだほうが、家族のためになるんちゃうんかなあっていうのは、がん患者の方みんな1度どころか、もうしょっちゅう心には思ってることやと思います。大切な人に迷惑をかけることになっていくんじゃないか、それは自分の力じゃなくて、制度が改悪と言っていいんでしょうか。変わることによって、そういうことが発生していくのに、すごい不安を感じます。
■「子供の将来と自分の命が天秤に…」

こうした不安を抱く声は、がん患者などで作る団体に寄せられ、たった3日で3623人の声が集まった。
30代女性:食道がんステージ4です。共働きで子供も2人とも小学生と小さいです。負担額引き上げになると、おそらく貯金に手を付けることになると思います。子供の将来と、自分の命が天秤に乗った状態です。とても苦しいです。
50代女性:この制度がなければ、今の治療を続けることはできなかったでしょう。いつまでこの治療が続けられるのか分からないけれど、生きるための選択なんです。
■患者の声が反映されていないと指摘

がん患者団体の轟さんは、新たな制度案には、こうした患者の声が反映されていないと指摘する。
全国がん患者団体連合会理事 轟浩美さん:20代、30代、40代の働き盛りの子育て世代や、住宅費・教育費がかかる人たちの、(限度額の)上げ幅が異常に大きい。どういう対策をとるかは政治がすることです。ただ、声を聞かないでやっている。
■高額療養費制度を利用して通院する人 月の薬代は5万7600円「治療費上がると治療やめることも視野に」

現役世代の生活には、どんな影響があるのか。
医師:体調はどうですか。
山本さん(仮名・29):最近は頭が痛い日が多い。だんだん鈍痛が来る。
大阪市に住む山本さん(仮名)29歳。 22歳の時、白血病を発症し骨髄移植を受けたが、後遺症が残り、症状の抑制と経過観察のため、通院を続けている。

山本さんが後遺症の症状を抑えるために服用している新薬「ジャカビ」。 1錠およそ8200円という高額な薬を、1日に2回服用する必要がある。
薬局のスタッフ:お会計がこちらになります。
山本さん(仮名・29):カードでも大丈夫ですか。

山本さん(仮名・29):薬局だけで5万7600円。これが限度額。
山本さんは現在、時短で働いていて、月収はおよそ20万円。 現在の月々の負担は、高額療養費制度を利用して、5万7600円だが、上限額が引き上げられた場合、今後月額最大2万円ほど上がる可能性があるのだ。 今後、医療費がどのくらい上がるかによって、今の治療をやめることも選択肢に入れていると言う。
山本さん(仮名・29):毎月毎月、数千円から数万円増えてしまうのは、生活費の面でももかなりの影響がある。新薬をせっかく見つけて使えるようになったのに、金額上がって(新薬が)使えなくなると、体調も逆戻りになってしまう。継続で(高額療養費制度を)利用している人の限度額については、慎重に考慮してほしい。
こうした患者らからの声を受けて7日、福岡厚労大臣は…。
福岡資麿厚労相:(当事者の)不安の声に真摯に向き合うとともに、高額療養費のセーフティーネット機能の堅持という課題の両方を満たすことのできる解を、見出すべく検討を重ねて参りたい。
突然の病気やけがなど、誰しもが利用する可能性のある高額療養費制度。 もしもの時に頼れるセーフティーネットであり続けるために、丁寧な議論が求められる。
■限度額引き上げの背景に「国の医療費の右肩上がり」

高額療養費の限度額がどれぐらい引き上がるのか、現状を見ていく。
厚労省の試算で、70歳未満の方で年収300万円ぐらいの方は2万1600円負担が増え、7万9200円となる。 年収460万円の方は8100円程度負担が増えて8万8200円程度。年収700万円の方は5万8500円程度負担が増え、13万8600円程度、月に負担することになる。
かなりの負担額と言えるが、背景にあるのは国の医療費の右肩上がり。高齢化や薬の高額化が原因としてある。 大阪市立総合医療センターの吉田医師によると、『上限の引き上げは今の治療が難しいという患者も出る。ただ、医療財政が破綻したら医療が受けられなくなる。難しい政治判断になる』ということだ。
■「どこからかは財源を持ってこなきゃいけないという問題がある」

ジャーナリスト 浜田敬子さん:2040年まで日本の高齢化はすごく進みます。この議論がなぜ起きたかというと、現役世代の社会保険料の負担が大きすぎることです。ここにも不満があるわけですよね。でも患者さんとしては、治療費が高額になれば治療を続けられない問題もあり、どう解決していくかが難しい問題です。 今、非常にいい薬が出来てきていて、それが保険適用されると使いやすくなるので良いことなんですが、医療保険部会の議論を見ると、もっとも健保組合の加入者で1ヶ月で使った額は1億7000万。一人で。そうしたら3割負担でも5000万だから、それぐらい薬が高いです。
ジャーナリスト 浜田敬子さん:例えばこれから認知症の薬とか、高額なものがどんどんできて、使いたい人も出てくる。でも高齢者が多いと、このままでは財政が破綻してしまう、それも分かりますよね。じゃあどこから負担してもらうのかっていうときに、例えば立憲民主党はワクチン基金みたいなのがあって、それを国に返納するとか、維新も市販で使える風邪薬、湿布薬の保険適用をやめるとか、どこからか財源を持ってこなきゃいけないという問題があります。

関西テレビ 神崎博報道デスク:医療費が右肩上がりで、負担する保険料でも右肩上がりになっていくと、このままではもう医療が持たなくなるので、今回は高額療養費に目をつけたわけですが、制度設計の中であらゆる階層で少しずつ増えるようにしようと。
関西テレビ 神崎博報道デスク:ただ、当然ですが所得が高い人ほど、負担の割合が増える傾斜がついていますが、所得が少ない人ほど医療費に占める割合も増えるので、生活は苦しくなりますよね。 この制度設計の見直しは、もしかしたら必要かもしれません。でも、何もいないわけにはいかないので議論した上で、一番良い答えを見つけていかないといけないと思います。
(関西テレビ「newsランナー」2025年2月7日放送)