近年、日本国内でも竜巻注意情報が発表される頻度が高くなっている。2020年7月25日には、埼玉県三郷市で竜巻が発生し、家屋に被害が出た。2012年5月には、茨城県と栃木県で竜巻が起き、1人が死亡した事例もある。

天気予報などで事前に情報が得られる台風や豪雨とは異なり、突発的に出現する竜巻。自分がいる場所の近くで発生した場合、どのように身を守ればいいのか、竜巻に詳しい防衛大学校地球海洋学科の小林文明教授に教えてもらった。

竜巻は「温帯低気圧」「台風」に伴って発生

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「竜巻は、日本全国どこでも起こる可能性があり、発生してからたった数秒で被害に遭う危険性もあります。ほかの風水害と比べてスピードが速く、もっとも時間的余裕のない災害といえるでしょう」

竜巻が直撃すれば、建物が倒壊してしまうこともあるだろう。直撃しなかったとしても、近くを通り過ぎただけで、突風によって窓ガラスが割れることもあるという。

「竜巻で壊された物が飛散して、家の壁を突き破るケースもあります。電柱が倒れて、建物の一部が破壊されてしまうことも考えられます」

被害は甚大だが、どこで起きるかわからないとなれば、備えようもないのではないだろうか。

「いつ、どこで発生するかは読めません。ただ、日本で発生した竜巻の半分は温帯低気圧に、4分の1は台風に伴っていることがわかっています。積乱雲が発生しやすい状態の時に、竜巻のリスクが高まるといえるのです。温帯低気圧や台風が近づいている時は、さまざまな気象情報を確認することが大切です」

冷たい風に土の匂い…「五感」で察知できる竜巻の前兆

竜巻の観測においては、「数値的なデータだけでなく、肌感覚も大事」と、小林教授は話す。

「普段から空を見てほしいです。晴れの日も雨の日も台風の日も空を見ていると、『この空って普通じゃないよね』と、わかるようになると思います。その違和感が重要。竜巻には前兆現象がありますが、それらは視覚や嗅覚、聴覚といった五感で察知することができるものなのです」

■竜巻の前兆現象
・雷鳴が聞こえる
・積乱雲によって急に暗くなる
・雹(ひょう)が降ってくる
・冷たい風を感じる
・くさむらや土の匂いがする
・耳鳴りがする

竜巻が近づいている時は、上記のようなポイントが挙げられる。竜巻の内部は気圧が低いため、耳鳴りが生じることもあり、もし耳鳴りがしたら、竜巻がかなり近づいている証拠といえるそう。

アーク雲(画像提供/小林文明)
アーク雲(画像提供/小林文明)
かなとこ雲(画像提供/小林文明)
かなとこ雲(画像提供/小林文明)

「竜巻は巨大な積乱雲(スーパーセル)によってもたらされるので、雲の様子も見てみましょう。例えば、アーチ状に形成された『アーク雲』、積乱雲の頂上部が平らになっている『かなとこ雲』などが見られたら、注意すべきだと判断できます。外にいて異変を感じたら、頑丈そうな建物の中に逃げましょう」

「乳房雲」も竜巻の前兆現象として見られる(画像提供/小林文明)
「乳房雲」も竜巻の前兆現象として見られる(画像提供/小林文明)

竜巻が発生したら建物の「風通しの悪い場所」に避難

万が一、近くで竜巻が発生した場合は、どのように身を守ればいいのだろうか。

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「自宅にいるのであれば、風や割れたガラスの吹き込みを防止するため、雨戸やカーテンを閉めましょう。そして、身を置く場所は風通しの悪いところ。多くの家では、バスタブやトイレが特に安全度が高いといえます。竜巻の多いアメリカでは、バスタブに避難して助かったケースが何件も報告されているのです」

「日本の住居は、風通しを良くするように作られているために、2階の屋根が飛ぶこともあり得る」とのこと。バスタブやトイレなど、風が入って来にくいところに避難しよう。

「職場や学校、公共施設でも考え方は同じで、地下室や風が吹き込まない屋内の非常階段の踊り場などに避難。逃げる時間的な余裕がなければ、近くの机の下などに入り、飛散物から身を守りましょう。車での移動中は車内で待機せず、邪魔にならないところに車を停めて、頑丈そうな建物に避難しましょう」

窓やドアが多い建物、プレハブなどの仮設構造物はリスクが高い場所といえる。鉄筋コンクリートでできた建物の方が被害に遭いにくいと、覚えておこう。

小林教授いわく、「竜巻に関しては、『絶対に安全』といえる場所はない」とのこと。ただ、身を守る術を知っていれば、自分や家族の身を守り、被害を抑えられるかもしれない。
 

小林文明
防衛大学校地球海洋学科教授、理学博士。専門は気象学で、主たる研究テーマは積乱雲および積乱雲に伴う雨、風、雷。日本気象学会、日本風工学会、日本大気電気学会、アメリカ気象学会、アメリカ地球物理学会会員。著書に『Environment Disaster Linkages』『大気電気学概論』(ともに共著)、『竜巻~メカニズム・被害・身の守り方~』、『スーパーセル』(監訳)などがある。
http://www.nda.ac.jp/cc/eos/staff.html

取材・文=有竹亮介(verb)

プライムオンライン編集部
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