「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を旗印に、同盟国に領土の割譲を求めたり高関税を課すなどと威嚇するトランプ次期米大統領が、その一方でライバルの中国とは関係改善をはかる「チャイナ・ファースト(中国第一主義)」とも言えるような対話を舞台裏で始めていることを明らかにした。
中国側と「良い関係を築ける」トランプ次期大統領が明言
トランプ次期米大統領は6日、保守派の司会者ヒュー・ヒューイット氏のラジオ番組に出演し、政権のあり方を説明する中で次のように述べた。
Transcript of this AM interview w/ President-elect Trump: https://t.co/3NDuEPreDW Complete audio here: https://t.co/1amSvkSX0p You cannot trust legacy media to report a summary or a headline. Read or listen to it for yourself.
— Hugh Hewitt (@hughhewitt) January 6, 2025
ヒューイット氏:
さて、習近平氏ですが、彼は実際にはあなたのライバルです。アメリカに匹敵するほど強い人物は彼だけです。彼はタフな人物ですね。あなたは彼とうまくやっていけますか?
トランプ次期大統領:
うまくやれると思いますよ。知っての通り、彼らの経済は現在あまりうまくいっていません。
ヒューイット氏:
そうですね。
トランプ次期大統領:
そして彼らは我々を非常に必要としています。うまくやれると思いますよ。
新型コロナウイルスまでは、習主席とは非常に良い関係を築いていました。それが大きな分岐点となりましたが、それまでは非常に堅固で強力、そして友好的な関係でした。
彼は強い男で、力強い人物です。中国では確かに尊敬されている人物です。しかし、彼らは問題を抱えており、おそらく我々は非常にうまくやれるだろうと予測しています。しかし、それは相互的でなければなりません。中国はアメリカから年間1兆ドルを搾取しています。1兆ドルは多いと思いませんか?
ヒューイット氏:
そうですね。
(中略)
トランプ次期大統領:
しかし、私は非常に良い関係を築けると考えています。そして、すでに代表者を通じて話し合いを進めています。
ヒューイット氏:
初めて彼と対面する時は非常に興味深い出会いになるでしょうね。
トランプ次期大統領:
彼らの代表者を通じて話を進めており、対話を続けています。

これは、トランプ次期大統領が2期目へ向けて裏で北京と接触を始めていることを初めて明らかにしたもので、“トランプ2.0”は中国との友好的な関係を築くことを目指している、と示唆したものと受け止められている。(「ザ・ヒル」7日「トランプのアメリカ・ファーストはアメリカ拡張に」)
「チャイナ・ファースト」中国への対応に変化
トランプ政権第1期は、中国との貿易問題や最終的には新型コロナウイルス問題をめぐって対立してきたが、第2期はまだスタートする前から中国への対応が大きく変わったことが注目されていた。

まず2024年12月初旬、トランプ次期大統領がその就任式に中国の習近平国家主席を招待したと伝えられた。中国側は応じなかったようだが、この異例の招待について次期大統領の側近は「競争相手といえども、開かれた対話を生み出そうとしている」と言い、トランプ氏側から中国への関係改善の呼びかけだったと考えられた。
続いて2024年12月27日、トランプ次期大統領は2025年1月19日に発効する予定だった中国系の動画共有アプリ「TikTok」禁止法について、自身が大統領に就任した後に交渉を通じて解決できるよう求める意見書を連邦最高裁に提出した。

この禁止法は、TikTokが中国の情報収集手段だとバイデン政権が安全保障上の懸念から成立させたものだったが、それを新トランプ政権が実質的に覆そうとしたことは、やはり中国に好意を示すッセージであったと考えられた。
そして今回の次期大統領自身の発言である。トランプ次期大統領の「アメリカ・ファースト」は「チャイナ・ファースト(中国第一主義)」ということにもなりそうだが、実はそれを予言する分析があった。
「アメリカ・ファーストは、2025年の世界をいかに変貌させるか」(英紙「フィナンシャル・タイムズ」電子版2024年12月28日)という表題の記事は、トランプ大統領の発言などを分析して5つの可能性を提示しているが、その筆頭が次のような可能性だ。

「新たな大国間取引、トランプ氏の取引主義的な性質、戦争を回避する決意、民主的同盟国へのcontempt (さげすみ)が、アメリカをロシアおよび中国との新たな大規模取引へと導きます。アメリカは暗黙のうちにロシアと中国に地域内での影響圏を認め、自国の地域での支配に集中します。メキシコやカナダへの圧力を強め、パナマ運河の奪還やグリーンランドの支配を目指します。
トランプ氏はウクライナに和平を強要しますが、安全保障の保証は伴いません。ロシアへの制裁は緩和され、プーチン氏がマール・ア・ラーゴ(トランプ次期大統領の自宅)の感謝祭ディナーに招かれるかもしれません。
中国との取引では、アメリカの技術規制や関税を緩和する代わりに、中国によるアメリカ製品の購入や、テスラのようなアメリカ企業への優遇措置が含まれる可能性があります。
トランプ氏はまた、台湾防衛への関与の意欲の欠如を示唆するでしょう。ヨーロッパやアジアのアメリカ同盟国は、新たな不安定な環境で自国防衛を模索することを余儀なくされます」
つまり、トランプ新政権は新たな「強者同盟」を結成し、中国、ロシアと経済や安全保障上の関わりを強め、その一方で従来の同盟国に対しては「さげすみ」の念から、防衛の責任も放棄するようなことになるだろうというのだ。
「さげすまれる」側に入る日本の、生き残る術や如何に。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】