高齢化に加え、運転手の時間外労働の制限を強化する「2024年問題」の影響で深刻な担い手不足になっている運輸業界。なかでも、路線バスは、全国各地で減便や路線の廃止が相次ぎ、地域の移動の足を脅かす事態が起きている。こうしたなか、鳥取市では、近い将来の実用化を目指し、公道を使って「自動運転バス」を運行する実証実験が繰り返し行われている。

2024年12月に行われた3回目の実証実験からは、実用化に向け、山積する課題も浮き彫りになった。

「レベル4」対応の自動運転バスで実証実験

鳥取市内を走る白いボディのバス。車体のあちこちに、カメラやセンサーが取り付けられている。2024年12月に行われた自動運転バスの実証実験だ。

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実証実験に使われているのは、愛知・名古屋市を拠点にするソフトウェア会社「ティアフォー」製の小型EV自動運転バス「Minibus」。全長7.2メートル、幅2.3メートル、高さ3メートル。定員は運転手を含め25人。最高速度は時速35キロ、2時間の充電で約150キロ走行できる。

車体の前方、後方などに16個のカメラを搭載し、障害物や人を検知、センサーで障害物との距離を計測し、約100メートル手前から自動で減速し、停止する。

「未来はこうした形に」鳥取市で3回目の実証実験

鳥取市で自動運転バスの実証実験が行われるのは、これが3回目だ。2022年に鳥取砂丘周辺で最初の実証実験が行われたあと、2024年1月から2月にかけて中心市街地で実施された。

3回目の今回は、これまでの結果を踏まえ、中心市街地で、コースを変更して運行された。
試乗を終えた鳥取市の深澤市長は「かなり進化した点があった。未来はこうした形で運行されることになると思う」と感想を述べた。

実証実験で自動運転率9割以上目指す

今回の実証実験の目標のひとつは自動運転率の向上。前回、2024年1~2月の運行では、自動運転ができたのは約8割。残る2割は乗務員による操作が必要だったという。

今回の実証実験について、鳥取市交通政策課の宮谷卓志課長は「自動運転率9割以上目指している。100%に近づけて、なるべく早く無人で運転できるように」と目標を掲げる。

これまでの結果を踏まえて、手動での運転が必要になることが多かった右折の回数が少なくなるよう、反時計回りの周回コースを設定。赤信号で確実に停車するため、コース上にある信号機のデータと連動させたほか、路肩に止まる車を自動運転で避けられるようプログラムを改修したということだ。

また、実際の運行を想定して、途中4か所の停留所を設けた。

今回の走行は、運転手が状況に応じてハンドルやブレーキを操作する「レベル2」相当の自動運転だが、鳥取市が目指すのは、特定の条件のもとでドライバーが不要となる「レベル4」の認可取得。ルートの一部について、2025年度の取得に向けて、自動走行の精度向上を図るとしている。

7年で運転手3割減 バス路線存続の危機

鳥取市が自動運転バス導入を目指す背景にあるのは、運転手不足と将来のバス路線の維持だ。

鳥取県バス協会によると、鳥取県内では、2016年度末に544人いた運転手が、2023年度末には399人と約3割減少。車両も85台削減された。
鳥取市内では、この10年間で青谷町や気高町など7地区でバス路線の短縮や廃止、減便が相次いでいる。

担い手不足対策へ 業界も「自動運転」に期待

鳥取県バス協会の橋本孝之専務理事が「運転手は減っていたが、コロナ禍での移動抑制などでバスの需要が急激に減り、10年分の減少に相当すると表現する経営者もいる」と指摘するように、新型コロナの感染拡大が運転手不足に追い打ちをかけた。

一方で、県内のバス運転手の平均年齢は60歳と高齢化が進む。県バス協会の橋本専務理事も「業界としては、運転手の補完につながり、活性化への大きなインパクトとなる」と自動運転バスの導入に期待を寄せている。

公共交通の維持へ 関心高めるきっかけにも

今回の実証実験では、技術面の検証だけでなく、導入に向け、事業性などの課題を洗い出し、市民に自動運転への理解を深めてもらうのも目的だ。

鳥取市交通政策課・宮谷卓志課長は「公共交通は皆さんが利用しないと残らないんだと再認識していただき、そこから課題の共有ができたら」と実証実験のもう一つの目的について説明する。

実証実験の期間中に開かれた市民向け試乗会には400人以上が参加、最先端の乗り物を体験した。
試乗した市民からは「走行中、ちょっとガクっとくるところがあるけど、安心できる。便数が増えればいいと思う」、「安全すぎるぐらいのマージンをとっている気がする。こういう乗り物が増えてくるんでしょう」とおおむね歓迎する声が聞かれた。

課題山積も公共交通活性化の起爆剤に

鳥取市は、今後も実証実験を重ね、将来は有料の路線バスとしての導入を目指している。
具体的な導入時期は未定だが、鳥取市交通政策課の宮谷卓志課長は、今後、効率的な運行体系の検討やメンテナンス態勢、費用面が課題になるとしたうえで、自動運転バスの導入を担い手不足の解消に加え、公共交通全体の利用増加につなげたいと話した。

(TSKさんいん中央テレビ)

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