“復興のシンボル”とされた再開発事業が30年をかけてようやく完結したものの、かつてのにぎわいが戻っていない神戸市長田区の新長田地区。

再開発に翻弄(ほんろう)されてきた商店街の人々にとって、復興とは。

■【動画で見る】商業用スペースの6割が売れ残り…再開発事業に翻弄された30年

■街の変化に翻弄され続けた30年

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伊東正和さん(76)。神戸市長田区の大正筋商店街にある、お茶屋の2代目だ。

伊東正和さん:あったまってくださいね。

客:これおいしいねん。

街の変化に翻弄され続けた30年だった。

伊東正和さん:震災前はみんなが協力して夏祭りしたら人がいっぱいいてる。子どもたちも。その明くる年に震災が来たわけ。 なんとか家族のため、自分の店、街のためにできたことが頭では頑張ろうと思うけど、体力も気力も続かない。それを30年という時間で一番感じました。

かつての大正筋はさまざまな商店が並び、にぎわいの絶えない街だった。

伊東正和さん:みんなが隣近所も、ついでと言って掃除したりとかなんかあったら助け合う。人情味がある。

■大規模な火災で商店街はほとんどが焼失

1995年1月17日、震災で長田区では大規模な火災が発生。 大正筋商店街もほとんどが焼けてしまいました。

当時の商店主:商売やりたいですよ。1日でも早く。

お茶屋の伊東さんも、焼けていく店をなすすべもなく見つめるしかありませんだった。

■震災から半月後には、店があった場所に商品を並べ始めた

それでも、わずか半月後、店があった場所に伊東さんは商品を並べ始めた。

伊東正和さん:友達からベニヤ板や廃材を借りて台にして。お茶一筋で来たから、商売しかできない。

焼けた街に訪れる客の姿は、商店街の人たちの背中をそっと押した。

その年の6月には、伊東さんたちが中心になって立ち上げたテント型の仮設商店街「パラール」がオープン。

大勢の客が訪れ、店主たちも興奮。 商店街の復興に向けたシンボルにもなっていた。

伊東正和さん:あの時、皆の気持ちが一致団結したらできないことはないぐらい、みんなのためにというのが自然とあった。

■新しい設備も含めたビルの管理費が大きな負担。震災前から続けている店は、十数軒に

一方で、神戸市は震災から2カ月後、この地域での大規模な再開発を計画する。

土地を買い取り更地にして、巨大な商業ビルを建設し、その区画を商店街の人たちに売るというもので、震災前より多くの人が行き交う街になると期待されていた。

2004年、商店街の入るビルが完成し、ようやく店主たちが戻って来たときには、震災から10年近くが経っていた。

しかも、エスカレーターなど新しい設備も含めたビルの管理費が大きな負担に…。

1人、また1人と、街を離れていきました。 震災前から続けている店は、今や十数軒に減った。

伊東正和さん:いい意味のリタイアならいいのに、どうしようも行き詰まって自己破産して辞めていく姿も見てますから。それはないやろと。10年我慢してようやく戻ったのに、仲間の笑顔覚えていますからね。あの笑顔は今ないんですよ。

■計画の見直しを求める声は届かず…商業用のスペースは6割が売れ残っている

身の丈にあった計画への見直しを求める伊東さんたちの声は届かず。 震災から30年を目前にした去年11月。

神戸市・久元市長:神戸市が進めてきた再開発事業は“終結”することになります。

夢のような計画は完成したが、商業用のスペースは6割が売れ残っているのが現実だ。

神戸市・久元市長:当初の見込みと違った面もありましたので、これらをしっかりと検証し、今後のまちづくりに生かしていきたい。

■人口は震災前より増えたが、商店街のにぎわいはもどっていない

人口は震災前の1.4倍に増えましたが、商店街のにぎわいは戻っていない。

この日、伊東さんは自身と同じく震災前から営業している帽子店を訪れた。

伊東正和さん:今までも人が来るようなベントとか色んなことしてきたやん。

帽子店の店主:もがいとったけどな。

伊東正和さん:もがくことあきらめたら沈むだけやん。神戸市のトップとして検証だけで終わらずに。頑張ってきた人にどういう応援するか具体的に教えてほしい。抽象的なことはいらない。

これからも続いていく長田の街づくり。 伊東さんは店頭に立ち続けています。

高齢の客:(財布からお金)とって。

伊東正和さん:細かいほうがええ?

高齢の客:なんでもいい。軽なった(笑)

伊東正和さん:軽なったやろ(笑)僕に会いに来てね。また。

人とのつながりを大切にすることは、変わらない。

(関西テレビ「newsランナー」 2025年1月17日放送)

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