2024年夏に起こった「令和の米騒動」。コメの店頭価格が上昇し、消費者に困惑が広がる一方で、物価が上がっても長年コメの価格が据え置かれ、手取りが増えなかった農家にとっては、農業を続けるための“原資”となっている。米騒動の“その後”を取材した。

2023年の猛暑やインバウンド需要増から“コメ不足”に

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全国の多くのスーパーからコメが消えた「令和のコメ騒動」は、2023年夏の猛暑で主食用として市場に流通するコメの量が減ったことや、外国人観光客、いわゆるインバウンド需要などが要因とされている。

農家は収入増に

コメ不足を受けて、JA福井県はコメの集荷の際、農家に支払う「内金」を大幅に引き上げた。農家の収入は、JAと契約するコメ農家の場合、JAに出荷する際に支払われる前払いの「内金」と、販売の見通しが立つ12月に追加で受け取る「精算金」、さらに翌年12月に支払われる「最終精算金」の大きく3段階に分かれている。2024年は、この内金・精算金ともに大幅に引き上げられた。コシヒカリの内金は玄米60キロ当たり前年より4500円アップし17200円。卸売業者への販売価格も11月契約分から引き上げたため、精算金も前年の300円から2000円にと、異例の引き上げ幅となった。

農家に支払う金額を上げるのに伴い、卸売業者への販売価格も11月契約分から引き上げられた。店頭に並ぶコメの価格には、生産コストや流通経費の上昇分が転嫁され、高値が続いている。 

では、実際にコメ農家の収入はどうなったのか。福井テレビが1年を通して取材してきた福井市岡保地区の農事組合法人「こうすい」の吉田優一郎さんを、再び訪ねた。「こうすい」では約33ヘクタールで5種類のコメを生産している。関係者が食べる分を除いた約7割を、JAと民間の卸会社などに半分ずつ出荷している。

「15年以上、コメの売り上げは据え置きだった」

吉田優一郎さんは「騒がしい一年でしたね。コメが高くなった、どうして高いのという話を聞くが、生産者側としてはそれを言われると辛い。コメの売り上げは15年、16年変わっていなかった。生産費は2割から3割上がって経営が圧迫されていた」と話す。

全国的なコメの品薄により、この夏、JAの提示した内金は大きく引き上げられた。吉田さんは「JA価格をベースに他の民間事業者も価格を決めていく。ただしJAより少し高い値段で買うので、今年はお互いがけん制しながら価格が上がっていったと私は思っている」と分析する。この結果「こうすい」ではコメの売り上げが、これまでの3000万円前後から4300万円に、4割ほど増えた。

ようやく踏み切れた設備投資

吉田さんが、格納庫にある新しいコンバインを見せてくれた。これまではコメの価格が上がらず、収支の面から二の足を踏んでいたが、ようやく新しい機械の導入を決めた。「大型機械を使った営農が当たり前になってきていて、機械に頼らざるを得ない。大事に使っていてもトラブルが発生して作業が止まるが、なかなか更新できなかった。来年から新しい機械で気持ちよく作業できるかな」と期待を込める。

人口減少や高齢化による担い手不足で、農地は集約され農業は大規模化してきた。農家にとって、大型機械の導入は欠かせない投資で、今回のコメ価格の上昇は、生産者がコメづくりを続ける一助となっている。

生産量目安が2.2%増

県やJAなどがつくる県農業再生協議会は、2025年産の主食用県産米の生産量の目安を、2024年産の目安より2.2%増やすと発表した。吉田さんは「主食用のコメを作る面積が増えるのは素直にうれしい」と話し「このまま価格も含めて安定してほしい」と期待を込めていた。

消費者にとって、主食であるコメの価格が上がることは生活に直結する深刻なことだが、後継者不足や大規模化による設備投資に頭を悩ませる農家にとっては、重要な“原資”になっている面もある。

国やJAは日本の農業のかじ取りをどう進めていくのか、注視する必要がある。

福井テレビ
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