来る日米首脳会談を友好的に成功させるには、「ノーベル平和賞」というキーワードを忘れないほうが良さそうだ。

石破首相は7日にトランプ米大統領と首脳会談することが決まり、両国の友好関係を築く上で、大統領とどう対応するか関係者からさまざまな助言を得ているはずだが、今、大統領の脳裏を離れぬ関心事は「ノーベル平和賞」だと言われる。

パリで3者会談を行ったトランプ大統領、マクロン大統領、ゼレンスキー大統領(2024年12月)
パリで3者会談を行ったトランプ大統領、マクロン大統領、ゼレンスキー大統領(2024年12月)
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「トランプは中東問題でノーベル賞が欲しいので、多国間交渉を拒否してひとりで対応する」
(仏ルモンド紙英語電子版・1月31日)

「トランプがウクライナ問題で欲しいのはノーベル平和賞だ」
(英ザ・タイムズ紙電子版・1月17日)

「トランプはノーベル賞を狙っている。その筋書きはこうだ」
(米ワシントン・ポスト紙電子版・1月17日)

米英仏の有力紙が揃って伝えているので間違いないだろう。

第1期在任中に推薦されるも受賞逃す

トランプ大統領は2017年に第1期就任後、報道されただけでも4回ノーベル平和賞に推薦されている。

米朝首脳会談(シンガポール・2018年)
米朝首脳会談(シンガポール・2018年)

⚫️2019年 
北朝鮮との対話でアジアの緊張緩和に寄与した功績で日本の安倍晋三首相(当時)が推薦。

⚫️2020年 
中東のアブラハム合意に寄与した功績でノルウェーの国会議員が推薦。

⚫️2021年 
コソボの和平協定に寄与した功績でスエーデンの国会議員が推挙。また中東和平へ寄与した功績で豪州の法律家が推薦。

⚫️2022年 
国際外交に寄与した功績でノルウェーの国会議員が再度推薦。

「アブラハム合意」署名式。イスラエルとUAE、バーレーンが国交正常化(ワシントン・2020年9月)
「アブラハム合意」署名式。イスラエルとUAE、バーレーンが国交正常化(ワシントン・2020年9月)

なかでも、イスラエルとアラブの湾岸諸国やスーダン、モロッコなどとの関係正常化をもたらした「アブラハム合意」は、ノーベル平和賞に充分値すると思われたが、受章を逸した。

その一方で、前任者のバラク・オバマ元大統領は、就任1年目の2009年に「国際外交に努力を払い、世界中の人々に良き将来への希望を与えた」功績でノーベル平和賞を受賞している。

オバマ氏は2009年にノーベル平和賞を授賞(オスロ・2009年12月)
オバマ氏は2009年にノーベル平和賞を授賞(オスロ・2009年12月)

「オバマにできて、私にできないことはないはずだ」とトランプ大統領は折に触れてこう吐露し、ノーベル賞問題はトランプ大統領のある種のトラウマになっているようにも思える。

加えて今回2期目のトランプ政権は、憲法上あと1期4年しか任期が残っていない。周囲からは憲法を改正して3期目就任を可能にすべきだという声も上がり始めているが、そのためには2026年の中間選挙で「地滑り的」勝利を収めて、連邦議会や地方議会を与党共和党が制圧しておく必要がある。ノーベル平和賞はその選挙戦の「旗印」としてもってこいの存在だ。

「ノーベル平和賞」の話題で会談の雰囲気は…?

2025年のノーベル賞の推薦は1月31日に締め切られたので、トランプ陣営としては2026年の受賞を目指し、これから一年かけて国際平和をめぐる実績作りを行うことになる。

その舞台はやはり中東とウクライナだろう。中東問題ではすでに「ガザの住民をエジプトとヨルダンに転居させる」と、パレスチナ新国家建設とも思える構想をトランプ大統領は打ち出している。またウクライナ問題は、ロシアのプーチン大統領の首脳会談の行方次第という状況だが、いずれもこの数週間が成否を決する大事な期間とも言えるだろう。

また米国は、カナダやメキシコ、中国との貿易戦争もあって、今、大統領の心境は必ずしも穏やかとは思えない。そうしたタイミングで開かれる日米首脳会談は、放っておけば堅苦しい空気に包まれることが予想されるが、そこで石破首相が「ノーベル平和賞」の話題を持ち出せば、トランプ大統領が身を乗り出すように反応して、会談の空気が打ち解けることが想像できる。

大統領におもねる必要はないが、トランプ大統領が今も故・安倍元首相に信頼を寄せているのは、元首相がノーベル平和賞へ推薦したことに感謝しているからだとも言われることは覚えていた方が良さそうだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。