7年前に聴覚障害があった井出安優香さん(当時11歳)が亡くなった事故の損害賠償をめぐる裁判。

大阪高等裁判所は、金額を「全ての労働者の平均賃金の85パーセントが妥当」とした1審判決を変更し、平均賃金から減額せず100パーセントでの賠償を命じる判断を示した。

■画期的な判断に 父「奇跡が起きた」 母「安優香の11年の努力が認められた」

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1審の判断を覆した大阪高裁の判断に、安優香さんの両親は裁判終了後の記者会見で次のように述べた。

井出安優香さんの父・努さん:「100パーセント」認められたことは、時間がたつにつれて、奇跡が起きたという実感でいます

母・さつ美さん:安優香の11年の努力が認められたんだという気持ちになり、涙が止まりませんでした

■安優香さんは努力を重ねて会話ができるように

生まれつき聴覚に障害があった安優香さんだが、7歳の誕生日には…

母・さつ美さん:おめでとう!なんて言うの?

安優香さん:ありがとう!

努力を重ねて会話ができるようになっていた。

■「てんかん」持病とする男に重機ではねられ…

7年前、安優香さんは大阪市生野区で聴覚支援学校から帰宅中に、てんかんの持病がある男が運転する重機にはねられ、わずか11歳で生涯を終えた。

運転手の男は、懲役7年の判決が確定し服役しているが、安優香さんの両親は運転手の男とその会社に対し、損害賠償を求めて提訴した。

■将来得られるはずだった収入が争点 1審「85パーセント」に父「差別を認めた」

争点となったのは、安優香さんが将来得られるはずだった収入=「逸失利益」。

両親は「全ての労働者の平均賃金」での算定を求めていた。

しかし1審の大阪地裁(武田瑞佳裁判長)は、安優香(あゆか)さんに学習意欲や支援などが十分にあるとしながらも、「聴力障害が、労働能力を制限しうることは否定できない」として労働者全体の「平均賃金の85パーセント」と判断した。

父・井出努さん(2023年):結局は裁判所は差別を認めたんだな」

両親は控訴し、2審では聴覚教育学の専門家が証人として出廷。

聴力が、学力やコミュニケーション能力の発達に不可欠な要素ではないことや、安優香さんの成長が年相応であったことなどを証言した。

■大阪高裁が画期的な判断「減額する理由はないと言わなければならない」

そして20日、大阪高裁は逸失利益について、画期的な判断を下した。

大阪高裁の徳岡由美子裁判長は判決で「全労働者の平均賃金を用いるのが相当であって、減額する理由はないと言わなければならない」と述べた。

さらに安優香さんに学年相応の学力や高いコミュニケーション能力があったことや、障害者が働きやすい職場環境が構築されていると指摘。

「原則として平均賃金を使うべきであり、減額するのは顕著な妨げがあるとき」として逸失利益の算出を全労働者の平均から減額せず100%と判断する判決を言い渡した。

■父「100パーセントは当然 差別だと思って訴え続けてきました」

父・井出努さん:100パーセントになったのは当然だと思います。なぜなら娘は何の落ち度もありません。障害を理由にして(逸失利益が)減額されるのは、そもそも私は、この裁判はおかしいと差別だと思って訴え続けてきました。

母・さつ美さん:「安優香、11年間、本当にママ幸せだったよ」って。いろいろな「できる」・「わかる」を見せてくれて、「ありがとう」っていう言葉をきょう、家に帰ってたくさん伝えたいと思っています。

■「0歳から補聴器 努力が報われた」

安優香さんの両親は、安優香さんが自立、そして就職できるような環境を整えようと、家族全員で努力してきたという。

関西テレビ 加藤さゆり報道デスク:ご両親の記者会見も拝見したんですけれど、本当に聴覚障害者だからこそ、0歳から補聴器をつけて、一生懸命ご両親も努力されて、それに安優香さんもこたえてきてくれた11年だった。それがあったから、今回認められたんだけれども、本当に安優香さんの努力が認められたっていうことを素直に『ありがとうございました』っておっしゃっていました。

ただ、お父さんもおっしゃってましたけれども、それに対してもやっぱり誹謗中傷であるとか、二次被害を受けるっていうこともあったそうなんです。

本当にご両親が努力されたっていうことが、まず報われて良かったですし、これが奇跡ではなくて当然になっていく社会じゃないといけないと思います。

■「すべての人間の未来にあらゆる可能性 その扉開く判決」

共同通信社 太田昌克編集委員
共同通信社 太田昌克編集委員

「『障害があるから』ということではなく、一人一人を見てその将来を判断するという判例にしてほしい」と語ったnewsランナーの吉原キャスターに、番組コメンテーターの共同通信社の太田昌克編集委員も同意した。

共同通信社 太田昌克編集委員:やっぱりあらゆる人間は努力をするし、努力ができるってことですよ。その人間に対して、誹謗中傷なんてまずあってはならない。 私はすべての人間の未来が、あらゆる可能性があると思うんですね。その可能性に扉を開く今回の判決だと思いますね。

 (関西テレビ「newsランナー」2025年1月20日放送)

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