私たち生命の「起源」は過酷な宇宙空間を渡って地球にたどり着いたのかもしれない…

東京薬科大学の山岸明彦名誉教授ら研究チームが、ある細菌を宇宙空間にさらしたところ、3年経っても生き残っていたことを突き止めた。つまり、この細菌が火星と地球を移動する間は、生存可能であることを示したと説明している。

山岸名誉教授によると、火星と地球の間を自然に移動するには平均数千万年かかるが、最短ではは数カ月~数年。「生命が惑星間を移動可能であるならば、地球上の生命は火星で誕生した可能性もある」とし、 “微生物が宇宙空間を移動するのではないか”というパンスペルミア仮説を支持する結果になったという。

出典:東京薬科大学リリース
出典:東京薬科大学リリース
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実験が行われたのは地表から400km上空を飛行する国際宇宙ステーション。2015年8月から日本実験棟「きぼう」の船外に、微生物や有機物などを入れた試料ユニット20個を並べた縦横10cm厚さ2cmの「曝露パネル」が3枚取り付けられた。

出典:東京薬科大学リリース
出典:東京薬科大学リリース

国際宇宙ステーションのある空間は、もちろん空気のない真空状態で気温は-42度~29度、地表ではオゾン層がさえぎる有害な紫外線や、地上の約200倍の放射線も降り注ぐという。

この環境にさらした「曝露パネル」を1年ごとに1枚ずつ回収し、2018年に回収された最後のパネルを調べたところ、デイノコッカス・ラジオデュランスという細菌の数%が生き残っており、培養すると再び増殖を始めたのだ。

検証の結果として、この細菌は紫外線を浴びる状態では数年、浴びなければ数十年は宇宙で生存できることが分かったという。

そもそもこの実験は、「パンスペルミア仮説」を検証する計画の一環として実施されたもの。
生命の起源については他にも様々な仮説が唱えられており、人類に遺された大きな謎の一つとなっているが、果たして本当に宇宙を渡ってきたのだろうか?

研究を行った山岸名誉教授は、生命がどこから来たと考えているのか? また他にも宇宙で生きていけそうな生物はいるのか?ご本人に聞いてみた。
 

生存した菌は地球のどこにでも存在

――そもそもデイノコッカス・ラジオデュランスはどんな細菌?

デイノコッカスは、放射線・紫外線・乾燥に対する耐性が非常に強い事で知られています。土壌等どこにでも存在する菌です。
 

同じデイノコッカス属の細菌(提供:山岸名誉教授)
同じデイノコッカス属の細菌(提供:山岸名誉教授)

――宇宙にさらしていた時はどんな状態だった?

デイノコッカスの試料を直径2mmの穴に詰めて乾燥させたものを宇宙曝露しました。乾燥した状態では菌は仮死状態になっています。
 

宇宙で曝露させた菌の塊(提供:山岸名誉教授)
宇宙で曝露させた菌の塊(提供:山岸名誉教授)

生命が、火星あるいは金星からやってきた可能性はある

――今回の検証から生命の起源は他の星からきたと考える?

今回の結果は、「生命」が移動するという事があるかも知れないという可能性を高める結果です。ただし、「生命」が移動するためには、ある惑星から脱出して、惑星から惑星へ移動して、他の惑星にたどり着く、すべての過程の頻度と、その過程でどの程度生存可能かが分からないといけないので、まだ本当に移動可能かどうかは分かりません。

ただし、生命が地球上で誕生したという証拠もまたないので、別の惑星、火星あるいは金星からやってきた可能性はあると考えています。もちろん、火星あるいは金星で生命が誕生したかどうかを調べなければこれもわかりませんが。


――では、人間がこの菌と同じ宇宙環境にさらされたらどうなる?

真空にさらされると、血液を含めて体液が沸騰してしまうため、すぐに死んでしまいます。紫外線が直接皮膚にあたるとすぐにやけどの症状を起こします。放射線は地上の約200倍の強度(232mGy/年)ですが、ヒトの致死量(7000mGy/年)に比べるとはるかに低いので死んでしまうことはありません。


――宇宙で生き残りそうな生き物は他にもいる?

枯草菌の胞子が紫外線を遮ればかなり長期間生存できることが知られています。ユスリカの幼虫やクマムシも宇宙空間で短期間なら生存できる事が知られています。他の微生物が生存できるかどうかは、チームの研究者が調べようとしています。
 

山岸明彦名誉教授
山岸明彦名誉教授

山岸名誉教授は、もっと地球から離れた場所での曝露実験や、火星・金星で微生物を探す研究を考えているという。人類の祖先は他の星からやってきたのか? 研究成果の進展を期待して待ちたい。

 

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プライムオンライン編集部
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